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ダンテ戦記  作者: ドンキー
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風向き

 お互いの艦隊はぐんぐんと距離を縮めている。バリーはドリアニア艦隊を見ながらカーラに叫んだ。

「お頭、もう射程に入ってる」

 だがカーラは黙って仁王立ちのまま微動だにしない。不意に風向きが変わった。南に吹いていた風が東に変わったのである。

「今だ」

 機を見たカーラは、右手を振り上げた。たちまち縦陣で連なる全艦隊が右へと転進し始めた。敵前での大回頭である。それを見たドリアニアのデズモンドは、一斉に命じた。

「砲撃開始っ!」

 たちまち浮遊石砲が火を噴き物凄い数の砲弾がカーラの連合艦隊に降り注いだ。風を切り飛来する砲弾が船をかすめ、凄まじい水飛沫を立てていく。周囲が殺気立つ中、カーラは仁王立ちを崩さない。その表情には確信めいたものがあった。

「カーラは何で撃ち返さないんだ?」

 周囲が騒然とする中、カルロは怪訝な顔をした。今、まさに艦隊の周囲に砲弾がまき散らされているのである。撃ち返さなければ勝てないのだ。ダンテもカーラの真意を測りかねていた。だが、チコは言った。

「きっと、時を待っているんだよ」

「時を待つ?」

 聞き返すダンテとカルロにチコは、黙ってうなずいた。

 事実だった。カーラは浮遊石砲を分析していくうちに、波に揺れる海上での砲撃戦で標的に弾を命中させることがいかに困難であるかを見抜いていた。現に砲弾は飛来するものの命中するものは決して多くない。ある距離まで近づいてからでないと砲撃戦は意味がないのだ。

 ならば無駄弾を避け出来るだけその距離に詰めた段階で命中する確率を高める必要がある。砲弾が周囲に飛散する中、カーラはひたすらその時を待った。

 やがて、全艦隊が右旋回を終えた。ドリアニアの艦隊に対し風上に位置を取ったのだ。距離も頃合いである。満を持してカーラは命じた。

「全艦、砲撃開始!」

 凄まじいばかりの反撃が開始された。カーラの連合艦隊の狙いは、敵将船と思しきデズモンドの船一隻である。カーラはあらかじめ全艦隊に確固にバラバラの目標を狙うのではなく、ある一隻に絞って砲劇することを命じていた。その一隻であるデズモンドの船にカーラの全艦隊の砲弾が集中した。


 カーラの連合艦隊の一斉射撃を受けたデズモンドの船はたちまち周囲を粉々に粉砕されて行った。射速に物を言わせ次々に弾を送り込むカーラの連合艦隊の浮遊石砲の前に砲手は次々に動揺し始めた。

「うろたえるな!」

 デズモンドは腰砕けになる味方の砲手の尻を蹴り上げ、目の前のカーラの連合艦隊を睨んだ。

「所詮は、射速だけの軽砲だ。恐るな!」


 カーラの連合艦隊とドリアニアの艦隊は互いの浮遊石砲を砲身が焼けただれるまで撃ち続けた。射速に物を言わせるカーラに対し、一撃必殺の巨砲で挑むデズモンドの決戦は、一進一退の攻防となっている。だが、次第に風上を得ているカーラが押し始め、それに対しドリアニアの艦隊は初めの無駄弾が祟って弾切を起こし始めた。

 だが、互いの距離はもはや目前である。起死回生をもくろむデズモンドは肉薄しての接舷斬り込みを目論んだ。だが、カーラはそれを巧みにいなしドリアニア艦隊の頭を抑えるべく舵を取った。まっすぐ進む相手に対し横腹を向けるのである。それは自ら防御を捨てることに他ならない。だが、その分、横に並べた浮遊石砲を全て使える攻撃一点張りの戦法と言えた。この賭けは吉と出た。

 遂にドリアニア艦隊が崩れ始めたのだ。

「勝てる……」

 カーラは、思わず意気込んだ。だがここでカーラはミスをする。敵が逃げを打つを見込んで旋回をしたのに対し、デズモンドはさらなる肉薄で臨んできたのである。将船同士の一騎討ちである。

 それを上空から見て取った船がある。ザックスの浮遊艦隊である。ザックスは命じた。一騎討ちに駆けつけるべく急行し始めたのだ。

「間に合うか……」

 もし間に合えば、それで勝負は決するのである。タイミングとしてはギリギリだ。ザックスはそこに賭けることにした。


「カーラをやれ!」

 ぐんぐん迫るデズモンドの船の巨砲が遂にカーラの船を貫いた。物凄い威力である。たちまち船は傾き浸水が発生した。それを船員が必死に防ぎつつ、目の前に迫りつつあるデズモンドの船に息を飲んだ。

「やはり最後は、こうでなるね」

 覚悟を決めたカーラは、剣を鞘から引き抜き、バリーに白兵戦の準備を命じた。

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