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ダンテ戦記  作者: ドンキー
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艦隊

 ロキの最も脆弱な部分の入江に艦隊の侵入を許した城内は、大混乱に陥った。バルダロスの艦隊はここぞとばかりに入江から上陸するとロキの城壁を次々に登って行った。さらに陸からもロキへの一大攻勢が続いている。あたりが騒然となる中、その隙に乗じてエセルは部屋を飛び出すとダンテが監禁されている牢獄へと走った。

「ダンテ!」

「エセル!」

 ダンテの前に現れたエセルは、鎖に繋がれたダンテを解放すると牢から出した。

「逃げよう」

 ダンテは、うなずくエセルの手を繋ぎ走った。辺りは既にロキへの侵入を果たしたバルダロスの兵によって火の手が放たれている。壮絶な斬り合いが繰り広げられる中、脱出を試みるダンテとエセルに聞き覚えのある声が響いた。カルロだ。

「ダンテ、エセルっ!」

「カルロ!」

 現れたカルロとダンテ、エセルは、駆け寄って手を取り合った。

「よく無事だったな、兄弟!」

「あぁ」

「こっちだ」

 カルロに連れられたダンテとエセルは、ふと視線を感じ振り返り、そこにいる人影にはっと目を見開いた。

「フィオナ!」

 炎に包まれる部屋の中から悔しげな顔で睨みつけているフィオナを見るやエセルは叫んだ。

「フィオナ姉さん!」

 フィオナは、黙っている。

「フィオナ、投降しろ。悪い様にはしない」

 ダンテはフィオナへの説得を始めたが、フィオナはふっと笑うと、そのまま炎の中に身を放り投げた。

「フィオナ姉さん!」

 叫ぶエセルは、だが、炎の勢いに押し戻され、ダンテとカルロに抱えられて命からがら城から脱出した。


「城内はほぼ制圧した様です」

 アロルドから報告を受けたバルドは満足げにうなずいた。

「これでロキは、王様の完全に我が支配下です」

「うむ。ドリアニアへと完全な橋頭堡が築けた事になるな」

 ドリアニアへの喉元を突き刺す様な形のロキの地図を眺めるバルドの目の先には、いよいよドリアニアへの本格的な侵攻が見えていた。

 その夜、論功行賞の席に呼ばれたダンテとカルロとエセルは、バルドの前に跪いた。

「三人ともよくギルを助け出してくれた。これでこの度の戦の大義名分がたったというものだ」

 そして、エセルは褒美を、ダンテとカルロは新たな階級を授けられるに至った。やがて、酒の席となり、華麗なる戦勝に宴席が湧き当たった。

 皆の前で戦勝の踊りを舞うエセルにバルドも満足げだ。側近の武将達も酒が周り上機嫌でバルドの功績を称えた。

「しかし、艦隊を山越えさせるとは、驚きましたな」

「ドリアニアもまさかこんなに早くロキが陥落するとは思っても見なかったでしょう」

 口々に追従を並べる武将達にバルドが目尻を下げていたそのときだった。本国から急報の使者が駆け込んで来た。受け取った書状を開いたバルドは、我が目を疑った。呆然とするバルドにアロルドは尋ねた。

「どうしたのですか、王様?」

 バルドは、黙ったまま書状をアロルドに見せた。それを見たアロルドは思わず声をあげた。

「ネロが陥落した……」

 そのあまりの報告を聞いた武将達は、たちまち静まり返った。何とドリアニアがバルダロスの前線の本拠地ネロに直接侵攻を果たしたというのである。バルド達の目が完全にロキに向いている間にドリアニアは電撃的な奇襲を成功させたのだった。


「うまく行ったな」

 ドリアニアの首都で王のブルーノは、ほくそ笑み、傍に控える人物に言った。

「ロキを餌にネロへの奇襲を果たす、これも全て爺の策のお陰だよ」

 爺と呼ばれた人物の名はグレゴリーという。先代から直々に遣えブルーノの知恵袋たる軍師だ。グレゴリーは羽扇子で仰ぎながらうなずいた。

「フォッフォッフォ……全ては王のお力あってのものでございます」

「まぁね、ともあれこれでバルドは一転して窮地に陥った訳だ。この後、彼はどう出るのか楽しみだよ」

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