三年
「ダンテ!」
船に戻って来たダンテをカルロが走って出迎えた。
「どこ行ってたんだよ兄弟。心配したぜ」
「あぁ、ちょっとな」
複雑な表情で答えるダンテにカルロは尋ねた。
「エセルは?、一緒じゃなかったのか?」
「エセルは……このゼノスに消えた」
「消えた?」
「あぁ」
そう話すダンテにカルロは、うなずいた。
「そうか。まぁ、エセルはこのゼノスが目的地だったんだしな。やっと辿り着けたんだ。エセルの自由にしたらいい。けどちょっと寂しいな。あの清楚なエセルがいなくなると」
ーー清楚、ねぇ……
何も知らないカルロにダンテは、敢えて何も語らないまま、ふと修繕された船に運び入れられていく荷物を眺めた。
「浮遊石か?」
「あぁ、くれるってよ。ゼノスの奴らは随分気前がいいんだな。だが、これでわがバルダロスもドリアニアに対抗できる様になったって訳だ。これからこの浮遊石の有無が戦の勝ち負けを大きく左右する様になるだろうからな」
「そうだな」
ダンテは虚ろに答えつつ、冴えない顔でその浮遊石を眺めた。まさかこれがエセルの差し金で、バルダロスとドリアニアを激しく争い合わせることが賭場を盛り上げる目的だとはとてもカルロには話せなかった。何より言っても信じないだろう。
全てを知ってしまったダンテにすべき事は一つ、チェスターが話していたこの世の創造主を探し、エセルとの接点を見つけ出す事である。
チェスターによるとその創造主は、下界にいてバルダロスとドリアニアの戦の成り行きを見守っているらしい。案外、自分達と同じ様な歩兵として従事しながら、この世の戦模様を楽しそうに観察しているのかもしれないのだ。
「創造主だか神様だか知らないけど、随分、シャクな奴だ」
ダンテは、一人、溜息をついた。
「お頭、船の修理も、船荷の積み込みも終わったぜ」
バリーから報告を受けたカーラはうなずき言った。
「じゃぁ、帰るとするかい」
カーラの目配せを受けたバリーは、船乗りに乗船命令を出した。それを受けカルロは立ち上がった。
「よし、行こうぜ、ダンテ」
「あぁ」
ダンテはうなずき、カルロとともにカーラの船に乗り込んで行った。やがて、全員が乗り込んだのを見届けたカーラは、バリーに出航命令を出した。
「帰りは空路だ」
カーラが見守る中、船がフワッと砂浜から浮き上がった。船内に満載した浮遊石の効果である。やがて、船首を海原に向けたカーラの船は、そのまま飛んでいき、ゼノスから離れて行った。
その船の甲板でダンテは離れて小さくなっていくゼノスを眺めながら、チェスターとの別れ際の会話を思い出した。
『いいかダンテ、お前の体にはナノマシンが注入されている。もし、逃げようとしたり、創造主を見つける事が出来なければ、ナノマシンはお前の体の生命活動を停止させるだろう。期限は三年だ。それまで下界に紛れ込んだ創造主を探し出すんだ。いいな』
『分かった』
『連絡手段は追って知らせる。下界中に仲間がいておまえの活動を見守っている。期待しているぞ』
「三年、かぁ……」
ダンテは遠い目でゼノスを眺めながら、一人、つぶやいた。それまでにその気紛れな創造主を下界中から探し出さねばならないのだ。
「厄介な事になったな」
だが、意外と悲観はしなかった。所詮、奴隷として生まれ、バルドに拾われた命である。
「死んでもともとだ」
ダンテの気持ちは、いつしかすっかり切り替わっていた。




