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ダンテ戦記  作者: ドンキー
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五里霧中

 ドリアニア軍との再戦の時期が近づいている。間諜からの情報によるとブルーノは大軍を編成し、バルダロスの同盟都市に向けて出陣を開始したとの事だった。それを受けバルドも出陣を決定した。

「次こそ決着をつける」

 そう意気込むバルドは、やがて、ある河川のほとりでドリアニア軍を前に陣を構えた。斥候に出たダンテとカルロはドリアニア軍の近くまで来てその様子を伺っている。

「連中、静かだな」

 カルロが遠目につぶやき、ダンテもうなずいた。あれだけの大軍が一糸乱れぬ陣形を保ったまま、鎮座しているのである。改めてブルーノの指揮の高さを感じざるを得なかった。ダンテは、ふと拠点に置いて来たチコの事を思い出した。チコは言った。

『ダンテ、必ず戻って来てくれ』

 無論、ダンテも簡単に死ぬ気はない。だが、次の両軍の激突を想像するにそれが容易ではないと思わざるを得なかった。そのくらいドリアニア軍の戦力は充実していた。だがそれはバルダロス軍においても同じだ。

 戦力が拮抗している以上、勝敗は用兵にかかっている。バルドはドリアニア軍に対し、様々な策を講じた。だがそこはブルーノである。簡単には乗ってこない。この辺り一帯において、お互いを知り尽くした者同士の高次元の心理戦が繰り広げられた。こうなってしまった以上、容易に軍を動かす事は出来ない。両軍とも四つに組んで睨み合ったまま、時間のみが流れた。

「さて、どうしたものか……」

 バルドの陣地では連日、軍議が開かれた。バルドは言った。

「この地域の特徴として、霧が発生する。その霧を利用できないか?」

 バルドは、地図を睨みながら考えた。やがて、バルドはブルーノにプレッシャーを与えるべく、さらに有利な位置を得るべく霧を利用して密かに軍を動かす事を決意した。軍を二手に分けるのだ。そのことに異議を唱える将もいたが、バルドはそこに賭けることにした。

 その日は、計画通り濃い霧に見舞われた。その中を行軍していく軍の中にあって、ダンテはカルロとともに周りを警戒しながら、先へと進んでいった。

「おいダンテ」

 不意にカルロが霧の向こうを凝視しながら声をかけた。

「どうしたんだ、カルロ?」

 聞き返すダンテにカルロは、言った。

「何か向こうの方に人影がいた気がするんだ」

「人影?」

 ダンテは首を傾げ、カルロが睨む方向に目をやり聞き耳を立てた。そのダンテ達の目の前に信じられな光景が広がった。何と行軍中のドリアニア軍が突如、現れたのである。奇しくも時を同じくしてドリアニア軍も同じくバルドにプレッシャーを与えるべくこの霧を利用して行軍を開始し、そこに鉢合わせてしまったのだ。

「敵だ!」

 叫び声とともに両軍はたちまち混乱状態となり、互いに不意を喰らった者同士、ぶつかり合う事となった。もはや陣形も作戦もあったものではない。全くの予期せぬ遭遇線にあって両軍は、死闘を繰り広げることとなった。刃がぶつかり合い、火花が飛び散り、血飛沫が舞う中、ダンテとカルロは必死に戦った。

 周りが霧で見えないだけに同士討ちも激しく起こり、どっちが優勢なのかお互いに分からない状態が続いた。五里霧中の激闘の中にあって、バルドは必死に指揮をした。手持ちの兵がどんどん減っていく。それに危機感を覚えた側近が言った。

「バルド様、このままでは戦線が持ちません」

「それは敵も一緒だ。もう一押しするのだ」

 バルドは、目まぐるしく部隊を動かし、混乱状態の中に活路を探った。

 混乱状態にあったのは、ドリアニア軍においても同じだ。激闘が続く中、ブルーノは目を血眼にして、指揮を取った。その傍で興奮を隠せないものがいる。ドリアニア軍の軍師、グレゴリーだ。

「たぎる。たまらなくたぎる……」

 戦いに身を置くことに何よりもの生きがいを感じる姿がそこにあった。

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