富
ゼノスから持ち帰った浮遊石は、カーラに莫大な富をもたらした。この浮遊石の運用が今後の軍事の鍵になるのである。バルダロスもドリアニアも惜しみなく浮遊石に国庫をこぞって注ぎ込んだが何分、両軍ともにその浮遊石の数が限られている。しかも浮遊石はそのエネルギーを消耗すると消えて無くなってしまうのである。その性質から容易には投入できず、ここぞと言うときの戦略兵器となり、自然と腹の探り合いになった両軍の戦局は膠着状態に陥った。
そんな矢先、カーラの元を離れバルダロスに帰って来たダンテとカルロに、バルドから新たな極秘の指令が飛んだ。ドリアニアのブルーノがまた何かを企んでいるらしいと言うのである。その情報収集の為、二人は行商に身をやつして旅立つ事になった。
「エセルはどうしてるかなぁ」
旅路でゼノスで別れたエセルを気にかけるカルロにダンテは、溜息をつきながら答えた。
「さぁ、うまくやってるんだろう」
「そうだな。それはそうとダンテ、ドリアニアのブルーノは最近、俺達の同盟都市国家に外交をかけまくっているらしいぜ」
「膠着状態に陥ったからな。抜け出すには調略も使うだろう」
「あぁ、それでブルーノの側近の凄腕が暗躍しているらしい」
「側近の凄腕?。そりゃ厄介だな」
その後も二人は、話をしながらやがて、目的の城についた。その城は最近、バルダロスからドリアニアに寝返った城である。遠目にその城を眺めながら二人は、城下町へと足を運んだ。お馴染みの敵情視察である。そこで二人は耳寄りな情報を手に入れた。
ドリアニアの特使としてグレゴリーが今、この城に来ていると言うのである。
「グレゴリーが!?」
二人は顔を見合わせた。確かにブルーノの側近の凄腕である。
「ドリアニアの軍師、ブルーノの教育係として彼に英才教育を施したのも奴だ」
そう話すカルロにダンテは首を傾げた。
「そんな凄腕爺さんが自ら足を運ぶとは、何事だろう」
「調べる価値ありだな」
二人は、さらに調べを進め、そこでここの有力者の屋敷にグレゴリーが訪れるらしいという情報を手に入れた。
「行ってみよう」
ダンテとカルロは、うなずき合いその屋敷へと向かった。
「あそこだ」
屋敷にたどり着いたその屋敷は、警備が厳重に敷かれている。二人は遠目にその屋敷を観察した。その物々しい様子からしてどうやら中にグレゴリーが入っている様である。
「中で何をしているのだろう」
疑問に思うダンテにカルロも言った。
「ここからじゃ分からない。中に潜り込もうにもあれだけ警備が厳重だとな」
止むを得ず、二人は遠目からその屋敷を観察し続けていると、不意に扉が開き中から白髪白髭のグレゴリーが杖を付いて姿を現した。
「奴だ」
思わず声を上げるカルロにダンテもうなずき、物陰から遠目に見つめているとグレゴリーは、ニコニコしながら馬車の方へ歩いていった。
「本当に仙人みたいな奴だな」
カルロはそう呟いた矢先、ふとグレゴリーは歩みを止め、こちらに振り返った。
「何だ!?」
「この距離でバレたのか?」
ダンテとカルロは、息を飲み声を殺した。グレゴリーはじっとこちらを見たままニンマリと目を細めて笑った。その瞳は明らかにダンテの方を向いている。
ダンテは、その全てを見透かす様な何とも言えない視線に思わずぞくっとした寒気が走った。やがて、グレゴリーは遠目にうなずくと再び顔を背け、馬車に乗りこんで行った。
「気味の悪い爺さんだな」
そう感想を述べるカルロにダンテは、黙ったままコクリとうなずいた。




