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ダンテ戦記  作者: ドンキー
25/66

チェスター

「何なんだ、一体」

 追われるダンテは、ひたすら走った。やがて、街の裏通りに来た所でふと声がかかった。

「おい、下界の人間。こっちだ!」

 ダンテが振り向くとある男性がこっちを見ている。

「アンタは?」

「チェスター捜査官だ。いいか。お前には二つの道がある。連中に捕まってしょっ引かれるか、俺と組んで助かるか」

 ダンテは、チェスターと名乗る男をじっと見た。そうこうしているうちに追手が迫って来ている。考えている時間はなさそうだ。迷いつつダンテは、チェスターにうなずいた。

 と、扉が開き中に引き入れられたダンテは、やがて追手が目の前を通過していくのを確かめ、フゥッと溜息をついた。そして、荒い呼吸を整えるとチェスターに聞いた。

「アンタ、このゼノスの人間なのか?。なぜ俺を助けるんだ?」

 チェスターは、言った。

「私は今、ある犯罪者組織を追っている。そこで君の助けを得たい」

「犯罪者組織?」

「あぁ、エセルを知ってるな」

 ダンテは、その名に目を見開いてうなずき、聞き返した。

「エセルが犯罪者組織の一員だって言うのか?」

「一員も何も、アレは完全な胴元だ」

「胴元?」

「あぁ、闇賭博のな」

 それを聞いたダンテは、要領を得ない様子だ。チェスターが補足した。

「このゼノスで影で非公式に行われているギャンブルだよ」

「ギャンブル……そんなのがこの俺に関係があるのか?」

 チェスターは、溜息をついた後、諭す様に言った。

「その闇ギャンブルの賭けの対象が君達だからだよ」


 その頃、エセルは教会で神父を待っていた。

「エセル様!」

「よぉ神父、久しぶりだな」

 エセルは目の前に現れた神父にニヤリと笑うと言った。

「どうだい。あたしがいない間のあんばいは?」

「はい、全ては神の導きのままに」

「いいねぇ。その神の導きって奴を聞かせておくれよ。今、一番熱いバルダロス軍とドリアニア軍の試合ベッティングでな」

 意味深な目を向けるエセルに神父はうなずき答えた。

「バルダロス軍はドリアニア軍に対し、オッズ0.24。カーラ水軍が加わったとは言え、以前、ドリアニア軍が優勢と見られてます」

「ラウンドベッティングは?」

「ファイト・トゥ・ゴー・ザ・ディスタンスが人気です」

 エセルは、思わず目を細めた。

「よし、順調だな。景気付けだ。あたしも賭けるよ」

「賭け金はどうされます?」

「神父に預けている奴全部さ」

「いいでしょう」

「ふふっ、フィオナの姉貴はドリアニアに賭けてるらしい。あたしは断然バルダロスだね。結局、意見は割れて別れたが、まぁいい。せいぜい張り合ってもらおう。その方が儲かるだろう」

「はい」

 神父はエセルにニンマリ笑った。

「じゃあ、分かってるな?」

「八百長ですな」

「あぁ、カーラが今、こっちに来てる。奴に浮遊石を五万リル流すんだ。それで、ドリアニアとバルダロスはある程度、拮抗する。それはそうとここに来る時、ローチェ家の船を見た。中身は空だった。お前達がやったのか?」

 神父はうなずき、答えた。

「えぇ、下界の人間が欲が突っ張り過ぎる。バランスが崩れるまでに浮遊石を密輸しようとしていたんでね。処罰しました」

「いいね。戦争ほどこの世を興奮させる賭け対象はない。せいぜい下界の人間には、争ってもらおうじゃないか」


「つまり、このゼノスの人間達は僕達の戦争を賭けの対象にして楽しんでるって事?!」

 チェスターから説明を受けたダンテは、あまりにも想像を超えた内容に唖然とした。

「あぁ、それが余りに酷く八百長まで横行したんで、その首謀者の一味のエセルとフィオナは、罰として下界に落とされた。だが、彼女達はゼノスにいた頃から下界を操る道具としていたローチェ家を使って、再びこのゼノスの闇ギャンブル業界で暗躍し始めた。それを取り締まるために私の様な人間がいるのだ」

 チェスターは、うなずきなおも説明を続けている。だが、ダンテにとっては、信じられない事の連続で、もう全く内容が頭に入らなくなっていた。

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