暗躍
ダンテはカルロとエセルを引き連れて旅に出ていた。次の戦いに向けての情報収集の任務を秘めている。旅芸人を続けながら、辺り一帯の地図を作成しつつ、現地の情報を克明に記していくダンテ達は、ある街でバルダロスとドリアニアの間を行き来するローチェ家の動きを掴むことに成功した。フィオナが暗躍しているというのである。
「フィオナ姉さんが?!」
思わず声を上げるエセルに旅先で出会った男は、言った。
「ここら一帯にかなり金をばら撒いているな」
「あいつら、今度は何を企んでやがるんだ」
考え込むカルロを横目にダンテは、さらに男に尋ねた。
「それで、フィオナは今どこにいるんだ?」
だが、男は黙りこくっている。意を察したダンテは、さらに金貨を渡し、それを男はおもむろに受け取るや声を潜めながら答えた。
「ここから西へ行くと洞窟がある。そこにいる」
「洞窟?」
「あぁ、何かの準備をしてるらしい。俺が知ってるのは、ここまでだ」
「分かった。有り難う。これで好きに飲んで行ってくれ」
ダンテは男に礼の金貨を弾むとカルロ、エセルとともに席を立った。
「おいダンテ、信じるのか?」
尋ねるカルロにダンテは、言った。
「確かめる価値はあると思う」
翌日、三人は早速、西の洞窟へと向かった。やがて、それらしい場所にたどり着いた三人は、こっそり辺りを伺った。
「おい、誰か来る」
カルロが人の気配に気付き、ダンテとエセルとともに慌てて身を近くの木陰に隠した。そして、やって来た男達の中に見知った顔を見つけ、ダンテは思わず声をあげた。
「あれはっ!」
「ダンテ、知ってるのか?」
尋ねるカルロにダンテはうなずいた。
「フィオナと一緒にいた……確か名は、コリンとグレイス」
ダンテ達は、木陰に隠れたまま男達を観察すると何かを運んでいるようである。荷を積んだ馬車を引き連れて、洞窟の中へと入って行った。
「何を運んでいるんだろう」
遠目に覗き込むカルロにダンテは、言った。
「調べてみよう」
三人は、そのまま洞窟へ歩み寄るとそのまま中へと入って行った。やがて、洞窟の中にコリンとグレイスとともにもう一人の見知った人影を確認した。
「フィオナ!」
ダンテ達が遠目に覗き込む中、フィオナは、コリンとグレイスに指示し積荷を広げ始めた。
「なんだ、あれは?」
「ここからじゃ分からない」
ふと外から新たな荷が到着したらしく、フィオナ達が様子を見に洞窟を離れ始めた。ダンテ達は、思い切ってフィオナ達が広げていた積荷の近くへと走り寄り積荷の中身を確認した。正体は、石だった。
「こんな石ころ、どうするつもりなんだ?」
ダンテがカルロと首を傾げているとエセルが目を見開いて言った。
「これは……浮遊石!」
「浮遊石?」
「何それ?」
尋ねるダンテとカルロにエセルは、その石を手に取りながら説明した。
「ゼノスに宿るとされる鉱石です」
「ゼノスって、前にエセルが話していた空に浮かぶ島の伝説の?」
「えぇ、本当にあったなんて……」
エセルは、手に取った浮遊石を頭の上で離してみた。すると浮遊石が宙に浮かび始めたのである。
「浮かんでる!」
ダンテとカルロは、目を見開き信じられない表情で宙に浮かぶ浮遊石を眺めた。




