噂
グレゴリーが去った後もダンテは、グレゴリーのあの目が忘れられずにいた。あの目は明らかにこちらを見据えていたのだ。ダンテはカルロとともにグレゴリーについてさらに調べを進めて行った。この街で何をしていたのか、非常に重要に感じられたからだ。
やがてダンテ達は、ある噂を耳にする。それは、今ある浮遊石の力を倍増させるカラクリ装置に関する噂だった。
「そんなものがあったら、バルダロスとドリアニアの軍事バランスが崩れてしまう」
危機感を覚えるダンテにカルロもうなずいた。
「そのカラクリ装置の情報を捉える必要があるな」
調べによるとそのカラクリ装置は、この街の地下深くに隠されていると言う。二人は地図を広げてその場所を探った。そして、怪しいと目される場所を見つけると夜の闇に紛れて忍び込んでみる事にした。
やがて、夜更になり、二人は密かにその場所へと向かった。そこは、河から引き込んだ水路に面した場所で、盛んに小舟が出入りしていた場所だ。しばらくそこで観察を続けた二人は、奇妙な光景を目撃した。次々に小舟の船荷が光を帯びるや次の瞬間には姿を消していくのである。
「何だあれは!?」
声を上げるカルロにダンテは、言った。
「浮遊石だ」
「浮遊石?」
「あぁ」
ダンテは、ゼノスでエセルが見せた浮遊石のもう一つの効能を思い出しながら言った。
「あの浮遊石には、そのエネルギーを一気に燃焼させ瞬間移動させる事が出来るんだ」
「じゃぁ、あの積荷に紛れ込めば、俺達も」
「あぁ」
うなずくダンテにカルロは言った。
「行こう」
二人は、警備の目を掻い潜ってその小舟に乗り込み積荷に紛れ込んだ。そして、次々に光を帯びていく積荷とともに二人の体も光を帯び、次の瞬間には別の場所に飛んでいた。
「ここは……!?」
瞬間移動した二人が辺りを見渡すとそこは、辺り一面にカラクリ装置が敷き詰められ、盛んに動いていた。その見たこともない異様な光景に二人は息を飲んだ。
「こんな技術、一体、どこから持ち込まれたんだ?」
カルロは目を丸くしてつぶやいた。明らかに自分達の文明とは異なる次元の世界がそこにはあったのだ。突然、ダンテの頭の中に直接、ある声が響いた。
『助けて……』
ダンテは、直感的に振り返ると、そこに檻の中に閉じ込められた猫がいるのを見つけ、近寄った。
「ダンテ、この猫がどうしたんだ?」
「あぁ、今、俺に助けを求めて来た」
「はぁ?。お前、猫の声が聞こえたとでも言うのか?」
怪訝な顔を向けるカルロにダンテは、うなずき、その猫を檻から出してやった。するとその猫は、ダンテの周りをくるくると回った後、走り抜けて行き、やがて、近くにあった扉の前で止まった。
「こっちへ来いって言ってる」
ダンテは、カルロにそう説明し、猫について行った。そして、ある部屋に入ったところで突然、姿を消した。
「おいダンテ。今、あの猫、消えなかったか?」
目を見開くカルロを横目にダンテは、その部屋に開かれた書物に目を止め、手に取るや頁をめくって驚いた。
「これは!?」
それは、この施設のカラクリ装置の設計図と浮遊石に関する理論書だった。と、物音がしてどこからともなく人の声が響いた。
「侵入者だ!」
その声は、どんどんと増えこちらに近づいてくる。
「おい、ダンテ。やばいぞ。バレた」
顔をひきつらせるカルロにダンテは、設計図と理論書を手に取るや、近くにあった浮遊石を握りしめた。
「確かエセルは、こうやって……」
ダンテは、エセルがゼノスで見せた瞬間移動を見様見真似で試みた。と、二人の体が突然、光を帯び、そして次の瞬間には辺りは二人が潜り込む前の水路にまで戻っていた。だが、そこにも警備の兵がいたるところにひしめいている。やがて、ダンテとカルロを見つけ叫んだ。
「あそこだ!」
「いたぞ!」
カルロがダンテに言った。
「おい、もう一回瞬間移動しようぜ」
「む、無理だ。あれはエネルギーを一気に消費してしまうらしいんだ。もう浮遊石はない」
「じゃぁ、どうすんだよ」
「逃げるしかない」
二人は、目の前に立ち塞がる警備の兵に体当たりするや、相手がひっくり返っている隙に夜の街を闇に紛れて走って行った。




