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ダンテ戦記  作者: ドンキー
39/66

子供

「ダンテ、いい事を教えてやろう。この世界は所詮、勝者と敗者しかいないんだよ。そのどちらに張るのかをしっかり見極めるのが賭場での掟なんだよ。分かるか?」

 勝ち誇ったように語るエセルにダンテは、吠えた。

「エセル……この世界は賭場なんかじゃない。それにここはゼノスの遊び場じゃないんだ」

「そうかいそうかい、じゃぁ今のお前はどうなんだ?」

 そう話すやエセルは四つん這いで身動きが取れないダンテの体を思いっきり蹴り飛ばした。

「くっ……」

 ダンテは、エセルに蹴り転がされ、その場にのたうち回った。

「お前は所詮、生まれながらの奴隷なんだよ。この負け犬野郎がっ!」

 勢いに乗ったエセルは、ダンテを盛んに踏みにじり、弄び、おもちゃにして執拗にいたぶり続け、そんなエセルの虐待にダンテは、ボロボロになりながら必死に耐え忍んだ。

「じゃぁな、ダンテ」

 身動きが取れないダンテを置いてエセルが去ろうとしたその直後だった。エセルは、その背後から迫る刃に全く無警戒だった。

「……っ!」

 目を見開いたエセルは、自らの体を貫く刃の主を確認した。

「姉貴……」

 その主はフィオナだった。目に涙を溜めたフィオナは、妹を貫いた刃をゆっくりと引き抜くとエセルは、ガックリとその場に崩れ落ちた。その手には浮遊石が握られている。エセルは最後の力を振り絞って浮遊石を作動させ、瞬間移動でその場から姿を消した。

 体の自由を取り戻したダンテは、ゆっくり地面に手をつき、よろよろと立ち上がるとフィオナに近寄った。

「エセルは……」

「あの傷だ。どの道、もう持たないだろう」

 そう話すフィオナの頬を涙が伝っている。妹を自身の刃にかけたショックに打ちのめされている様だった。何はともあれ、チェスターの言うとおり、エセルを止めることには成功したようだ。フィオナは、涙を妹の返り血を浴びた手で拭うとダンテに尋ねた。

「ダンテは、これからどうするんだ?」

 ダンテは、考えた。エセルがいなくなった今、グレゴリーに全てを語らせる必要があった。グレゴリーはドリアニア軍の軍師だ。これを打ち破らなければならない。その必要性からもしばらくはバルドに仕えることになるだろう。

「当面はバルダロス軍でやっていくよ」

 そう答えるダンテは、逆にフィオナに聞き返した。

「フィオナは、どうするんだ?」

 フィオナは、力なく首を振って答えた。

「分からない」

 そして、とぼとぼと破壊されたパジロの街の中を歩いて消えて行った。


 浮遊石の暴発によるパジロの被害は、散々たるものだった。都市の中枢がそのままくり抜かれただけでなく、多くの人間の命が失われたのだ。その原因がどうやらローチェ家にあるらしいとダンテが知ったのは、しばらく経ってからである。

「一体、どういう事だ?」

 尋ねるカルロにダンテは首を振った。

「分からない」

「なんて連中だ。おかげでエセルもいなくなってしまった」

 何も知らないカルロが憤るのをダンテは、横目で眺めつつ、言った。

「ローチェ家について、もう少し調べてみよう」

 パジロの浮遊石の暴発事故による意気消沈は激しかった。様々な噂が飛び交い、その大半が感情的な根拠のない罵詈雑言だったが、その中でダンテ達は、パジロに事故当時出入りしていたローチェ家の人間らしい子供がいる事実を掴んだ。しかもその子供は、このパジロにまだとどまっているという。パジロの民はその子供を探し出そうと躍起になっている。

「その子供を先に俺達で探し出そう」

「あぁ。分かった」

 ダンテとカルロは、互いに顔を合わせうなずき合った。

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