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ダンテ戦記  作者: ドンキー
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海上要塞

 陣地で海戦の一報をやきもきしながら首を長くして待っていたバルドは、使者に思わず詰め寄った。

「どうだった?」

「我が王よ。お喜びあれ、我らの勝利です」

 力を込めて報告する使者にバルドは、思わず声をあげた。

「よしっ、いいぞ」

 次の時代の戦場を左右するであろう浮遊石の海路上の安定調達に目処が立ったのだ。その喜びは誰にも増して大きかった。戦勝の様子を細々と伝える使者にうなずきながらバルドは、尋ねた。

「それでカーラは、どうしてる?」

「ははっ、それが怪我を負われまして」

「何だと」

 バルドは顔色を変えた。

「命が危ういのか?」

「いえ、まずはご無事だとの事でございます」

「そうか」

 バルドは安心した様にため息をついた。

「分かった。陣中見舞いをやろう」

 バルドはすぐさま、部下に命じた。

「カーラを労って来い」

「かしこまりました」

 慌てて走っていく部下の背中を見送ったバルドは、そのまま使者も下がらせ、一人になると机の前に歩み寄るや仁王立ちになり、机上の地図を見下ろした。

 地図の西半分の要所は全てバルダロス軍の旗が立っている。そして、今、ゼノスへの航路たる海上にもバルダロスとカーラ水軍の旗が立った。着々と世界制覇への機は熟しつつある。

「さて、次は」

 バルドはある地域へと目を向けた。そこは目下、バルドが自身の武将に進軍させている地域なのだが、どの武将もなかなか結果が出せず敗北が続いていた地域だった。だが、ドリアニアとの海戦を終えた今、後顧の憂いはなくなった。バルドが自らその地域へと出向くことが出来るようになったのだ。

「目にモノ見せてくれよう」

 バルドが地図を睨むその地域というのは、北方の海に面した地域だった。そこには陸上からやや離れた島をぐるっと城壁で囲んだ海上要塞があり、その海上要塞を落とさないことには先へ進むことが補給路上困難となっていた。なお、オケアニス海と南方の海はカーラ水軍が制したものの北方の海においてはドリアニア軍が制海権を持っている。

「今度ばかりは、カーラ水軍を当てには出来ない」

 それだけに、バルドは自身の兵のみでこの海上要塞を陥す必要があった。


 その頃、海戦を終えて港に戻ったカーラは、帰りに着くダンテ達と会っていた。

「お頭」

「大丈夫だよ、バリー」

 カーラはバリーの手を借りながら、ダンテ達の前まで来ると明るく言った。

「今回は、浮遊石砲のことと言い、本当に世話になったね」

 そう頭を下げつつ、続けた。

「でもおかげでドリアニア軍に勝つ事が出来たよ。バルド王にもよろしく伝えておいてくれ」

「分かった」

 ダンテは、うなずきカーラの元を去っていった。その特にダンテの背中を見送りながら、カーラはふっと小さく笑った。そんなカーラを不審に思ったバリーが尋ねた。

「お頭、どうかしたのかい?」

「あぁ、なんでもないよ。ちょっとね」

 カーラは、首を振り虚空を見つめながら呟いた。

「さてと……あの娘は、どうしてるかね」


「そうか、カーラが勝ったか……」

 エセルは、部屋の中で一人、ほくそ笑んだ。連日、ゼノスの賭場は大賑わいで出来高も最高値を更新している。その上がりは全て胴元であるエセル一味の元に入ってくるのだ。だが、そんなバルダロス及びカーラ水軍とドリアニア軍との戦いも佳境に差し掛かっている。最終決戦がそこまで来ているのだ。

「いよいよこの賭場も終盤だな」

 その大仕上げが迫る一方、エセルはある準備に追われていた。

 不意に部屋入って来た人物がいる。白髪白髭のグレゴリーである。

「エセル、調子はどうだ?」

 グレゴリーはエセルのお腹に目を細めて尋ねた。

「大分、大きくなって来たぜ」

 エセルは、膨らみ始めたお腹に手を当てた。

「あんたが言った通り、作ったぜ。これでいいんだろう」

 グレゴリーは、満足げにうなずいた。そんなグレゴリーにエセルは、ニンマリほくそ笑みながら言った。

「まさかダンテも自分の子が出来ているとは、夢にも思わないだろうけどな」

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