伝説
ゼノスへの海の船旅に出始めたカーラ達は、オケアニス海を離れ支配地域外の海域へと足を踏み入れた。星の位置と羅針盤を手掛かりに船を進めるカーラは、その日も航海日誌を書き込みながら考えていた。
「ゼノス、か……」
謎多きその伝説に挑むのである。血湧き肉躍るものがあった。ダンテ達もすっかり船旅に慣れたようで船員に馴染んで作業をしている。この調子で行けば、本人にその気があるかどうかはともかく立派な海賊になれそうである。
「ダンテ達が海賊か、それもいいね」
そんなことを考えながら、航海日誌を書き進めていたとき、甲板からバリーが駆け込んできた。
「お頭、ちょっと来てくれ」
「どうしたんだい?」
カーラは、バリーに連れられ、デッキに上がり海に目を向けるとそこに一隻の船が漂っている。不審に思いよく眺めるものの人影はない。
「ドリアニアの旗が立っているが、あの船の形、明らかにローチェ家のものだ」
望遠鏡で確かめるカーラにバリーが聞いた。
「どうする?」
「調べよう」
カーラはすぐさま指示を出し、ダンテ達を引き連れ小舟に乗り込んでその船に近寄った。下からその船に声をかけるものの返事がない。カーラ達は思い切ってその船に乗り込んでみた。船の上は不気味なほどにひっそりと静まり返っている。
「お頭」
「あぁ」
カーラとバリーは顔を見合わせ、船の扉に近寄ると、一気に扉を開け中に入り込んだ。そして辺りを見渡し、カーラ達は首を振った。
「誰もいない」
やはり、無人である。争った形跡もない。忽然と船員のみが消えているのである。
「どういう事だろう」
カーラ達は首を傾げつつ、奥へと進むと船底に木箱が積まれている。
「開けてみよう」
厳重に閉じられた木箱を開け、中身を確認して、エセルが声を上げた。
「これは……浮遊石」
「浮遊石?、これが?」
尋ねるカーラにエセルはうなずき、そっと浮遊石を取るや、掌の上で浮かび上がらせた。カーラは興奮気味に言った。
「この船は、ゼノスに行っていたんだね」
カーラの目が俄然、輝き出した。
「バリー、行こう」
さらに奥へと進んでいくカーラ達は、やがて船長室らしい場所を見つけた。中に入って見るとやはり、無人である。その机の上には、無造作に航海日誌が置かれていた。ページを開いたカーラは、思わず声を上げた。
「これは……」
そこには、ゼノスへの旅の過程が克明に記されていた。
「これがもし本物なら、ゼノスへの道が開けるよ」
カーラは興奮しながら、ページを読み進め、だが、次第に眉を潜め始めた。どうやらこの船はゼノスで何かあった様である。乱れた筆跡で書かれた内容は、得体の知れない見えない何かに船員達が呪われ、次々に姿を消していく様が記されていた。そして、最後のページ、そこには判読不明なほどに乱れた字で『ゼノスの正体を知るべきではなかった……』と記され、途絶えていた。
「どういう事だろう」
カーラ達は、首を傾げた。ふと、その航海日誌から一枚の紙が溢れ落ちた。そこには、見たこともない文字が記されていた。
「読めるかい?」
カーラはダンテ達に見せるものの皆、首を振った。ただ、エセルだけは表情を曇らせたのをカーラは見逃さなかった。
その後も、色々調べてみたものの収穫はなく、カーラは航海日誌を手にしながら言った。
「とにかく帰ろう」
小舟に乗りながら、カーラは再びその無人船を振り返った。
「一体、何があったんだろうね」
カーラ達はただ、首を傾げるのだ。




