草原
「ここは、あの草原! 一体、どうなってるんだ!?」
困惑するダンテにチコは言った。
「時空を変えたんだ。浮遊石の力の一つだよ」
「浮遊石の? じゃぁここはどこなんだ?」
ダンテの問いにチコは、しばらく考えた後、言った。
「工場、かな」
「工場だって?」
ダンテは、何もない草原を見渡しながら聞き返した。
「そうだよ。工場、それも神々のね。全てはここから始まったんだ」
「始まった? 何が?」
「戦いの歴史が、だよ。この世は、全て闘争に帰結する。それは植え付けられた本能だからね」
そう話しながらチコは、草原を歩き始めた。すると草原から無数の光が漂い始めた。
「この光の塊は?」
「魂だ。覇を競って争った者同士のね。そして同時に浮遊石の原料でもある」
「浮遊石の……原料だって!?」
衝撃の事実を告げるチコにダンテは、目を見開いた。チコは言った。
「浮遊石って言うのは、この魂が時間を掛けて凝結して出来たモノなんだ」
「魂が凝結……」
「そう、身を焦がすようにエネルギーを凝縮させた、ね。僕達生命体の闘争本能はこのエネルギーを採掘して浮遊石として抽出するために大昔に神々によって植え付けられたものなんだ」
「じゃあ、俺達が戦ってるのもそのせいだって言ういのか?」
「うん、そして、それを賭場として余興に使っているのが、ゼノスの民なんだよ」
説明するチコにダンテは信じられないと首を振った。
「その神々っていうのは、なんなんだ?」
「よく分かっていないんだ。これは僕の推理だけど、多分、この星の住人ではないね」
「この星の住人じゃない? というと」
「さぁ、とにかくこの星の生命体に闘争本能を植えつけた後、何処かへ消えてしまった。そして仕組みのみが残った」
不意に辺りに漂っていた光の塊が空に向かって昇り始めた。
「始まったよ」
チコが指差す方向を見ると光の塊がどんどん融合し合い一つの大きな塊となった。やがて、これ以上大きくならないところまできたところで、急にその光の塊は、どこかに吸収されるように消えて行った。その光のスペクタクルを眺めながらチコは説明した。
「ああやってゼノスの内部に時空を超えて吸収されていくんだ。そこで精製されて浮遊石となる。その工場が、この世界の真理なんだ」
その様子をまざまざと見せつけられたダンテは、声が出ない。そんなダンテにチコは続けた。
「この世界の真理たる工程を作り上げたのが、この世の創造主だよ」
ダンテは、はっとあの白髪白髭のドリアニア軍の軍師の姿を思い浮かべた。
「グレゴリーのことか?」
「そう、彼もまた闘争本能に魅せられた者だ。この工場を作るに飽き足らず、自らのプレイヤーとなってこの下界に巣食う存在になってしまっている。今、その行き過ぎた姿を抑えようとゼノスの捜査機関が動いているところだ」
「チェスターか……」
ダンテは、ゼノスで出会った捜査官のことを思い出した。
「彼は、大きくなり過ぎたんだ」
チコは、肩をすくめた。
「ローチェ家でもこの事実を知っているのは、ごく少数だ。僕はこんな仕組みの中で踊らされるのが嫌だから亡命して来たんだ」
「王のバルドなら、なんとか出来る、と?」
だがチコはかぶりを振った。
「違う。ダンテ、君だ」
「俺?」
聞き返すダンテにチコは、言った。
「君は、この仕組みを破壊できる。君も僕もあのグレゴリーにこの草原を植え付けられた者同士だ。宿命に抗う意味で目的は一緒だろう」
チコは、ダンテの目を見ながら言った。
「ダンテ、共闘しよう」




