式典
「とにかく気をつけて」
そう言い残して去っていくフィオナを見送ったダンテは、やがて、エセルとカルロのいる酒場の席へと戻って行った。
「おい、どこ行ってたんだよ。ダンテ」
「あぁ、ちょっとな」
絡んでくるカルロにダンテは会釈で答えた。
「なぁ兄弟、俺、この戦さが終わったらこのパジロに住もうと思うんだ。これからは浮遊石の機械文明の時代だ。なんて言ってもここには夢があるからな」
すっかり機嫌をよくした酒場の男達と一緒になりながら、カルロはいい気分で酔っ払っている。
ーーいい気なもんだ……
ダンテは呆れながら席につき、ふと隣で大人しく座っているエセルを見た。目があったエセルは照れ気味に微笑んでいる。このエセルと関係を持ってしまったダンテは、内心、複雑な思いを秘めながらエセルに聞いた。
「エセルは、この戦さが終わったら、どうするんだ?」
だが、エセルは俯いたまま問いには答えず黙っている。しばらく間が空いた後、エセルは尋ね返して来た。
「ダンテは、どうするの?」
「俺は……どうするかな」
それまで生きているかどうかも分からないのだから、答えは難しかった。そんなダンテにエセルは言った。
「私は、ダンテと一緒にいるよ」
そう微笑むエセルの顔は、清楚そのものだった。
やがて、浮遊石の新たな機能のお披露目式典の日がやって来た。周囲は既に人集りである。やがて、パジロの長が出て来て演説が始まった。
パジロの長は言った。自分達は第二のゼノスになると。その宣言には、浮遊文化をモノにしつつある事への自負が漲っていた。やがて、演説の後、浮遊石が披露された。
「いよいよだな」
カルロが人集りの中から遠目に式典の様子を眺めつつ言った。ダンテもその様子を楽しみにして遠目に凝視している。だが、何か様子がおかしい。浮遊石を扱う人間が混乱しているようだ。
「どうしたんだ?」
カルロにダンテは首を振った。
「分からない」
と、次の瞬間、それは突然だった。その浮遊石が吹き飛びあたり一帯の全てが光に包まれた。その衝撃にダンテ達はひっくり返され一気に後方へと弾き飛ばされた。
物凄い爆風が当たりを揺るがし、鳴り響く轟音と灼熱の炎が一面を焦がした。バラバラに砕け散ったパジロの都市の残骸が浮遊する異様な光景の中をやがて、ダンテはよろよろと起き上がって辺りを見渡した。
「な、何だ。一体……」
変わり果てた姿になっていたパジロにダンテが茫然としていると、ふと隣のエセルが頭を抱えて唸りながらうずくまっているのを見つけた。
「ど、どうしたんだ、エセル?」
気遣うダンテに、だがエセルはその手を払い除けると「くっくっく……」と笑いながら、ゆらりと立ち上がった。それは今までのエセルではなく、あの本性を現したときのエセルだった。
「下界の愚民どもが出過ぎだ真似をするからだ」
エセルはニンマリほくそ笑むとダンテをじろっと睨み短剣を突きつけながら聞いた。
「ダンテ、お前、あのジジイに会ったんだろ。何された?。言え!」
だがダンテは、それが分からない。その様子を見たエセルは、ゲラゲラと下品に笑い言った。
「こいつは傑作だ。ダンテ、お前、何も知らずにいるんだな」
そんなエセルに対してダンテは剣を引き抜いた。このエセルを捕まえることがチェスターから与えられた任務なのだ。
「そいつは、よした方がいいと思うぜ」
エセルはニンマリ笑っている。と、ダンテは目の前がクラクラとして、その場によろめき倒れ込んだ。
ーーな、何だ。これは……
訳が分からず四つん這いになっているダンテを、エセルは上から見下ろしながら煽った。
「ほら、この私を捕まえないと後がないんだろう。ダンテ」
だが、どうした事かダンテは体が全くいうことを聞かなかった。




