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ダンテ戦記  作者: ドンキー
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パジロ

 目下、軍事上の注目は浮遊石にある。この浮遊石をドリアニアはローチェ家を通じ、バルダロスはカーラ水軍を通じてゼノスから入手している。この浮遊石は人々の日常生活にも大きな影響を及ぼすようになって行った。浮遊をめぐる機械文化の始まりである。

 その中にあって大きな変貌を遂げた都市がある。パジロだ。

 パジロはドリアニアにもバルダロスにも属さない中立都市であり、その周辺一帯に対して一定の影響力を保っている。それが出来るのは、この浮遊石が起こした革命に上手く乗ったことが主な要因にある。

 都市には浮遊船が盛んに乗り入れ、景色を周囲と一変させており、このパジロを手中に収めるべくバルドもブルーノも盛んに触手を伸ばしていたが、独立の気風の強さもあって、なかなかどちらにも靡かないでいた。

 そのパジロにローチェ家が暗躍しているという。その実情を調べるべくダンテ達は、旅芸人に扮して情報収集に赴いていた。

「それにしても凄いな。パジロは」

 浮遊文化がすっかり根付いた街並みを眺めながら、カルロは声を上げた。聞けば、パジロは浮遊石の独自調達ルートを持っているという。さらにパジロの自治を統治する機関が浮遊石の研究を盛んに奨励していたこともあり、独自の発展を遂げていた。

 ダンテ達は、その時代の最先端をいく街並みを眺めながら、情報収集を重ねていくうちにやがて、ある噂に行き着いた。

 それは、パジロの研究機関が浮遊石の新たな機能を発見した、というものである。実はこの浮遊石には、まだ分かっていないことが多い。それだけにローチェ家もそのパジロの研究機関の成果に関心を寄せている、とのことだった。

 そして、その研究成果を披露する式典が模様されるというのである。

「浮遊石の新たな機能をお披露目する式典かぁ」

 声を上げるダンテにカルロもうなずいた。

「またとない機会だな」

「あぁ、是非俺達も参加しよう」

 ダンテ達はその浮遊石の新たな機能を目にするべくその式典のチラシを熱心に眺めた。


 パジロの宿屋に宿泊したダンテ達は、荷物を置くと酒場へと向かった。酒場は浮遊石の機能のお披露目式典の噂で持ちきりである。

「お前さん達も行くんだろう」

 話しかけて来て男にダンテはうなずいた。

「折角の機会だからね」

 男はこのパジロの住人のようだ。酔っ払いながらもご機嫌で話し続けた。

「このパジロは浮遊石で世界を獲るぜ。なんて言ったって、一番進んでいるんだからな。戦さはバルドとブルーノに任せておけばいい」

「でも浮遊石の新たな機能って何だろうな」

 尋ねるカルロに男は、かぶりを振った。

「さっぱり情報がない。何でも凄い機能だってことは噂で流れてくるんだがな。まぁ、何だって大歓迎さ。浮遊石で生活が豊かになるんだからな」

 笑う男の横でふとダンテは、酒場の隅に見知った人影を見つけ、はっと息を飲んだ。

「どうしたの、ダンテ?」

「誰かいたのか?」

 不審に思うエセルとカルロにダンテは、首を振った。

「何でもない。ちょっと待ってて」

 席を立ったダンテは、その人影の去っていった方向に着いて行った。扉を開け酒場の外に出たダンテの前にその人影は立っていた。フィオナだ。

「フィオナ!」

 ダンテは、フィオナに近寄った。

「久しいね、ダンテ」

 フィオナは小さく笑い、酒場の中を見て言った。

「エセルも来てるんだね」

「うん、でもあのエセルは……」

「あぁ、違うね」

 フィオナはダンテにうなずいた。

「フィオナ、エセルは一体、どうなってるんだ。あのエセルはこれまでの記憶がないっていうし」

「多分、何か狙いがあるんだと思う」

「狙い?」

 聞き返すダンテにフィオナは言った。

「とにかく今は、妹の様子を見ておいてくれ」

「分かった。それはそうとフィオナも例の式典に行くんだろう。浮遊石の新たな機能って何なのか分かるか?」

 だが、フィオナは表情を曇らせるのみだった。

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