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ダンテ戦記  作者: ドンキー
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海戦

 海戦の時は、刻一刻と迫っていた。カーラは考えている。

「いかにして勝つか」

 カーラと同盟を組むバルドは言った。

「全て、カーラに任せる」

 実際、バルドは自らの艦隊をカーラの指揮下に預けてしまっている。それほどまでにバルドのカーラへの海上を巡る信頼は厚い。特に従来の延長線上にある改良を基とした兵器ではなく、その観念を一変させる様な新兵器が絡む戦いは先が読めない。玄人の経験と勘が物をいう場合もあるし、それらが逆に固定観念となって邪魔をし、素人に敗北する場合もある。

 勝つための型をどの軍もそれぞれが持っているが、新しい兵器が生まれ概念が変わった時、新たに勝てるための型を自ら編み出す必要があるのだ。その型によって敵軍を駆逐することができ、その型が通用しなくなっととき、型とともに軍は滅ぶのである。

 その点、バルドは、カーラが持つ独特の勘に賭けた。

「カーラは世界観を持っている」

 というのがバルドのカーラ観である。そのバルドから作戦から戦術、艦隊運用の指揮まで全てを譲り受けたカーラは日夜考えた。

「さて、どうするか……バリーはどう思う?」

 カーラは盟友のバリーに尋ねた。流石にカーラも今回は先が読めないらしい。二人は地図を広げ、机上の駒をこねくり回して何度もシミュレーションを繰り返した。

 様々な事象から原理を引き出すのはカーラの得意技だ。そのカーラの戦術思想は、これまで戦って来た海戦の勘をもとに完全に隙のない理論に裏打ちされており、その図上演習はドリアニア軍という具体的な仮想敵が常にあった。その性能、艦隊運動の習性、ドリアニア軍の作戦の発想術などカーラがこれまで得た知識を持ってバリーと共に机上に再現し、それを敵として戦い殲滅する方法をともに研究した。

 数で言えばカーラ水軍とバルダロス軍の連合艦隊は、ドリアニア軍の艦隊に対して二百隻対百五十隻と数では優っていたが、ドリアニア軍は浮遊石砲の砲数で勝っている。

 その浮遊石砲についてであるが、調べによるとドリアニア軍の艦隊は、大口径の浮遊石砲を多数備えているということだった。威力が大きい分、射程と射速が劣り、三分に一発が精一杯という事だった。結局、勝敗を決するのは浮遊石砲ではなく、従来の接舷斬り込みにあり、数発でこちらの動きを止めてその戦法に持ち込む戦術思想であると思われた。

 そこでカーラはダンテとチコに命じて、口径の小さい分、長距離射程で速射に優れた浮遊石砲を艦隊分ワンセットを装備し、一撃は小さく、致命傷を与えたり沈めたりすること事はできないものの、小口径の砲弾を短時間におびただしく敵観戦に送り込むことによってその艦上構造物をなぎ倒し、戦闘を困難にする作戦で臨むことにした。射速は一分半に一発でドリアニア軍のものより倍の速度を誇る。明確な対立軸を打ち出したという点でカーラの大胆さが光ったと言える。

 加えて、カーラはそ浮遊石砲から砲弾を撃ち出す砲手を自ら選んだ。カーラは浮遊石砲を研究するうちにその射撃については、努力ではなく才能が物をいう世界である事を見抜いていた。そうである以上、平凡な者に特訓させてもとても勝ち目はないという考えである。

 それだけでなく、カーラは持てる限りの浮遊石を投じて浮遊艦隊を艦隊から割り裂いた。それは戦略的高所から鋭く戦機を捕らえて、相手を奇襲壊滅させる遊撃と斥候に特化した艦隊である。

 これらの戦法が果たしてどれほどの効果があるか、カーラは寝床で天井を睨み、そこに海図を浮かべ敵味方の艦船を駆け巡らせながら、考え込んだ。

 カーラの頭の中には、カーラ水軍とバルダロス軍の連合艦隊の各艦の特徴は全て入っており、それらの艦船が天井を睨んでいる虚空に入り乱れて運動し、思いついた作戦がダメだと思うとそれをかき消して別の作戦を持って天井の波の中にそれらを浮かばせて来たるべき海戦のイメージを膨らませ続けた。


 やがて全ての準備を整えたところでカーラは皆を集めた。艦隊の船員達は皆、カーラを見ている。その前に立つカーラは叫んだ。

「いいかい、今度の戦さは浮遊石の航路をかけた戦いになる。物をいうのは浮遊石砲だ。時代の変わり目となる新しい戦いになる。だがそこに勝利することで得る果実は大きい。その栄誉を勝利で飾ろう」

 そう叫ぶカーラに船員達は一斉に声援で応えた。なかなかの士気の高さだ。皆、自分のお頭が神秘的なほどの名将であることを望み、カーラに対して宗教的なほどの信仰を持っている。

 そこに満足したカーラはバリーに言った。

「バリー、後は頼むよ」

「分かったよ。お頭」

 指揮をカーラから譲り受けたバリーは早速、艦隊を動かしに入った。かつてない数の艦船が一糸乱れぬ動きで港を出航して行った。

 その中には技術顧問団としてダンテとチコとカルロも乗っている。

「勝てるかな?」

 尋ねるダンテにチコは、正直に言った。

「分からない」

 実際、新兵器同士の戦いがどの様な展開になるか、正確に分かるものは誰もいなかった。ひたすら連合艦隊の長を務めるカーラの運と才覚を信じるしかないのである。

「まぁ何とかなるんじゃね?」

 カルロだけは、両手を頭の後ろで組みながらお気楽にそう言ってのけた。カーラ水軍とバルダロス軍の連合艦隊は、帆を一杯に張って海路を進んで行った。

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