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ダンテ戦記  作者: ドンキー
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隠密任務

 アロルドから密かに呼ばれたダンテとカルロは、話に耳を傾けた。

「隠密任務?」

 聞き返すダンテにアロルドは説明した。

「ここから東に抜けたところにロキという街がある。そのロキが最近、妙な動きを始めている。その情勢を探って欲しい。ドリアニアに関して出来る限りの情報を集めるんだ。お前達はまだ子供だ。怪しまれることはないだろう。現地に詳しいエセルとともに旅芸人に化けるんだ」

「エセルとともに?」

「あぁ、これが当座の資金だ」

 アロルドは袋に詰まった金貨を渡すと二人に作戦の詳細伝えた。二人は黙って聞いている。

「分かったか?」

 うなずいた二人は早速、エセルを連れてロキへと向かい始めた。カルロは横笛をくるくる振り回しながら歩いている。

「芸は身を助くってな」

 そう話すカルロにとって楽器はお手の物だ。晴れた道中を鼻歌を歌いながら愉快に進み、その後を追うダンテが最後尾のエセルに尋ねた。

「エセルは、一座にいた頃、どんな街を回ったんだ?」

 エセルは、笑みを浮かべて答えた。

「大陸中を回ってました。自然と色んな情報も入ってきますし」

「情報って王様やドリアニアの?」

「色々です。この大陸の外の世界、海の向こうの不思議な島、天をも貫く塔、果てには空に浮かぶ街なんてのもあったり」

 それを聞いたダンテは目を丸くして聞き返した。

「空に浮かぶ街?。何それ?」

「ただの噂です。ここから遥か東にあるんだそうです。神々の宿る街、名をゼノスといいます」

「ゼノス、かぁ」

 ダンテは目を輝かせた。

「一度、行ってみたいよ」

「おいおいただの噂だろ。街が空に浮かぶ訳がない。マジに受け止めんなよ」

 笑うカルロにダンテは言った。

「でも俺達の王様は世界中の全てを手に入れるって言ってるだろ。絶対、俺達とあの人では見てる景色が違うと思うんだ。世界を見る目がね。俺はずっと奴隷だった。だから王様と一緒に外の世界に出て行けると思うとワクワクするよ」

「浮かれるのもいいけど、任務を忘れるなよ。兄弟」

 釘を刺すカルロにダンテもうなずいた。

「分かってるよ」

 やがて、ロキに至るまでに広がる小さな街に着いたところでカルロが言った。

「おい、この街でちょっと稼いで行こうぜ」

 三人は早速、呼び込みを開始し、出来た人集りを前にして演舞を始めた。カルロが横笛を鳴らし、ダンテが叩く太鼓のリズムに合わせながら、エセルが踊り始める。その様はちょっとした旅一座だ。たちまち輪が盛り上がり、コインが投げ込まれ始めた。

「どうだ、兄弟?」

 演舞を終え尋ねるカルロにダンテは、集まったコインを見せた。カルロは上機嫌だ。

「悪くねぇな。このまま商売始めるか?」

 そう笑いかけるカルロにエセルも笑みで答えた。やがて、三人は食事を取るために酒場に入った。

「お前ら見かけない顔だな」

 話しかける男にカルロは答えた。

「大陸中を回っている旅一座だよ。ここには最近来たんだ。それより何か面白い話はないかい?」

「面白い話?。そりゃ今はバルドとドリアニアで話題は持ちきりだ」

 男は酔っ払っている。カルロとダンテが聞き耳を立てる中、男はいい気分になりながらベラベラと話し始めた。

「なんと言ってもバルドだ。勢いが違う。この間のローテ湖でも倍程もあるドリアニアの大軍に大勝したしな。だがその遠征も足掛け三年だ。そろそろ疲れが見えてきてもいい頃だ。それに比べドリアニアは今、内紛状態だ」

「内紛?」

 割って入るダンテに男は、うなずいた。

「あぁ、亡き王の跡を着いだ御曹司のブルーノが深刻な大馬鹿者だかなんだかで年中遊びまくってた。それに見限った家臣が汚職し放題で荒れ放題だったんだ」

 ドリアニアの貴重な情報に触れたカルロはさらに情報を引き出すべく聞いた。

「じゃぁドリアニアは、なんで内紛状態なんだ。家臣が反乱を起こしたのか?」

 だが、男はかぶりを振った。

「それがな。そのブルーノって奴、最近、突然、豹変しやがった。それまで汚職に塗れていた部下達を一斉に粛清し始めたんだ。今、ドリアニアはブルーノ派と汚職家臣派で真っ二つに破れている」

 それを聞いたダンテが首を傾げた。

「一体、ブルーノに何があったんだろう」

「さぁな。だが、ブルーノがわざと馬鹿やって見せてたんじゃないかってのが、多くの見立てだ。もともとドリアニアは一枚岩ではなかった。前の王の力も限られていたんだが、それを見たブルーノが自ら馬鹿を演じてあえて膿を出し切って、一斉に粛清を始めたらしい」

 思わずダンテは唸った。

「そんな事を。大した演技派だね。そのブルーノは」

「あぁ、あえて二つに分断し膿を出し切って権力を掌握する。今は揉めてるがやがて、ドリアニアはブルーノの時代が来るだろう。そうなったとき、ブルーノとバルドの真の激突が始まるって訳だ」

 男はなおも話し続けている。それを横耳で挟みながらダンテは一人、呟いた。

「ブルーノ、かぁ……」

 間違いなく自分達の前に立ちはだかる強敵に違いないのだ。


 ダンテ達が旅芸人としてロキに情報収集に赴いていた頃、ドリアニアではブルーノが自ら陣頭指揮に立って汚職家臣の粛清討伐を行なっていた。

「どうかお許しを……」

 燃え盛る血塗れの王宮で頭を床に擦り付ける家臣にブルーノは、ニンマリと笑うと側近のバートに聞いた。

「バート、こいつはなんだったかな」

「はっ、汚職に塗れただけでなくバルドに内通していた輩です」

 バートは、証拠の書状をその家臣の前に突き出した。

「仕方がなかったのです。どうかお助けを」

 だが、ブルーノは冷酷に言った。

「やれ。一族諸共だ」

 連行されていくその家臣の一族の悲鳴が辺りに響き渡った。串刺しの見せしめである。それを冷酷な瞳で眺めながら、ブルーノはバートに尋ねた。

「バルドの暗殺はどうなった?」

「はっ、失敗したようです」

「ほう、あの暗殺一座でもしくじったのか」

 ブルーノは、ふんっと鼻を鳴らし、続けた。

「バート、私はあのバルドと言う男を尊敬している。まさに我が父以上に思っているのだ。そのバルドの首を跳ねる事、それが私の一番の願望だ」

「存じております」

「ならば分かるな」

「はっ、既に手は打ってございます」

 バートは小声でブルーノに言った。

「実は今、ロキと言う街である仕掛けをしておりまして……」

 その詳細を聞いたブルーノは、ニンマリ笑った。

「分かった。委細はお前に任せる」

 ブルーノは、そのまま燃え盛る王宮を去って行った。

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