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ダンテ戦記  作者: ドンキー
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デズモンド

 その頃、ドリアニア軍の軍港では、ドリアニアの艦隊が出航準備を整えていた。指揮官はデズモンドという大男である。

「ふん、これまで散々、カーラ水軍にオケアニス海で痛めつけらて来たがそれも終わりだ。目に物を見せてくれよう」

 そう意気込むデズモンドは全軍に指令を出した。出撃の合図である。威風堂々たるその艦隊は帆に風を受けて出航して行った。

 デズモンドは、側近達に言った。

「カーラ水軍とバルダロス軍の連合艦隊は名ばかりの寄せ集めだ。恐るるに足らん」

 そう言い切るのには、根拠があった。全艦に装備した浮遊石砲である。無論、カーラ達も浮遊石砲の装備を完了しているのだが、それはドリアニア軍の浮遊石砲に比べ小口径の軽砲である。それが、デズモンドには付け焼き刃の間に合わせと映った。

「我が軍の巨砲の破壊力の前に海の藻屑と消えるがよい」

 デズモンドには野心がある。ブルーノの配下で自らが海上の右腕となることである。そのためには邪魔な存在があった。グレゴリーである。

「あの白髪白髭の軍師崩れが」

 デズモンドはこのグレゴリーを快く思っていない。いずれ亡き者にせんと目論んでいる程である。

「この海戦で名を上げて一気にのし上がって見せる」

 そう野心を秘めつつ、艦隊を指揮して行った。


 そんなデズモンドのドリアニア艦隊をつけ狙う存在がある。斥候に出ていたカーラの浮遊艦隊である。この浮遊艦隊を率いるのは、カーラ水軍の老兵、ザックスだ。出航の前、カーラはこの古参兵を直々に呼び寄せている。カーラは言った。

「ザックス、今回の戦いはアンタにかかっているからね」

 手持ちの貴重な戦力と浮遊石を割くだけに賭けでもあったが、ザックスはそれを引き受けるだけの適任さを持っていた。普段は寡黙で何を考えているのか分からないこの古参兵は、激戦の混乱の中に勝機を見出す特異な才能があるのだ。人材の才能を見抜くことにかけては天才的なカーラは、迷わずザックスをその戦略的高所で持ってして鋭く戦機を捕らえて、相手を奇襲壊滅させる遊撃艦隊の長に任じ、その艦隊の指揮権を自由に与えた。

 バリーは反対した。

「お頭、ザックスみたいな奴に指揮権を与えるのか? 奴に艦隊を率いるだけの人望はないぜ」

 それはカーラも分かっている。実際、何を考えているのか分からない寡黙さに常に暗さを持ち合わせるザックスに人を率いる魅力はない。

「第一、そんなことをしたら奴は機を見て不利となるや俺達を裏切りかねないぜ」

 そうまでいうバリーにカーラはかぶりを振った。

「大丈夫さ」

 カーラはザックスの事をよく理解している。ザックスは風変わりな男だった。地位や領土、金銭に対する欲望やヨコシマな野心がからっきしないのである。ザックスにあるのは、表現欲である。自分の機略を大規模な海戦の中で使われる事に何よりも惹かれるのだ。表現欲の強さゆえ、その場が大きければ大きいほど魅力的に写る男だった。

「ザックスには、ただひたすれに芸としての戦さのみをさせておけばいい」

 そう言い切りカーラは、ザックスにこの戦さの決定打となる艦隊を与えたのだった。


 ザックスは、カーラから与えられた浮遊艦隊を用いてドリアニア艦隊を誘導した。その様は実に巧みである。ドリアニア軍の射程に入ったかと思えば、それをすり抜けるように旋回し、目前で艦隊のラインダンスを演じては、ドリアニア艦隊を目標の海域へと誘い出していった。

 カーラはそのザックスの浮遊艦隊がドリアニア艦隊を引き連れて向かってくるのを見て全艦隊に戦闘準備の伝令を飛ばした。

 乗組員に緊張感が走る中、その報告を受けた海上では海戦の準備が進み、バリーが甲板に仁王立ちになっているカーラのもとへ駆け寄った。

「お頭、ここは危ない」

 だが、カーラはかぶりを振った。

「いや、あたいはここでいいよ」

 カーラはあくまで周囲がよく見える場所に陣取ったまま離れない。その視線の先には水平線から姿を表すドリアニアの艦隊があった。

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