島
「私は、あなたに会ったことがない」
そう話すエセルをダンテは「そんなはずはない」と何度も説き伏せるものの、結果は同じだった。
仕方なしにダンテはエセルとともに島に上陸した。そこは南国の無人島らしく、何もない白浜がずっと向こうまで続いている。
誰かの助けを求める事は出来なさそうだ。やむなくダンテは食料を得るために島に成っている果実を探し始めた。
やがて、日が暮れ夜となり、月がぽっかり浮かぶ中、ダンテは島の木になっている果実を採ってくるとエセルに手渡した。
「ありがとう」
礼を言うエセルと肩を並べてダンテも果実を口に頬張り始めた。月の光が水平線を照らし青白く細波を打って反射している。静まり返った浜辺に響く、絶えることのない波の音を聞きながら、ダンテは考えた。
「これからどうしよう……」
するとエセルが答えた。
「この島は浮遊船の航路になっているから、そのうち、誰かが見つけてくれます」
「そうか」
ダンテは、うなずきさらに尋ねた。
「エセルは、本当に俺の事を知らないんだよね」
「えぇ」
「じゃぁ、今までずっとどうして来たの?」
「実は、私も自分の事をよく分かっていないんです。気付いたらこの世界にいて……私には踊ることしか出来ませんから、踊り子としてやって来て……」
言葉を途切れ途切れに話しながらエセルは、言った。
「ただ、あなたの事は、どこか懐かしい気がして、本の少しですが、覚えがあります。ただ、具体的にそれが何なのかまではわかりません」
そして、エセルは黙り込むとダンテの手をそっと自身の手にとった。それからダンテとエセルは互いに肩を並べて、沈黙したまま、潮風に吹かれ続けた。ふとエセルがダンテの肩にもたれ掛かって来た。どうやら寝ているようだ。その顔は清楚で、まさにダンテがエセルと出会ったばかりのときのエセルだった。
「一体、エセルといい、この世界といい、どうなってるんだ……」
混乱のダンテは、溜息をつきつつ、やがて、波の音と心地よい潮風に吹かれながら、辺りの静粛に飲み込まれるように眠りについた。
………
……
…
微睡の中で出て来たのは、またしてもあの風になびく草原だった。かつては兵が覇を競い合ったであろうその草原に一人の老人が立っている。白髪白髭のその姿は、グレゴリーだ。ニヤニヤと笑みを浮かべるその姿は、まさに仙人そのものである。
「ダンテ、存分に交わるがよい」
そうグレゴリーは、夢の中でダンテに言った。
「交わる……?」
首を傾げるダンテにグレゴリーは、うなずいた。
「この世は戦いの中にある。その戦いで勝った者のみがこの世に遺して行くことができるのじゃ」
グレゴリーは、顎髭をさすりながら、なおも続けた。
「すべては本能の赴くままに、それがこの世の摂理じゃからな」
「グレゴリー、お前は一体、何をしたいんだ?」
尋ねるダンテにグレゴリーは、目を細めながら答えた。
「この世の創造主として、すべき事をしているまでじゃな」
そして、やがて、風の中に姿を消して行った。
「期待しておるぞ、ダンテ」
グレゴリーの声のみが草原の中にこだまし続けた。
…
……
………
ふと気配に目を覚ましたダンテは、目の前に迫るエセルに気がつき目を見開いた。
「エセル!?」
「ダンテ……」
エセルは、驚くダンテにもたれかかって押し倒すや、ダンテの唇に自らの唇を重ね合わせた。とろけるような柔らかい感触がダンテを包み込むように覆い尽くし、二人は溶けるように絡まり合って浜辺に転がった。時がゆっくり流れて行くそれは、南国の島での夏の夜の情事だった。
「エセル、いいのか?」
「ダンテ……」
エセルは頬を火照らせてダンテの眼差しを直視で返した。二人は熱に浮かされたように誰もいない浜辺で本能の赴くままに情熱を燃え上がらせた。




