事業
その後、バルダロスとドリアニアの戦況は膠着状態に陥った。そんな中、ダンテはカルロとエセルを連れて再びカーラの元へ使者として向かった。
「それで、バルド王は無事なんだね」
「無事です」
尋ねるカーラにダンテはうなずいた。
「そうかい。話には聞いてるよ。浮遊石だって?。ゼノスの伝説は本当だったんだね」
「その事なんですが……」
本題に入るべく話を切り出そうとしたダンテの機先を制して、カーラが言った。
「一緒にゼノスを探して欲しいんだろう」
「えぇ……まぁ」
「いいよ」
あっけらかんと了承するカーラにダンテが呆気にとられていると、カーラはバリーに地図を広げさせ、指差した。そこには、ゼノスに向けてカーラが集めた情報が丹念に書き込まれている。ダンテ達が来る前にあらかじめ用件を察して、調べさせたのだ。
カーラは、バルドにとってこれ以上はない忠実な同盟者に率先してなろうとしていたし、それ以上の存在になろうともしていた。
そんなカーラにダンテは、ふと、以前、バルドが話していたことを思い出した。カーラは鋭すぎる。いずれバルドが大陸に覇を唱えるときにそれがネックになるかもしれない、と。
だが、何にせよ今は大切な同盟先でゼノスの手がかりを得るための重要な相手だ。当面はゼノスに集中することにした。カーラの情報によるとゼノスは遥か南の地域に存在が噂され、しかも、時間によって現れる場所が異なるという話だった。
「とにかく海路で付近に向かって、あとはそこで情報収集するしかないね」
カーラは、そう話を締めた。
それから数日後、カーラは正式にバルドの要請を受けてゼノスを探す事業に乗り出すことになった。船内に次々に荷物が運び入れられる様子をカーラが眺めていると、エルマーがやって来た。
「どうしたんだい、伯父貴?」
尋ねるカーラにエルマーは、溜息混じりに言った。
「今回の事業、お前が自ら乗り出すと聞いた。本気なのか?」
「あぁ、水軍の方は伯父貴、頼むよ」
「構わんが、お前も知ってる通りあの一帯は今は危険だ。お前は今や頭なんだぞ。何もお前が行かなくても」
それを聞いたカーラは、かぶりを振った。
「ダメだよ。あたいが行くから意味があるんだ」
「バルダロスとの同盟のためか?」
尋ねるエルマーにカーラは、視線を海の向こうに向けながら言った。
「伯父貴、あたいはバルドの単なる同盟相手で満足はしてないよ。集めた情報を元にしたあたいの勘だけど、ゼノスは単なる浮島じゃない。もっとこの世の根幹に迫る秘密が隠れてるはずだ。あたいはそれをバルドより先に知りたいんだよ」
「なぜそんなにバルドにこだわるんだ」
その問いにカーラは、ふっと笑いを浮かべ黙り込んだ。
「まぁいい。昔から意味のない事はしないお前のことだ。だが、無茶はするなよ」
「あぁ、分かったよ。伯父貴」
「エセル」
荷を船に運び入れるダンテは、柱の影で休むエセルに声をかけた。
「いよいよだね」
「えぇ」
エセルはうなずいた。その瞳は、これまでにない野心に溢れていた。そんなエセルに後ろからカルロが聞いた。
「エセル、本当に君も行くのかい?」
「もちろんよ」
「危険だよ。どうなるか俺達だって分からない。それでもかい?」
「えぇ」
どうやら決意は固いようだった。そんなエセルにダンテとカルロは、顔を見合わせるとうなずき合った。二人は、エセルにはエセルの事情があるのだろうぐらいに思っていた。
やがて、出航の日、見送りに来たエルマーにカーラは言った。
「じゃぁ伯父貴、行ってくるよ」
「あぁ、気をつけてな」
カーラは、手を振り、ダンテとカルロとエセルを連れて、ゼノスに向けて船旅へと大海原に飛び出して行った。




