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ダンテ戦記  作者: ドンキー
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決着

 接舷斬り込みを繰り出して来るデズモンドをカーラは、自らの水兵を持ってして一斉に出迎え、壮絶な斬り合いに発展した。

「危ない。チコ!」

 船内ではチコに降りかかる剣をダンテは振り払うと庇うように立ち塞がった。

「カルロ、チコを守ろう」

「よし、いいぜ、兄弟」

 ダンテとカルロは揺れ動く船の中で必死にチコを守りつつ、戦った。

 甲板では血飛沫が飛び散る中、飛び移って来るドリアニアの兵をカーラは巧みに剣で捌いて行く。だが何分、数で負けている。捨身で来るドリアニアの兵の攻撃を防ぎながら、カーラは遠方のザックスの浮遊艦隊を見た。

「まだか、ザックス」

 ザックスはカーラの元に急行している。これが艦隊の危機であり、最大の戦機なのだ。だが、距離がある。ドリアニア軍の砲撃を受けながら、ひたすら決戦の地に急行した。


 窮地にいるのはデズモンドも同じだ。最後の賭けに打って出た以上、ここでカーラを討ち取らねば後はない。カーラの増援が来るまでに決着を付ける必要があるのだ。

「俺が行く」

 デズモンドは、立ち上がると剣を引き抜き、自らカーラの船に乗り込んで剛腕を奮ってカーラの水兵をなぎ倒していった。そのカーラ目掛けて迫って来るデズモンドの前に立ち塞がる人影があった。バリーだ。

「俺が相手だ」

 そう剣を構えるバリーにデズモンドは、ニンマリほくそ笑んだ。

「よかろう」

 バリーとデズモンドは、揺れ動く船の上で互いに剣をぶつけ合った。剛腕を持ってして力任せに攻め立てるデズモンドにバリーは、巧みさで持ってして立ち向かい、両者は互いに一歩も譲らない。二人が決死の戦いを繰り広げている間も二隻の船は船の横腹をぶつけ合い、牽制を繰り返している。その様相は、死闘と呼ぶにふさわしいものだった。

 だが、船体で劣っているカーラの船は終始押され気味だ。そこへトドメとばかりに隣接するほどの至近距離でデズモンドの船の巨砲が火を吹きカーラの船に炸裂した。その致命的な一撃を受けカーラの船は大いに揺らぎ、そこに足を取られたバリーは大きくよろめいてしまった。

 たちまちデズモンドの大剣がバリーに降りかかった。絶体絶命となったバリーが覚悟を決めたそのとき、デズモンドの大剣を迎え撃つ剣が現れた。カーラだった。

「お頭!」

 九死に一生を得たバリーが見つめる中、カーラはデズモンドに言った。

「デズモンド、一歩遅かったね」

 そのカーラの上空から急接近で駆けつけたザックスの浮遊艦隊が現れ、カーラの船に水兵の援軍を送り込んで来た。数を得たカーラは勢いを取り戻し、たちまち形勢は逆転した。デズモンドはその状況に舌打ちした。

「ふん、命拾いしたな」

 デズモンドは吐き捨てるように言うと大剣を捨て、背後を振り返り自身の船に舞い戻ると部下に叫んだ。

「やれ!」


 デズモンドが自らの船で何やら部下に命じているのを見たチコは、目を見開いて大声で叫んだ。

「ダンテ、カルロ、伏せて!」

「ど、どうしたんだ。チコ?」

 ダンテとカルロがキョトンとしていると突如、デズモンドの船が轟音を響かせて粉々に吹き飛んでしまった。自爆である。デズモンドは部下に船に残されたありったけの浮遊石を一気に作動させたのだ。

 物凄い爆発が起き、衝撃は隣接するカーラの船にも及び、船体もろとも薙ぎ倒され、船は傾いて行った。

 なんとかチコの言うとおり床に伏せていたダンテとカルロは、傾く船体の中で起き上がると甲板に出た。マストが折れ、散々になったカーラの船を眺めながらダンテは叫んだ。

「チコ、カルロ、船から逃げるぞ」

 三人は、息を揃えて船から海に飛び込んだ。と、船に残された浮遊石が誤作動で反応しカーラの船も木っ端微塵に吹き飛んでしまった。


 海の上に叩きつけられたバリーは、瓦礫が散乱する海の上を夢中で泳ぎ必死にカーラを探した。

「お頭!」

 やがて、気を失って浮かんでいるカーラに近寄るやその身を抱え上げた。

「お頭、しっかりしてくれ」

 必死に叫ぶもカーラの反応はない。そのうち味方の船が短艇を下ろしてやって来た。バリーとカーラが引き上げられ、動かないカーラにバリーが人工呼吸を施し始めた。

「頼む、お頭、息を吹き返してくれ……」

 必死に形相で蘇生処理を繰り返す中、バリーは戦いを前にカーラから言われていたことを思い出した。


『もしもあたいに何かあったときは、バリー、お前にこの水軍を任せる』

 自著した引き継ぎ書を見せながらそう告げるカーラにバリーはかぶりを振った。

『この水軍はお頭のものだ。俺の手には負えない』

『バリー、そう言うんじゃないんだ』

 カーラは、バリーの手を握りしめ言った。

『あたいは結局、お前を一番信頼しているんだ。頼む。そのときは引き受けてくれ』

 そこにそれ以上の言葉は要らなかった。お頭と部下を超えた思いがあったのだ。止むを得ずバリーはカーラにうなずいた。


 そのことを思い起こしながらバリーは、カーラを見た。そして、言った。

「頼むお頭、息を吹き返してくれ、お頭のいない世界なんて、俺にとってはなんの意味もない。そんなの……俺は耐えられないんだ!」

 そのとき、カーラがぴくりと動いた。

「お頭!?」

 カーラが咳き込み、やがて、ゆっくり目を見開いた。

「バリー……」

「お頭!」

 バリーはすかさず、カーラの手を取った。その手をカーラは握り返す。それを受けてバリーはカーラ寄り添い咽び泣いた。

「よかった……お頭……」


 結局、カーラ水軍とバルダロス軍の連合艦隊とドリアニア艦隊との戦いの第一幕はカーラが率いる連合艦隊の勝利に終わった。これにより、バルドはカーラ水軍を通じて引き続き、ゼノスへの航路を獲得し続けることに成功したのだった。

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