ゼノス
カーラは、航海記録を取り出すと地図とともにエセルに見せた。
「ここだ。世界の最東端の島国ジオマラに寄ったときだ。いい商いが出来たからよく覚えてるよ。場所はここだよ」
カーラが指差す地図をまじまじと眺めるエセルは、何かに取り憑かれた様だ。
「もっとゼノスの事を教えて下さい。知りたいんです」
「あたいも直接見た訳じゃないからね。何でもそいつが言うには……」
そこから話し出すカーラの話は、とてもこの世のものとも思えないものばかりだった。金銀財宝、溢れる富、空中浮遊技術、この世と隔絶されたそこは、まさに夢の中の世界である。それをエセルは、食い入る様な眼差しで熱心に聞き続けた。
「ま、本当かどうか分からないけど、あたいも一度は行ってみたい場所だね」
カーラはそう言いエセルに笑った。
「今夜は泊まって行きなよ」
そう話すカーラは、警戒するダンテとカルロを笑った。
「心配しなくていい。ゆっくりしていきなよ」
ダンテ達は与えられた部屋で横になり、話し合った。
「どう思うカルロ?」
「カーラか?」
「うん、信用出来るかな」
「まぁ、海賊の頭任されるだけの貫目はあると思うぜ。まぁそれにしても……」
ダンテとカルロはふぅっとため息をつき、天井を眺めた。カーラはあの年にして既にこの世界を一周しているのである。大海原を股にかけるカーラと大陸でこせこせとしている自分達とは、まさに見ている景色が違っていた。
カーラは世界を知っているーーそんなスケールの違いを見せつけられた気分だった。
ダンテはふと、部屋の端でうずくまって考え事をしているエセルを見た。伝説のゼノスについて盛んにカーラから話を聞いていたエセルは、普段の大人しい様子からは想像も出来ない情熱ぶりだった。
「エセルは、そのゼノスってところに行きたいの?」
尋ねるダンテにエセルは、言った。
「行きたい……と言うより、行かなきゃならないんです。私……」
エセルは、ずっと考え事をしていたが、やがてポツリと言った。
「それが私の宿命なんです」
そして、それ以降、黙り込んでしまった。
その頃、別室ではカーラがエルマーの元を訪ねていた。
「伯父貴、いいかい?」
カーラは、エルマーの前に座ると二通の書状を差し出した。
「こっちがドリアニアのもの、そしてこっちがバルダロスのもの」
エルマーはうなずきカーラに聞いた。
「条件はどうだ?」
「似た様なものだよ。共に五分の同盟関係を望んでるね」
「そうか……」
エルマーは考えている。遠征で勢いの激しいバルドを取るか、いまだ帝国の地位を脈々と継ぐブルーノを取るか、それによってカーラ水軍の命運が決まってくるのである。ふとエルマーは小さく笑った。
「昔を思い出したよ。お前が世界に出たいと言った頃の事をな」
「あたいは世界を知りたいんだ。どうなっているのか、どんなところがあるのかをこの目で見てこの足で行きたい」
「あぁ、そうだったな。まだ幼少だったお前が何を言い出すのかとそのときは思ったが、だが結果として我らは膨大な富を築くに至った」
エルマーは感慨深そうに話している。
「カーラ、ワシはもう長くはない。お前の勘に任せる。この海はお前のものだ。お前のやりたい様にやればいい。いいな」




