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ダンテ戦記  作者: ドンキー
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デューク

 ローチェ家の商人デュークは、ドリアニア軍の陣地でブルーノに恭しく拝礼した。

「ブルーノ様。浮遊石砲は、いかがでしたでしょうか?」

「悪くない」

 ブルーノは、デュークにニンマリとほくそ笑んだ。何と言っても前回の対戦で得た傷が癒えぬうちに打って出た戦いにほとんど無傷で勝ち、砦をバルダロス軍から奪ったのだ。しかもバルダロス軍の精鋭を相手にである。不満などあろうはずがなかった。

「ようございました」

 デュークも満足げなブルーノに力強くうなずいた。

 もともとドリアニア軍に浮遊石砲を持ち込んだのはローチェ家だ。そこに兵器としてのポテンシャルを見出し、砲兵部隊を組織するに至ったのは、ブルーノの戦略眼によるが、どのくらい使えるかは実戦になって見なければ分からない部分があった。その実用性が今度の戦いで完全に明らかとなったのだ。

「もっと数がいる」

 ブルーノは、デュークに言った。

「いいかデューク、浮遊石砲を揃えれるだけ揃える。金に糸目はつけん。持ってこれるだけ持ってくるがよい」

「ははっ」

 頭を下げるデュークにブルーノは言った。

「ところで、この浮遊石砲だが、バルダロス軍の方も開発に成功して実用化に漕ぎ着けつつあるらしいぞ」

 事実だった。自らが配備を進めたこの新兵器である浮遊石砲について、それからほとんど時を置かずしてバルダロス軍の方も同じ様に配備を進めていたのだ。そこについて、ブルーノは改めてバルドの適応の早さに舌を巻いていた。

「流石は、バルド、と言ったところでしょう」

 デュークは、ブルーノに同意しつつ、言った。

「この先はますます浮遊石文明の時代になります。そのためにも……」

「分かっておる」

 ブルーノは、自軍が展開する地域とバルダロス軍が展開する地域が色分けされた地図を広げ、その地図の中の海の方を見つめながら言った。

「次は海戦になろう」

 どうしてもゼノスへの航路をここで確立する必要があった。

「その戦いは、浮遊石砲が物をいう戦いになるだろう」


「これが噂の浮遊石砲かぁ」

 カーラは、送られて来た浮遊石砲をマジマジと眺めながら、バルダロス軍の技術顧問団として訪れたダンテとチコの話を聞いている。

「これと同じ物をドリアニアの水軍も持っているんだね」

 尋ねるカーラにダンテはうなずき言った。

「この浮遊石砲を前にうちの精鋭が手も足も出ずに砦を落とされたんだ」

「そうかい。聞いていた通りだったんだね。分かったよ。助かる」

 礼を述べつつ、カーラは続けた。

「このところ、ゼノスへの交易に出した船がことごとく襲われていてね。航路をめぐって決戦が近い事は察していた。おそらく次の海戦はこの浮遊石砲の優劣が勝敗を決することになると思う」

 そう述べた後、カーラはふと素朴な疑問を述べた。

「それにしても浮遊石って言うのは、浮かんだり、瞬時に移動させたり、破裂したり、本当に妙な石だね。あっといういまに普及したこの浮遊石だけど、何かそこに別の意図があるんじゃないかって疑ってしまうよ」

 それを聞いたダンテは首を傾げた。

「別の意図?」

 聞き返すダンテにカーラは虚空を睨んでいる。

「そう、例えば……」

 だが、すぐさま首を振った。

「何でもない。そんな気がするだけだよ。気にしないで」

 そして、ダンテに尋ねた。

「戦さも迫ってる。時間はないんだ。この浮遊石砲、何門作れる?」

 この時期、バルドはありったけの工業力を総動員してこの浮遊石砲を作り出している。無論、ドリアニア軍も同様である。両軍は競ってこの新兵器の装備を進めている。

 その両軍がぶつかる最前線にカーラは立とうとしていた。

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