バルド
湖でドリアニアの軍を退けたバルドは、本格的に一帯の支配者として統治を行う。そのバルドが何より重視したのが商業である。
通貨と度量衡を統一し、制服した地に一大流通網を築き独自の経済圏を拡大して行くと同時に異民族融和政策の下、現地に自らの支配勢力を溶け込ませていった。
バルドが一つに繋いだ征服地は、異文化の交流と融合を図る諸政策の下、膨大な上がりをバルドにもたらして行く。その様子をアロルドはダンテに間近で眺めさせた。それも全てバルドの指示だ。
「凄いだろう」
そう話すアロルドにダンテはうなずいた。
「統治、統率、戦略、どれをとってもあの人は天才だ」
人がバルドの掌の下で一斉に動いて行くのだ。その流れを生み出しているバルドについてダンテはアロルドに尋ねた。
「隊長は、なんで王があれだけ人を動かせると思いますか?」
アロルドは正直に答えた。
「分からん。だが、王は今、この世界を一変させようとしている。おそらくそのうちかつてない巨大な帝国を築くことになるだろう。その一端に関わる身として、私は歴史の見届ける生き証人になれることを光栄に思う」
それを聞いたダンテは考えている。
「どうした。不満か?」
尋ねるアロルドにダンテは言った。
「俺は生き証人になるだけでなく、実際にあんな風に人を動かしてみたいです」
考えてみれば、ダンテは今まで時代に巻き込まれ、振り回されて来た側の人間である。そんなダンテに取ってその正反対に位置するバルドは、自身の憧れや尊敬とは一線を画した存在だった。
振り回される側でなく、振り回す側になりたいーーそれは、ダンテに生まれて初めて芽生えた野心だった。
やがて、アロルドの元を去ったダンテは、カルロとともに街をまわった。どこも活気があり、市場に東西から取り寄せられた様々な物が満ち溢れ活気が漲っている。それを見ながらカルロは言った。
「なんだな。流通を通じ大陸が綱がって行く。こう言うのを見ていると世界が一体になって行くのが、手に取るように分かるよな」
「あぁ」
ダンテは、しばし考え、カルロに言い返した。
「だが、いつまでも俺達の軍が好き放題出来る訳じゃないだろう」
「ドリアニア、か?」
湖の戦でその大軍を破ったとはいえ、相手は強大な帝国である。それは変わらない事実だった。
「ま、いずれまた戦になるだろう。お互いいつ死ぬか分からない身だ。それまで存分に楽しませてもらおうぜ。兄弟」
カルロは、そうダンテをごつき、歓楽街へととも足を運んだ。まだ少年の域を出ない二人にとって、それは刺激の強すぎる場所だったが、早く大人になりたいその気持ちが二人を背伸びさせていた。
やがて、カルロがいち早く店を見つけ、一人残されたダンテが歓楽街をまわっていた時だった。いきなりドンとぶつかる人影にダンテは、振り返るとそこに一人の踊り子が立っている。
「あんた、バルドの兵隊?」
尋ねる踊り子にダンテは、うなずいた。
「そうだけど」
「私を匿って、追われてるの」
腕にしがみつく踊り子にダンテは何がなんだか分からないなりにうなずき、その踊り子を連れて走った。やがて、かなり離れた場所まで来たところで、ダンテは言った。
「ここまで来れば、大丈夫だ。一体、アンタはなんなんだ?」
「私は、エセル。これを」
エセルが見せた書状を見たダンテは、息を飲んだ。それは王のバルドの暗殺計画だった。




