デニス
ネロへの電撃的奇襲を成功させた武将は、以前、ローテ湖でバルドに大敗したデニスだ。デニスのバルドへの恨みは深い。それだけに今回の作戦には、自身の全てを賭けて臨んでいた。それを成功させただけにデニスは笑みが止まらない。
「今頃、バルドの奴は慌てふためいているぞ」
そうほくそ笑むデニスに側近もうなずいた。加えてもうこの季節である。散らつき始める雪に軍は動けない。お互いに冬営に入る時期なのだ。
「本国から連絡はないか?」
尋ねるデニスに側近は、首を振った。
「このまま冬営し、戦力を温存させつつ、バルドを圧迫し続けよ、との事です」
「であろうな」
デニスは、ふんっと鼻を鳴らした。このまま決着をつけたいところだが、それはさせてくれないだろう。特に王のブルーノの後ろにいる軍師のグレゴリーが黙ってはいない。
「まぁいい。幸いこの一帯は、作物も豊富であり、冬営に適している。じっくり腰を構えさせてもらおう」
机上の地図を眺めながら、デニスは一人、うなずいた。
バルドの軍は、ロキを中心に冬営を始めている。バルドは忸怩たる思いだった。まさかこの自分がここまで出し抜かれるとは思っても見なかったのだ。
「今度のドリアニアの王のブルーノって奴は、若いくせに相当なキレ者らしいな」
バルドは、そう認めざるを得なかった。事態は膠着状態である。こうなった以上、下手に動いた方が負けのなのだ。
「だが、打つべき手は打っておく必要がある」
バルドはアロルドを呼び、ある手を命じた。
「人選は任せる」
そう話すバルドにアロルドはうなずき、下がっていった。アロルドが呼んだのは、ダンテとカルロとエセルの三人である。
「お前達にまた頼みたい事がある」
アロルドは机上の地図を指差しながら、話し始めた。
「知っての通り、ネロが強襲されドリアニアの手に落ちた。そうなった以上、以降の進軍ルートは限られて来る。そこで重要になるのが制海権だ。オケアニス海を今握っているのは、海賊のカーラの一派が率いるカーラ水軍だ。この一派を味方にする必要がある」
それを聞いたダンテがうなずきつつ、尋ねた。
「でも、カーラは中立を宣言して、自らも襲われない様に拠点をころころ変えているって噂じゃ」
「あぁ、だがどうやらこの港近辺に陣を張っているらしい噂を入手した。お前達は至急、あたり一帯を調べ場所を突き止めて使者として赴いて欲しい」
三人はうなずき、旅支度を始めた。
「エセル、悪いね。今回も付き合ってもらうことになって」
断りを入れるダンテにエセルは首を振った。
「私はいいんです。旅慣れてますし、もともと帰る宛もない身ですから」
「次はカーラの一派か」
カルロが先頭を歩きながら、言った。
「オケアニス海を支配して、随分、アコギなシノギもやってるらしいぜ」
「でもバルダロスにもドリアニアにも属さずやるなんて凄いよね」
そう話すダンテにカルロもうなずいた。
「何にせよ連中のアジトを突き止める必要がある。港に行ったら早速、情報収集だな」
ふとダンテは何か考え事をしているエセルに気が付き声をかけた。
「どうしたの、エセル」
「いえ、ちょっと……フィオナ姉さんの事を考えていて」
ロキ攻略の際、炎の中に身を投じたフィオナの行方は結局、分からず仕舞いだ。だが、ダンテには直感があった。
ーーきっとまだどこかで生きている。そのときは……
いつか来るであろう決着の日を見据え、密かに覚悟を決めるのだった。




