再会
エセルがこの下界に来ているーーその情報は、ダンテを驚かせた。ダンテは捜査官のチェスターにナノマシンを注入されてエセルとこの世の創造主、つまりグレゴリーとの関わりを見つけなければ命がないのである。ダンテは、尋ねた。
「そのエセルのいる場所は?」
「この近辺の街にいるらしいよ。場所は……」
カーラは、地図を広げ指差した。そこは馬で駆ければすぐの場所である。ダンテは、すぐさま立ち上がった。
「ありがとう、カーラ」
礼を言い去って行くダンテをカーラは、意味深な笑顔で見送った。
ーーエセルがこの近くにいる。
ダンテは、馬を走らせながら、いつしかエセルのことを思い出していた。初めは控え目で清楚なそぶりを見せつつ、その本性はとんでもない跳ね返りの強い女だった。
ーーだが、本性を見せた以上、もう騙されない。
そう誓い馬を走らせ、目的の海沿いの街へと着いたダンテが辺りを見渡すと、丁度、祭りをやっている様である。馬を降りてその祭りの催し台へと人混みを押し除けて近づいて行くダンテはそこで見た。踊り子として催しの真ん中で踊るエセルの姿を。ダンテは思わず叫んだ。
「エセル!」
エセルは舞を踊り終えると催し台から降り、そこへ突如、目の前に現れたダンテをじっと見ている。だが、どうも様子がおかしい。まるでダンテの事など知らないかのような素振りなのだ。それでもなお迫るダンテに身の危険を感じたエセルは逃げ始めた。
「待てエセル!」
慌てて逃げていくエセルをダンテは必死に追いかけたが、途中で見失ってしまった。
「どこだ……」
辺りを見渡すダンテは、背後に気配を感じ振り返るとエセルが塀の上に立って見下ろしている。それを見たダンテは、エセルを捕まえるべく塀によじ登った。そんなダンテとエセルの追いかけっこは街の外れまで続き、やがて、海辺の崖に出たところでダンテはエセルを追い詰めた。背後を海に絶たれたエセルは、こちらに振り返り、ダンテに目を細めると懐からある物を出した。
「浮遊石!」
浮遊石を使われては、瞬間移動で逃げられてしまう。それを阻止すべくダンテはエセルに飛びついた。エセルの手から浮遊石がこぼれ落ち、その勢い余ってダンテはエセルと絡まって崖の下の海へと落ちて行ってしまった。その落ちていく中で浮遊石が作動し、エセルとダンテは、ともにとんでもない方向に瞬間移動をしてしまった。
瞬間移動をした先は、どこかの海の中である。必死に泳ぐダンテは、海に浮かぶエセルに近づくやその体を抱き抱え、近くの島へと持ち上げた。そこは崖の下にぽっかりと穴のできた空洞になっており、そこに動かなくなったエセルを引き込んだダンテは、唇を重ね人工呼吸を施し始めた。
しばらくして、エセルが息を吹き返し目を覚まし、ダンテを見て言った。
「あなたは……誰?」
「誰って、ダンテだよ。一体何の真似だよ、エセル!?」
だが、エセルはキョトンとしている。
ーーどうなってるんだ。一体……
ダンテは、エセルを見て呆然とした。演技なのか疑ったが、どうやら本当に何も知らないようである。それがダンテをますます混乱させた。




