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ダンテ戦記  作者: ドンキー
33/66

仮説

 結局、バルドとブルーノの本格的な決戦は、両者とも大した成果もなくただの痛み分けで終わった。その後、しばらくしてダンテにバルドからカーラの元へと走るよう使者としての指令が降りた。前の戦で怪我をしたカルロを置いての一人旅である。早速、ダンテは書状を懐に旅立って行った。

 ダンテは、ふと途中に広がる草原で止まると馬から降りた。今は何もない草原だが、そこは昔、覇者がぶつかり合う激戦があった場所だ。

 実は、バルドが軍が引き上げた後、ダンテは、夜、寝床に着きながら、今目の前に広がるような情景をよく思い浮かべるようになっていた。人気のない夏の草原をただ漂っている、かつて覇を唱えた兵が互いにぶつかり合い、そして、夢の中に消えて行った跡ーー

「多分、今こうして戦っている自分達の場所も数十年後、数百年後には何もない草原に成り果てているかもしれない」

 そう思うとこのような情景に限りなく焦がれるのだ。そう盛んに思うようになったのは、グレゴリーと別れてからである。ダンテの頭の中には、常に目の前に広がるような草原が離れずにあった。

 やがて、カーラの元に着いたダンテは、早速、バルドから預かった書状をカーラに手渡した。

「ご苦労ご苦労」

 カーラは書状の中身をチラッと見ると、大して確認もせず、じっとダンテの方を微笑みつつ、それでいて鋭そうな目で眺めている。

「あの……何か?」

 たじろぐダンテにカーラは、ニンマリ笑いながら言った。

「ダンテ、あんた何かされたね」

「え?」

 思わずドギマギするダンテにカーラはケラケラ笑いながら、周囲に目配せし、バリー達配下を下がらせた。やがて、二人きりになったところでカーラは言った。

「今のダンテは、ダンテなようでダンテでない。いや、違うな。ダンテでない様でダンテだ」

「と言うと?」

「あたいにも分からないよ。ただそんな気がするだけさ」

 カーラは、そう言うや目を細めながら、さらに聞いた。

「ダンテは、今のこの世の中をどう見る?」

「バルダロス軍とドリアニア軍の情勢ですか?」

 カーラは首を振った。

「もっと大きな視点だよ」

「それは……」

 思わずダンテは口籠った。無論、知っている。この世の、つまり下界の戦はゼノスの掌で転がされた賭場である事を。そして、そのゼノスをこの世の創造主のグレゴリーが握っていることも。だが、どうやらカーラはカーラなりの見立てがあるようだ。

「これは仮説だよ」

 そう前置きし、カーラは続けた。

「戦いの神様がいたとして、その神様が本能の赴くままに勝ち負けを張っている遊興の場がこの世界なら、ダンテはどうする?」

 カーラの問いにダンテはしばし考え、答えた。

「そんなふざけた神様は、俺が許さない」

 それはダンテの本音だった。戦に消えて行った人々の命は、弄ばれていいものであるはずがない。そう考えたダンテの頭にまたあの草原の情景が流れた。激戦を経て夢の中に消えて行った者達が眠るその人気のない草原、風になびく荒野がこみ上げる思いと共にダンテを掻き毟った。

 ーー何なんだ、一体……

 そんなダンテをカーラは、じっと観察している。

「そう言えば、話は変わるけどね」

 カーラは思い出したように言った。

「エセルがゼノスからこっちの世界にまた来てるらしいんだ」

「エセルが!?」

 思わず身を乗り出すダンテにカーラは、言った。

「何か大きな仕込みがあるらしいよ。ま、詳しくは分からないけどね」

 ーーエセルがこっちに来ている……

 その情報に複雑な思いを抱くダンテにカーラは、小さく笑った。

「また会えるといいよね、ダンテ」

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