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ダンテ戦記  作者: ドンキー
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キーロ島

 暴風雨の中、夜陰に紛れて渡海し、キーロ島へ上陸する一大作戦が強行された。先頭を進むのはバルドを乗せたカーラの船である。

 目印となるべく先導するカーラの船以外は、全て火を落としている。敵に発見されるのを恐れてである。大揺れの船の中でダンテは、カルロとともに必死に柱に捕まって凌いだ。

「うちの王様も無茶を言うぜ」

 ぼやくカルロにダンテも同調した。確かに無謀としか言いようのない行動ではある。だが、大軍を寡兵でもって制するには、多少の無茶もやむを得ない部分もあった。雷が轟き、雨風が荒波とともに叩きつけて来る中を、少しずつキーロ島へと進んでいくその様は、まさに命懸けだった。だが、カーラ水軍はその無茶をやってのけた。その晩のうちにバルド達の奇襲部隊全軍をキーロ島へ渡海させることに成功したのである。

 次々に浜辺に上陸するバルドの軍は、体制を整えるやデニスが本陣を構える拠点の背後へと向かった。既に嵐は去っており目の前には無警戒のまま野営陣地を敷くデニスの本陣が広がっている。バルドは、剣を引き抜くや全軍に命令した。

「かかれぇっ!」


 はじめ、デニスは何が起きたのか分からなかった。騒ぎが起こり、駆けつけた部下の報告により、バルドが攻めて来たことを知ったデニスは腰を抜かした。ただでさえ、この暴風雨である。それもあのバルドがこんなに早く上陸して来るとは、思っても見なかったのである。

 たちまちデニスの軍は、大混乱に陥った。しかもこの狭い島の中に押し込まれた大軍であるだけに自由な動きができない。そこを容赦なく攻め立てられ、同士討ちまで起こる始末だ。

 我先に助かろうと逃走する兵は、海辺に駆けつけた。だがそこに自分達が乗って来た船がほとんどなくなっている。手を回したカーラ水軍がことごとく沈めてしまっており、デニスの軍の退路を絶ってしまっていた。

 阿鼻叫喚となるデニスの兵達は、残り少ない船を奪い合い、デニスも命からがら船を見つけ乗り込み島からの脱出を試みた。幸い暴風雨は既に止んでいる。必死に軍団を立て直し島を出ようとするデニスは、目の前の光景に息を飲んだ。カーラ水軍がその動きを塞ぐべく包囲して現れたのである。


「逃さないよ」

 カーラは、デニスの艦隊を眺めながら、バリーに合図した。するとカーラ水軍の中から火のついた燃え盛る船が現れた。その火船をカーラ達は、二隻の船で引っ張って、脱出して来たデニスの艦隊目掛けて解き放った。

 勢いそのままに風と波に乗った火船は、次々にデニスの艦隊にぶつかり、船団に大混乱を引き起こして行った。隊列を乱したデニスの艦隊は、完全に無秩序な集団と化し、一隻、また一隻と組織的なカーラ水軍の前に沈められ、陸地に残された兵も大した統率も取れないまま次々に討ち取られて行った。そして、翌日、捕らえられたデニスはバルドの前に跪いた。戦いはバルドとカーラの完全なる勝利で終わった。


 キーロ島の戦いの結果を固唾を飲んで見守っていた者がいる。ローチェ家の主人、ブラッドレーである。現地からのレポートを読んだブラッドレーは考えている。勢い盛んなバルダロスに対して、ドリアニアもいよいよブルーノ本人が乗り出す気配になっていると言う。

「しばらくは消耗戦になるだろう」

 ブラッドレーは、虚空を睨みながら考えていたが、やがて、ある者を呼んだ。そこに現れたのは、あのフィオナだった。

「来たか」

 ブラッドレーは、フィオナを見るやある命令を下した。

「分かったか?」

 うなずくフィオナを見てブラッドレーは、満足げにフィオナを下がらせた。


 その夜、フィオナはコリン、グレイスを連れてローチェ家の屋敷から密かに夜の闇の中に去って行った。

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