賭場
このバルドとブルーノの激闘は、ゼノスの賭場を大いに盛り上げた。過去最高の賭け金を叩き出したのだ。胴元の一味であるエセルは笑いが止まらない。
「おい爺、たまんねぇな」
エセルはニヤつきながらグレゴリーを見た。そんなエセルにグレゴリーは言った。
「それよりわかっておるのだろうな、エセル?」
「分かってるさ。だからこうして爺のお守りをやってんだろう」
エセルは仮面を脱ぐとニヤリと笑みを浮かべた顔を晒した。
「分かっておればよい。そのためにそなたを延命させたのじゃからな」
グレゴリーは、そう念を押すとエセルのもとを去っていった。その背中を見届けたエセルは、考えた。
「さて、これからどうするか」
いかに儲けるかと言う悪巧みに掛けては、エセルほどの適任者はいない。地図を睨み手駒をこね繰り返しながら、次なる賭場を求め海図の方に指をとんと立てた。
「次は、カーラを使うか」
エセルは、そう呟くと一人、ほくそ笑んだ。
カーラは自らの水軍を率いてバルダロス軍の浮遊石の調達を一手に賄っている。そんなカーラの元にある知らせが届いた。自身の船団が襲撃を受けている、というのである。オケアニス海においては制海権を得ているカーラ水軍もその外においてはまだ群雄割拠の中にある。
「次は海戦になるね」
そう予測するカーラは、既にこの世界がゼノスの掌の上で転がされている事を知っている。知った上で敢えて踊らされている訳だが、いよいよその戦の賭場に自身がプレイヤーとして登場するだろう事について、思うところがあった。
「お頭は不満じゃないんですか?」
バリーは不服そうである。
「仕方がないよ。所詮、下界は賭博の対象であって人間扱いされていないんだからね。それに」
カーラはバリーの目を見ながら続けた。
「要はあたいらが勝てばいいのさ」
その頃、バルダロス軍の拠点では、戦場から戻って来たダンテをチコが出迎えた。
「ダンテ、無事でよかった」
そう言い寄るチコにダンテは、ため息混じりに言った。
「グレゴリーに迫ったがあと一歩で逃げられてしまったよ」
「聞いたよ。仕方がない。それよりダンテ、知らせがあるんだ」
チコは、ダンテにひとかけらの浮遊石を見せた。
「この浮遊石がどうかしたのか?」
尋ねるダンテにチコは、言った。
「変質してるんだ」
「変質?」
ダンテはその浮遊石をマジマジと眺めたが、違いが分からない。
「ほんの微かな違いだけどね。でも僕には分かる。これはグレゴリーが何かをやろうとしている前兆だと思うんだ」
「そんな兆しが浮遊石に現れるのか?」
「そうだよ、何たって彼はこの世の創造主だからね。全ての浮遊石が影響を受けるよ」
改めてダンテはこの世の創造主の力の大きさを実感しながらも、問いかけた。
「でも一体、グレゴリーは何をやろうとしてるんだろう?」
チコは首を振って答えた。
「分からない。ただ、何か大きな事を目論んでいる事だけは確かなようだね」
さらにチコは言った。
「ダンテ、これは僕達にとってチャンスでもあると思うんだ」
「どういう事?」
「僕はローチェ家の人間として幾ばくかの事実を知っているけど全てに通じているわけじゃない。もっと核心的な部分、ゼノスについては分からない事が多い。その秘密を探れるかもしれないからね。グレゴリーが動けば動くほどその兆候もいろんな部分に出てくる。それらを観察していけば、より深い真相に辿り受けることが出来るかもしれないだろう」
「確かに」
ダンテはチコの話に思わずうなずいた。
「出来るだけ情報は多い方がいい。グレゴリーと対峙する上でもね」
チコはそう言い、口を結んだ。




