強襲
その頃、バルドとブルーノは距離を取って野営陣地を展開し、睨み合っていた。そのバルドの元に突如、急報が入った。
「何だ、騒がしい」
バルドはその報告を聞いて耳を疑った。
「どう言うことだ?」
自らテントから出て空を仰いでその意味を知った。
「あれは、何だ!?」
何と船が空を飛んでこちらに向かって来ているのである。空前の出来事に皆の目が空に釘付けになっている最中、さらなる事態が展開した。突然、現れるはずのない場所からドリアニアの軍が現れ強襲して来たのである。まさに寝耳に水だった。
完全な奇襲を受けたバルダロス軍は、たちまち大混乱になり、そこを一気に攻めかけるドリアニア軍を前に総崩れとなった。
「うまく行ったな。爺」
ドリアニアの本陣で戦果を聞きながらブルーノは、愉快に笑った。
「左様でございますな。あとはバルドの首を取るのみでございます」
「うむ」
グレゴリーにうなずくブルーノは、さらに全軍を動員し追撃の命令を下した。勢いに乗ったドリアニア軍は、怒涛の勢いで攻め立てバルドの本陣まで迫った。
「王、ここは私が引き止めます。王は撤退を!」
進言するアロルドにバルドはかぶりを振った。
「私は残る。このままおめおめと引き下がれるか」
なおも指揮を取ろうとするバルドの馬の尻をアロルドは、鞭で思いっきり叩いた。驚いた馬はバルドを乗せて走って行った。
「王、どうかお達者で!」
アロルドは、強引にバルドを撤退させ、その背中を見送った後、自らが盾となって殿を務めた。
バルドの敗報を旅先で知ったダンテ達は、知らせてくれた仲間に聞いた。
「それで王様は、無事なのか?」
「分からない」
首を振る仲間にダンテ達は、顔を見合わせた。
「とにかくケレポリスまで撤退せよ、とのことだ」
そう話す仲間にダンテは、うなずいた。
「ケレポリスへ向かおう」
ダンテは、そう言い、カルロとエセルとともにケレポリスへと向かった。
バルドは、命からがら馬を走らせ、何とかケレポリスまで逃げ延びることが出来た。
「王よ、よくご無事で」
ケレポリスで軍を張るバルドの将のバイロンは、傷だらけのバルドに駆け寄った。
「バイロン、ここの守りはどうだ?」
「ご心配なされますな。万全でございます」
「うむ」
バルドは、大きなため息をついた。何とか命は助かったものの、稀に見る大敗である。まさに信じられない出来事の連続だった。
「あれは何だったのだ……」
バルドの脳裏には、突如、上空に現れた空飛ぶ船の記憶が鮮やかに刻まれていた。
「実は、その事で報告が上がっております」
バイロンは、浮遊石を持ち帰って来たダンテ達の話をバルドに聞かせると、バルドはすぐさまダンテ達を呼ぶよう手配した。
やがて、バルドの前に現れたダンテ達は、バルドにその浮遊石を見せた。バルドは、掌の上で浮かび上がる浮遊石を感嘆の表情で眺めている。
「どうやらこの浮遊石がドリアニアに持ち込まれているらしいんです」
そう説明するダンテにバルドは表情を曇らせた。
「しかし、なぜ今、これまで伝説にしか過ぎなかった浮遊石が出回るようになったのだ」
疑問を呈すバルドにエセルが言った。
「ゼノスに何か起きているのかもしれません」
バルドは、エセルにうなずきつつ、つぶやくように言った。
「ゼノス、か……」
それまで伝説に過ぎなかったゼノスは、今や不気味な存在へと認識が変化した。




