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さらさら  作者: 藤堂左近
9/14

「おっかねぇねぇちゃんだな」


 少し日を置いて、重実は町に出た。大場なる同心の声を確かめるためだ。横を歩く彦佐は、緊張感なくずっとぶつぶつ言っている。


「折角別嬪だってのに、格好は男の形なりだし勿体ねぇ」


「そういやお前、初めっから伊勢を女だと見抜いていたな」


「へ。声は高いからな。おれはこう見えて、耳がいいんだ。大場って同心の声だって、ばっちり覚えてるぜ」


 自慢げに胸を張る。二人がいるのは大場の巡回経路にある大きな呉服屋の斜向かいだ。呉服屋のあるじは、よく北山に袖の下を贈っているという。それを見越して、大場もしょっちゅう立ち寄るのだ。同心は特徴のある髷に羽織なので、見ればわかる。大場の風貌の特徴は、子細に伊勢に聞いてきた。


「あんたは、あのねぇちゃんの用心棒か何かかい?」


「そう……なのかな? 用心棒ってわけでもねぇけど」


 艶姫には用心棒が必要だろうが、伊勢には必要ないような気がする。だが初めは斬られていたのだし、伊勢を助けることにならなければ、このようなことに手を貸すこともなかっただろう。


『おぬしの今の原動力は、伊勢のほうではあるがな』


 重実の肩の上で、狐が言う。


『おぬしは強い者のほうが好きじゃしの』


「そらそうだ」


 あはは、と笑う。ちょっと彦佐が驚いた顔を向けた。


「ま、雇い主ってところかな」


「向こうのほうが立場が上か。下手に手出しできねぇな」


 にやにやと笑いながら、彦佐が言った。


「それ以前に、お前なんざ手出ししようとした途端に、首と胴が離れてるぜ」


 重実が言うと、う、と彦佐が固まった。いくら伊勢が綺麗でも、あの腕前では並みの男では敵うまい。自分よりも弱い男に靡くとも思えない。町人など論外だろう。


「あ、あんたはどうなんだ。それなりに遣えるんだろ? あいつをどうこうしようとは思わねぇのか?」


「思わないねぇ」


「もしかして、あの姫さんのほうか」


 彦佐は若いからか、それなりに綺麗な女子がいれば、すぐにそういう欲が湧くらしい。いや、と重実は小さく首を振った。おそらく男であればそうなのだ。何とも思わないのは重実だけ。


「あの姫さんも可愛いよな。どこの姫さんかは知らんけど、変に気取ったところもない。あのねぇちゃんよりも気安いぜ」


 彦佐の前で身分を明かすのはよろしくなかったのに、あのとき散々『姫様』と呼んでしまった。が、彦佐は特にそこについて聞きたがることはなかった。彼曰く、物事は変に深く知るものではないらしい。小悪党らしい考えである。小悪党が上手く立ち回るには賢い方法だ。知りすぎれば消されるのがオチの世界で生きて来た故の考え方だろう。お陰で艶姫のことは『姫さん』と呼ぶが、事情は何も知らないままだ。


「そんなことより、ほれ、あれじゃねぇのか」


 彦佐の軽口を無視し、重実は呉服屋のほうを顎で指した。黄八丈に巻羽織の侍が、呉服屋の暖簾を潜っていった。


「背格好は似てるが、これといった特徴もない身体つきだしなぁ」


「ちっと離れすぎたな。ここからじゃ、面が見えねぇ」


 大場は鼻の横に大きな黒子があるらしい。この上ないほどわかりやすい特徴だ。だからこそ、彦佐と会うときは顔を隠したのだろう。


「あそこの茶屋に行くか」


 呉服屋の隣に、小さな道を挟んで茶屋がある。通り沿いに床几があり、外でも休めるので、あそこにいれば前を通ればばっちりだ。


「近すぎねぇか」


「多少の危険は覚悟の上だ」


 重実は少なくとも大場に面は割れていないので大丈夫だろうが、彦佐は見つかる危険がある。だが気にする素振りもなく、彦佐はするすると茶屋に近付いた。

 茶と団子を頼んでしばし経つと、呉服屋から同心が出て来た。上機嫌だ。袖の下をたっぷり頂いたのだろう。ちらりと重実は、同心の顔を見た。確かに鼻の横に黒子がある。


『ではわしが喋らせてやろうかの』


 するりと狐が重実の肩から降り、大場のほうへ走り寄った。いつものように背を駆け上り、いつかのように、肩から前足を伸ばして胸元に突っ込む。


「うおっ? な、何でぇ」


 大場が驚いて己の胸に手をやった。狐は素早く前足を引き抜き、降りるついでに尻尾で首筋を撫でた。


「ひぃっ!」


 情けない声を上げ、大場が悶えた。お付きの小者が怪訝な顔で見ている。


「旦那様、どうなされたのです」


「い、いや。何かもぞもぞしたのだが」


 首筋を掻きながら、大場が言う。見かけに反して甲高い声だ。ちらりと重実が彦佐を見ると、じ、と大場を見ていた彦佐は、小さく頷いた。


「間違いねぇ。この声だ」


「でかしたぜ」


 戻って来た狐に言いながら、重実は彦佐と共に茶屋を後にした。

 二人が呉服屋を通り過ぎたとき、路地からゆらりと一つの影が現れた。それはしばらく二人の後ろ姿を見つめ、十分間が開いてから、ゆっくりと歩き出した。


 重実は城にほど近い寺に向かっていた。小弥太はそこの小坊主なのだ。米俵のすり替えを指示したのが間違いなく大場だと、安芸津に知らせて貰おうと思ったのだが。


「旦那。ちょいとおれっち、そこに用が」


 寺に行く途中で、彦佐がとある一画を示して言った。粗末な長屋が並ぶ中の一画で、他の長屋より荒み、淫靡な雰囲気が漂っている。岡場所の中でも下のほうの店が集まっているらしい。


「あんなところに出入りしてんのか」


「おれらみてぇな貧乏人は、あそこが限界だ。旦那もどうだ?」


「言ったろ、おれには欲がねぇ」


 ため息交じりに言うと、彦佐は妙な顔で、しげしげと重実を見た。


「じじぃでもあるまいに、何言ってんだか。男が女を抱くのは、自然なことだぜ」


「……まぁ、普通の奴はそうなのかもな」


 重実は普通でないのだ。ちらりと狐が重実を見た。


「抹香臭ぇ寺に行くより、手っ取り早く極楽浄土に行けるってのによ」


 へへへ、と笑いながら、彦佐はいそいそと長屋のほうへと歩いて行く。初めの頃の怯えようが嘘のようだ。もっとも何事も起こらないので、すっかり忘れてしまっても仕方ないかもしれないが。


「先に帰っておくぞ」


 岡場所に行けば、そうそう出てこないだろう。悪くしたら夜通しということもあり得る。そんなものを待ってやるほど、重実は優しくないし、そんな義理もない。


「へへ。旦那も気が変わったら来てくだせぇよ」


 下卑た笑いを浮かべ、彦佐は軽い足取りで岡場所に消えていった。


 その彦佐は、朝にはむくろとなって岡場所からほど近いどぶ川に浮かんでいた。


「しまったな。やっぱり下手に外に出しちゃ駄目な奴だったか」


 知らせを受けて現場に出向きながら、重実は呟いた。


『まぁ奴は刺客の顔も見ておるし、一旦襲ったからには中途半端で放置することはないじゃろう』


 重実と狐がどぶ川のほとりについたときには、すでに大勢の野次馬が集まり、同心が彦佐と思われる骸を検分していた。


「あいつは大場だな」


 取り調べをしているのは大場だ。となると、ろくに調べもしないで適当に切り上げられるだろう。上司である北山が指示した殺しだ。

 思った通り、ざっと形だけ調べただけで、大場は腰を上げた。大場が彦佐から離れた隙に、重実は首を伸ばして骸を見た。

 右手と両足首がない。小さな傷は無数にあるようだが、致命傷は首根からの一撃だろう。それだけ鮮やかに、身体を斜めに斬り裂いている。ぱっくり開いた傷口からは、切断された骨と臓物が覗いていた。


「あの太刀筋。伊勢の背中と同じだな」


 悪くすれば、伊勢もああなっていたわけか。そういえば、鳥居と対峙したとき、確かに奴は刀を振り上げた。あの大上段から、凄い威力で斬り下げるわけだ。正面から受けて、防ぎきれるか。


『しかものぅ、おそらくあ奴は、先に両足を斬られたのだろうよ。いや、匕首ぐらい呑んでおったろうから、右手が先か。武器を持った手を飛ばされ、逃げる足も絶たれた。無抵抗にした上で、ちょこちょこ切り刻みながら、情報を聞き出したのかものぅ』


 以前に彦佐を襲ったときは、いきなり殺そうとした。あのときは聞き出すこともなかったからか。おそらく大場のことを探っているのも、昨日彦佐を尾けていたのなら気付いたかもしれない。


「おれのことも、単なる通りすがりではないとわかったろうしな。今後は狙われるだろうな」


『ふ。致命傷だけならともかく、手や足をなくすのは避けたいの。くっつくかどうかもわからぬし』


「おれの手足がなくなったら、お前も同じようになくなるのか?」


『わしの可愛い肉球がなくなるのか。可愛さ半減じゃ』


 死なないので、いまいち緊張感がない。くだらないことを話しながら、重実は彦佐の骸に小さく手を合わすと、周りを注意しながら藩邸に帰った。


 藩邸には珍しく安芸津がいた。


「例の下り米を掠めた奴が殺されたとか」


 昨日のうちに小弥太が下り米のすり替えを現場で指示していたのは大場だと知らせていたので、その件で来たのだろう。


「ああ。大場の声を確認した奴だ。多分あのとき、向こうもおれたちに気付いたんだと思う」


「殺ったのは鳥居か」


「あの斬り口はそうでしょう。一度だけ、一瞬刃を交えましたがね、彦佐の致命傷、伊勢の傷も同じ太刀筋だ。なかなかな遣い手ですな」


「派手に動き出したな。早くしないと、こっちが潰される」


 苦虫を噛み潰したように、渋い顔で安芸津が言う。


「でも焦っているのは向こうも同じだ。米問屋の買い占めの件が、ぽつぽつ巷に流れている。藩主交代のこの時期に、田沢のほうに不利な噂はよろしくない。噂が大きくならないうちに手を打ってくるはずだ」


「米問屋の買い占めだけだったら、田沢には直接関係ないんじゃ?」


「それ自体が直接関係なくても、此度は小野様自ら陣頭指揮を執った下り米が出回った。それはそのまま、小野様の評価につながる。小野様の人気が、ぐっと上がるわけだ。それだけで、田沢には不利に働く」


「なるほどね。ていうか、そんな人気取りをしたいのであれば、米の買い占めなんかしてないで、開放すりゃいいじゃねぇか。自分らが買い占めしてるから人気が落ちるんだろうが」


「その辺は、北山の失策だな。下り米のことを聞いて焦ったから、あんな小悪党を使って米俵のすり替えを行ったんだ。下り米を手配したことは世間的に知られていたし、期待が大きいだけに、失敗したらそれだけで小野様は失脚しかねん。それを狙ったんだが失敗して、結果小野様の評価をよくしてしまった。今さら米蔵を開放しても大した効果はないし、何より折角取り入った田沢のご機嫌を取るためにも金は必要だ。おめおめ金のなる木に育てた米問屋を手放すことはできんのだな」


 政治の世界のどろどろは見苦しい。いくら民の人気を獲得しても、上層部が金で懐柔されていれば、殿様といえども好きに跡継ぎを決められないのだ。


『まぁ殿様の一存だけで、周りが皆敵だったら、藩主に立ったところで国は機能せんしな。そんな状態だったら、あの姫さんが立ったところで、あっという間に潰される。元の木阿弥というやつじゃ』


 だから鶴の一声だけで真之介を立てることはしないのだ。これと思った逸材を、おめおめ潰すことにもなる。


「今のところ、田沢の財源の大本は北山だ。奴は与力の立場を利用して、あらゆるところに手を付けているからな。賭場の手入れを見逃す代わりの袖の下も相当なものだ。だがその財源を絶ってやる」


 そう言って、安芸津は不意ににやりと笑った。


「米滋と北山の会合の日時を掴んだ。二日後に、浜ノ屋という料亭だ」


 そろそろ殿様も、次期藩主を正式に決めるつもりらしい。近く艶姫を城に招くという。そこで正式に家臣にお披露目し、真之介との婚約も公にする。そして次期藩主として真之介を指名するというのだ。


「当然田沢派は面白くない。何としても阻止するつもりだろうが、そのためには他の有力な家臣を抱き込む必要がある。それには金だ。あちらは人望がない分、金でしか人を動かせぬ。その金を作るために、北山が動いている」


「値を釣り上げた米を売ろうというのですね」


 今まで黙って聞いていた伊勢が、静かに言った。


「下り米を開放したものの、一気にこの不足を賄えるほどではないからな」


 だが与力と米問屋を押さえたぐらいで、筆頭家老ともあろう者まで辿り着くだろうか。重実と伊勢は顔を見合わせた。


「さすがに筆頭家老を失脚させるまではいかないだろう。だが北山が田沢の犬なのは周知の事実だ。そこがとんでもない不正を働いているとなれば、少なくとも次期藩主にはすんなりなれんだろう」


「まぁ……いきなり斬り殺したりできないのであれば、じわじわ足元を崩していくしかねぇな」


 できれば斬ってしまいたいが、今田沢を殺せば明らかに小野派の者の仕業だとわかる。


「とりあえず田沢の足元を揺るがして、艶姫様と真之介様の婚姻を進めてしまう。田沢を始末するのは、その後でもよかろう」


 実子である艶姫の存在を公にし、且つ婿を取ってしまえば次期藩主の座はほぼ確定だ。それでも邪魔するようであれば、そのときに始末する。


「北山は口書きが取れればいい。捕らえればどんな方法を使っても、田沢との関係を吐かせてみせる」


 この時代は自白が全てだ。故に拷問も平気でやる。


「我らは捕り方に紛れて踏み込む。人数はさほど集めないつもりだ。捕り方には米滋を任せるだけだしな」


「北山は、捕り方では抑えられないってことか」


 重実が問うと、安芸津は、うむ、と頷いた。


「下手に北山に近付けば、捕り方に死人が出よう。奴は私が相手をする。そしてそなたには、鳥居をお願いしたい」


 少し躊躇いがちに、安芸津が重実に言った。安芸津は重実の腕を見ていないので、実際はどの程度の腕前なのかわからないからだろう。ただ峠で伊勢たちを助けた、というからには、それなりだと踏んでいるのだ。


「まぁいいけど」


 軽く、重実が受ける。それに伊勢が、ばん! と畳を叩いた。


「そんな軽く受けていいと思っているのですか! 鳥居は並みの腕ではありませんよ」


「おや、心配してくれんのかい」


「あなたがあっさりやられてしまったら、こちらの遣い手がいなくなってしまうからです。それに、安芸津様が北山と鳥居の二人を相手にしなければならなくなったら勝ち目はありません。安芸津様まで討たれてしまっては、遣い手といえる者は残りませぬ」


 至極もっともな言い分だ。


 ひとしきり重実に向かって吠えた後、伊勢は安芸津のほうを見た。


「ついては、わたくしも加えて頂きとうございます。鳥居は、久世様とわたくしで討ち取ります」


「何を申すか。そなたをそんな危険な目に遭わすわけにはいかぬ」


「されど、この傷の恨みを晴らす絶好の機会にございますれば」


「ならぬ!」


 伊勢と安芸津の応酬を、重実はぽかんと見た。一瞬だったが重実も鳥居と実際剣を合わせた。それだけで、ぞくりとするほどの手練れだとわかった相手だ。相当な遣い手であり男である重実が勝てるかわからない相手に、伊勢は女の身で挑もうとする。


『何とまぁ、呆れた女子じゃ』


 狐も呆気に取られて伊勢を見ている。


「けど立派だぜ。男でもあの男にここまで挑もうとする奴はいねぇ」


 感心しながら言う重実に、安芸津が渋い顔を向けた。


「確かに、心意気は買う。剣士としては立派だ。でも伊勢殿は女子なのだぞ」


『こういうときに女子だからっつー理由は逆効果じゃなぁ』


 狐の言う通り、伊勢は、キッと安芸津を睨む。


「女子だから何だというのです。確かに力は男子よりも弱いですが、そこは身の軽さ故の素早さで補っております。安芸津様以外の男子に、わたくしが負けたことがありますか?」


「う……。そ、そうだとしてもだな、鳥居は危険だ。そなただってわかっておろう!」


「だから久世様に助太刀を頼むのです。何も一人で立ち向かおうというわけではありませぬ!」


「俺は助太刀かよ」


 あくまで鳥居と対峙するのは伊勢ということか。狐が、ちらりと重実を見上げた。


『この女子を囮に使えば、変に手足をなくすこともないかもじゃ』


「そんな真似するぐらいなら、最初っから見捨ててるけどな」


 重実が言うと、伊勢が、はっとしたような顔になった。


「……た、確かにお救い頂いた命を無駄にするようなことは、するものではありませんね」


 どうも先ほどから、狐との会話も違和感なく溶け込んでいるようだ。えーと、と密かに首を傾げる重実をそのままに、ようやく落ち着いた伊勢の肩を、安芸津が労わるように叩いた。


「そなたを想えばこそなのだぞ。わかってくれ」


 項垂れる伊勢を見る安芸津の目は優しい。


『こ奴、伊勢を好いておるのかのぅ』


「まぁ綺麗な女子ではあるからな」


 つるっと言ったことに、安芸津が過剰に反応した。


「んななななっ! そそ、そういう意味ではっ……」


 おや、またわけがわからん、と重実は考える。重実は狐と話しているので、そのさらに前の会話を思い出さなければならない。他の者には見えない狐と、気にせず喋るが故の苦労である。


「けど伊勢の腕は確かに凄い。危険にゃ変わりないが、襲撃には加わってもいいんじゃねぇか?」


 赤くなっていることは無視し、重実は安芸津に言った。伊勢は単なる女子ではない。斬り合いは初めに見ただけだが、確かに並みの剣士よりも強い。安芸津しか敵う者がいないのであれば、十分戦力になるだろう。


「し、しかし」


「あんたらの藩の剣士がどの程度の腕前かは知らんが、伊勢はその誰よりも強いんだろ? 実戦になったって怯む様子もなかった。ま、あんまり前面に出ないことが条件だが」


 襲撃場所は料亭なので、向こうもそう大人数ではない。正面から対峙しなければ大丈夫だろう。


『お前は死なぬから、いい盾になるしの』


「……ま、おれがやられることはないしな」


 勝てるかはわからないが、負けることもないのだ。何せ死なない。ただ、それはそれで重実にとっては地獄なのだが。

 そんな重実を、安芸津と伊勢は、少し感心したように眺めた。自信たっぷりに聞こえたことだろう。普通の人間からすると、やられることがないということは、勝てる自信があるということだからだ。


「心強い限りだ」


 安芸津が、どこか晴れやかに言った。

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