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<R15>15歳未満の方は移動してください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

救いたい俺と助けた私

作者: 枝乃チマ

始めての短編小説です。

かなり気合を入れて書きましたので、

どうぞご覧ください。

「ここは、ブリテン島の都市外れにある村。そこにはお化けが出るという噂が…」

「そんな噂は無い。そうだったら俺達がお化けじゃねぇか」

「まぁもしハティがお化けだったら、お化けじゃなくておバカだけどね」

「お前ぶっ飛ばすぞ」


 俺の名前はハティクルス•クロイ。

 この村、アクレスに住む村人だ。


 今はこうして砂浜に座って幼馴染のアルル•ディオスと一緒に海を眺めてる。


「はぁ…今日でハティともお別れかぁ」

「…。」


 そう、今日は彼女…アルルの誕生日。

 この村では、15歳の誕生日の夜、15歳未満の子供達が寝静まった頃、女性はこの村から出て行かなくてはいけない。

 そして帰ってきてはいけないらしい、厄病神をを連れてきてしまうからとか何とか。

 

「まぁ都市に行っても私頑張るからさ!」

「…。」

「はぁ…最後の日だって言うのに、何でそんな態度するのよ」


 そう言うとアルルはハティクルスのほっぺたをつねる。


「痛ててててて!馬鹿野郎!何すんだよ!」

「だって今日でお別れなんだよ?何で今までみたいにしてくれないの?」

「まず第一、お前と別れたく無いってのもあるけど、そもそもこのルールには違和感しかねぇんだ。」

「違和感?」



 そう、このルールにはおかしな点が幾つもある。

 ひとまずルールを全て言う。


 •20歳未満の男、15歳未満の女は12時まで必ず眠らなければいけない。

 その理由は、夜になるとこの村の周りに魔物が現れ、子供達を襲ってしまう。


 •女性は15歳の誕生日にこの村を子供達が寝静まった夜の内に村を旅立たなければいけない。

 そして帰ってきてはいけない。

 帰ってきてはいけない理由は、外の世界から厄病神を引き連れてしまう。


 •旅立つ際、村の特産肉を沢山置いていく事。

 顔を見せる事はできないので気持ちとして。



「何で夜には魔物がいるのに女性を出て行かせるんだ?」

「誕生日の日にだけは魔物が出ないからじゃない?」

「現に被害に遭った子供とかがいるのにか?」

「うーん、女は強く生きろって事かも。ほら、母は強しって言うじゃない?」

「強しも何も戦う術が無かったら意味ねえじゃねぇか。魔物は丸腰で挑んで勝てる相手じゃねぇぞ」

「まぁそんな難しく考えても何も出ないし、今日はご馳走食べて寝よ!今夜は前にライムが置いていったこの村の特産肉だよ!」


 そう言うとアルルは家へと戻っていった。


「…。」


 ハティクルスはアルルの後を追ってアルルの家へと向かった。

 ちなみにライムとは、先日誕生日を迎えこの村から旅立った者だ。



その日の夜。


「はい!という訳で今日は私の為に集まってくれてありがとう!誕生日と旅立ちを祝って…かんぱーい!」


『かんぱーい!』


 そう言うと集まった村の子供達や大人達が一斉にジュースやら酒やらをがぶ飲みする。


 ハティクルスはルールについての疑問が頭の中に残り、素直に誕生日を祝えなかった。


「ハティ兄ちゃんのまないのー?」


 村の子供に話しかけられた。


「ん、あ、あぁ、俺はゆっくり飲まないと魔物になっちゃうからね。」

「もーハティ兄ちゃんのうそつきー」

「嘘じゃないぞー?ここで魔物になってお前を食べちゃうぞー!」

「わーにげろー!」

「はははは…」


 冗談を言いながら何とか雰囲気に馴染もうとするが、やはりあの疑問が頭から離れなかった。


「はいハティ、あーん」

「そんなんしなくても普通に食えるよ」

「もーハティのいじわる!」


 アルルはいつも以上にご機嫌だ。

 あんな疑問ぶつけられて何の違和感も抱かないなんて天然なのか、洗脳でもされてるのか…。


「アルルを見習わねぇとな。」


 ハティクルスはそのまま雰囲気に馴染み、ライムが置いていった肉をたらふく食べた。

 この旅立った女達が置いていく肉はとても美味しい。

 だがどれも同じ味ではなく、置いていく人によって味が少し違うのだ。

 …超美味い物もあれば美味しくない物もある。


「今日はありがとねー」

「アルル姉ちゃん、おそとでもがんばってね!」

「うん、今までありがとね!」

「わたしいやだよ!アルル姉ちゃんともっといたい!」

「あはは、もしかしたら君も旅立ったら再開出来るかもね!」

「ほんと!?」

「うん!きっと会えるよ!」


 そう言うとアルルは別れを惜しむ子供達の頭を優しく撫でる。

 一方、ハティクルスは家の屋根の上で空を眺めていた。

 すると1人の子供が隣に座って言った。


「ハティ兄ちゃんはアルル姉ちゃんにさよなら言わないのー?」

「あぁ。…いいか、さよならは言っちゃうと本当にさよならになっちゃうんだ。でもね、言わなければさよならにならなくて、またいつかきっと会えるんだよ。だから俺はあいつにさよならは言わない。」

「…あえなくなっちゃうのははいやだからぼくもさよならいわない!」

「…あぁ。」


 そう言うと子供は降りていった。


「…今日こそルールの真実を確かめてやる…!」


 俺は屋根の上で寝たフリをした。


「屋根上で寝たフリは流石にバレるよ。寒いし。」

「…アルル。」


 そこにはアルルがいた。


「隣座っていい?」

「屁しなきゃいいよ。」

「本当にハティって一言余計よねっ!いっつも雰囲気ぶち壊しよ!」


 そう言いながらもアルルは隣に座った。


「あの子から聞いたよ。ハティが私にさよなら言わなかった理由って私と別れたくないからなんでしょ?」

「あのガキ変な風に解釈しやがったな…!」


 次会ったら頭グリグリしてやる…!

 泣いても許さんからな…!


「でも嬉しかったな、私。」

「…え?」

「ハティってさ、いっつも私にはそっけない態度取ってるから、嫌われてるのかと思ってた。」

「嫌ってたら誕生日パーティに来ないだろ」

「ふふっ、それもそうね。」


 ハティクルスはアルルに背を向けたまま話す。


「今日俺は12時以降も起きる。」

「魔物に襲われちゃうよ…」

「屋根上まで登ってこねぇだろ」

「私がいなくなるから家ごと壊すかも」

「いくら魔物でもそこまで力は無ぇよ」


 少しの沈黙の後、アルルが言った。


「…起きてどうするの?」

「決まってるだろ、変なルールの正体を探る。」

「死ぬかもしれないのに?」

「お前と一生別れるくらいなら真実知って死んだ方がマシだ。」


 アルルは少し嬉しくなったが、ハティクルスの上に四つん這いになった。


「あんたは良くても、残った私がどんだけつらいと思ってんのよ!バカ!」

「…アルル、お前何で泣いてんだ?」

「当たり前じゃない!私だってハティどう離れたくないし、あんたが死んだら私…嫌だもん!」

「アルル…。」


 ハティクルスの顔にアルルの涙が落ちる。


 アルルはわざと明るく振る舞っていたのだ。天然でも、洗脳もされてる訳じゃない。

 アルルだってわかっていたのだ。アルルはハティクルスの為に…。


「私…行きたくないよぉ…ずっとここに…ハティの隣にいたいよぉ…」

 アルルはハティクルスの上に崩れ落ちた。

 ハティクルスはどうすればいいかわからず、アルルを優しく抱きしめる事しか出来なかったが、アルルにとってその行為は心の救済となっていた。


「ハティ…。」

「アルル…。」


 ハティクルスとアルルは唇を重ねた。

 幸い、子供達は寝静まった後だったので誰も見ていない。

 しかしお互い息が続かなくなり、すぐ唇を離し、大気中の酸素を体内に取り込む。


「スゥー…ハァー…あぁ、死ぬかと思った。」

「うん…意外とすぐ酸素必要になるのね…」

「…そろそろ時間だな。」

「うん…じゃあ行ってくるね。…あ、これあげる。」


 そう言うとアルルはハティクルスに宝石をあげた。


「綺麗だけど何処にあったんだこんなの」

「前に海見てたら流れてきたの。」

「…わかった。貰っとくよ。」

「…それじゃあ、行くね!」


 そういうとアルルは屋根を降りて村長の家へ行った。


 そしてハティクルスは寝るフリをした。



 あれからどれだけ時間が経ったのだろうか。

 ハティは1秒も寝ずに寝てるフリをしているが、外には誰もいない。

 今がチャンスだ、ハティクルスは屋根から降りて村長の家の中を覗いた。


「(な、なんだよこれ…!)」


 ハティクルスの目に映ったのは。



「あ、あぁ、やめて、やめてよぉお!!」

「オラ、黙って子供作りやがれ!」

「嫌だって言ってるでしょ?!」

「クソが…おい、服を脱がせ!」

「や、やめっやめてってば!!」


 な、なんだこれは。

 大人達は…何をやってるんだ?


「アァ、クソ!さっさと孕めオラァ!!」

「いや、いやぁああああ!!!!!!」


 ハティクルスは勢いよく扉を開けた。


「やぁめぇろぉおおおおおおおおお!!!!!」


 ハティクルスはアルルに触れている動物を殴り飛ばした。


「…ハティ…!」

「大丈夫かアルル?!やっぱり俺の勘は当たってたみてーだな!」

「ハティクルス…てめえ…そこを退け!」

「アルルを性処理としか思ってねぇ奴に退く訳ねぇだろうが!!」

「…ならここで死ね!ハティクルスッ!!」


 そう言うと大人達はナイフを取り出した。

 ハティクルスは服は破け、あざだらけのアルルに手を差し伸べる。


「アルル、立てるか?」

「…ごめん、腰抜かしちゃったみたい…」

「そうか、だったら!」

「ちょ、ちょっと!?」


 そう言うとハティクルスはアルルをお姫様抱っこで抱き抱える。


「ヘヘッ、まさかそれで戦うってか?」

「お前らに対してはちょうどいいハンデだし、まず戦わないしッ!!」


そう言うと近くにいた大人を蹴り飛ばす。


「オラァ!かかってこいよ!!」


 ハティクルスが挑発すると大人達が一斉に飛びかかる。


 ハティクルスは見事避け、次々と蹴り飛ばす。


「隙あり!」

「ぐっ!!」


 しかしアルルを抱き抱えている事もあり、少し動きが遅いので気がつくと身体中切り傷まみれになっていた。


「ハティ…傷が…!」

「大丈夫!なんともない!」


 そう言うと大人を蹴り飛ばす。


「く、くそ…このクソガキ‥」

「じゃあそんなクソガキにやられてるあんたらはなんなんだ?」

「儂を忘れてもらっては困るのぉ」


 声が聞こえた方向に振り向こうとしたが、ナイフで背中を深々と刺されてしまった。


「ぐあぁあ…!」

「ハティ!!大丈夫?!」

「…村長…!」


 村長の家に村長がいない事に違和感を感じていたが、まさかここで登場するとはな…!


「ハティクルスや、お前はよくやった方だ。」

「村長…お前…何でこんな事を…!」

「そんなの決まっとるわい、金の為じゃよ」

「金だと…?」

「そうじゃ。最初は15歳になったら奴隷商に持っていっていたが、どうも繁盛しなくてね。」


 …その時点で結構やばいけどな。


「そこで儂が思いついたのが、肉じゃよ。」

「肉…?…お前まさか!」

「そうじゃ。お前達が美味しい美味しいと言っていたあの肉は…今まで去っていった女どもの肉じゃよ。」


 じゃあライムが置いていったあの肉は…ライムの…!


「うっ!!!」


 ハティクルスは酷い吐き気に襲われた。


「そんな…じゃあライムは今…」

「そう、今は貴様達の胃袋の中じゃよ」


 じゃあどれも同じ味ではなく、置いていく人によって味が少し違うのは…肉そのものがそれぞれ違うから…?!


「しかし安心せい、アルルよ。お前は特別顔が良い。肉にするのはもったいない。だからお前には我々の子供を産んでもらうぞ。」

「そ、そんなの嫌に決まってるじゃない…」

「そうじゃろうな。じゃが…ハティクルスがどうなっても良いのか?」


 そう言うと村長…フォウストはハティクルスの首に刃を向ける。


「アルルッ…俺の事は気にすんな…逃げろ…!」

「さぁどうするアルル?ハティクルスを助ける代わりに我々の子供を産むか、それを拒みハティクルスを殺し、肉にされるか!」


 アルルは少しの沈黙の後、答えを出した。


「…わかり…ました。」

「…え?」

「私…貴方達の子供を産みます…だからハティを離して…ください…。」

「うむ、賢明な判断だ。」


 そう言うとフォウストはハティクルスを投げた。


「アルル!馬鹿野郎!!何言ってんだよ!」

「言ったでしょ?!私はハティが死ぬのは嫌なの!!」

「でもお前が苦しんでたら意味ねぇじゃねぇか!」

「ハティが生きてるなら私はそれで良い。大丈夫、私は平気だから。」

「…話は済んだか?じゃあハティは俺が家に運ぶから、村長達はアルルに…我々の子供を産ませてやれ。」

「うむ。」

「ほら、いくぞハティクルス。」


 俺は何も出来ずに大人に運ばれた…が。

 家に運ばれず、村から離れ、人気の無い場所に投げられた。


「…まさか、お前の家は無いってか?」

「違うな。」

「何…?」


 そう言うと腹部に深々と刺された。


「がぁああああああ!!!!」


 俺は口から血を吐いた。


「我々はハティクルス…お前を生かそうと思っていない。」


 まぁ確かに生かしてもメリットは無いしな。


「ここで死ね。ハティクルス。真実を知った罰と思え。それに、真実を知って死んだ方がマシなのだろう?クッハッハッハ…」


 そう言うとそのままどこかへといってしまった。


「…俺は…何も出来なかった…」


 助けたい人も助けられず、むしろ助けられ、結局殺され、こうやって、死んでいくのか…。


「俺は…結局…誰も…救えない…」


 女が死んだら、アルルは死ぬまで孕ませ続けられるだろう。

 俺が助けに来てくれると信じて。


「ご…め…ん…アル…ル……………。」



 俺は、アルルから貰った宝石を握り締めながら、その思いに応えられなかった。






































 あれからどれだけの時間が経ったのだろうか。


 よくわからない空間で何も出来ず漂っていた。


 そんな時、声が聞こえた気がした。


「君はここで終わって良いの?」


 そんな訳はない。俺には待っている人が居る。


「再び地上に降り立つ事が出来る方法があると言ったら‥君は乗る?」


 当然だ。乗らない手はない。


「良いよ。ならば、私の体を思う存分貸してあげる。」


 まて、俺はお前の人生を奪ってまで蘇りたくはない。


「大丈夫。私は死ぬ訳じゃない。ただ、君の中に溶け込むだけだから。」


 つまり、俺はお前の体で蘇るけどお前は死ぬ訳じゃなくて俺の中に溶け込む?


「まぁ要するに私は死なないって事。」


 わかった。早速だが、お前の体を貸してくれ。


「いいよ。じゃあ、頑張ってね、ハティ。」





「‥…‥…王!‥……ー王!……サー王!」


 知らない声が聞こえる。

 いや、俺は知らなくても、私は知っている。


 俺は目を開ける。


「やっと起きましたか。突然瞑想するなんて言い出して目を瞑るのでびっくりしました。」


 …ここ、どこだ?

 ここは、ブリテン島にあるキャメロット城。

 私は今そのキャメロット城の王座に座っている。


「どうしました?アーサー王?」

「…え?アーサー王?」

「…はい。アーサー王。」

「…………。」


 なるほどな。全て理解した。

 あの声はアーサー王の声だったのだ。

 つまり俺は、アーサー王に転生したと言うことか。 

 そしてアーサー王は女だった。


「ごめん、あんた、名前は?」

「私の名前をお忘れですか?私は円卓の騎士の1人、ベディヴィアでございます。」

「…ベディヴィアか。」

「はい。…どうしました?先程から様子がおかしいですが?」

「ごめん、ある少年に私の体を貸してるの。」


 く、口が勝手に?!


「アーサー王?!それはどういう…」

「その少年は死んでしまった。だが強い未練が残っていたから、つい手を差し伸べちゃった。」

「なるほど。わかりました。では、その少年様にこのキャメロット城を案内させますか?」

「うん、お願い。」

「かしこまりました。」



「これがキャメロット城全体です。少年様。」

「まぁ結構広いな。後俺はハティクルスだ。」

「申し訳ありません、訂正致します、ハティクルス様。」

「様付けるんだ。」

「一応アーサー王なので。」

「なるほどな。」


 正直何故案内されたのかわからない。

 俺の中のアーサー王が教えてくれれば良いのに。


「ところでハティクルス様、貴方には強い未練があるとアーサー王から聞きましたが、アーサー王が手を差し伸べるなんて…どのような未練を?」


 俺は、生前、死ぬ間際で起こった事をベディヴィアに全て話した。

 ベディヴィアは黙々と話を聞いていた。


「…という訳だ。だから俺はアルルを助けに行かなきゃいけねえ。」

「…そうでしたか。ですが今の貴方はハティクルス様ではなくブリテンの王、アーサー王。例え今の貴方が助けても、アルル様は…」

「わかってるさ。でも…アルルに死ぬまであんな思いさせるのは嫌なんだよ。俺はアルルを救いたいだけだ。今だってアルルは…」


 そう、こうやってベディヴィアと話している今でも、アルルは…。

 確かに今の俺はアーサー王だ。

 アルルに俺はハティクルスだ信じてくれなんて言っても信じてくれないだろう。

 でも、例え俺がハティクルスだと信じてくれなくても、アルルが救われるのなら…なんて強がってみる。


「俺は一刻も早くアクレスに戻りたい。ベディヴィア、協力してくれるか?」

「…アクレス…ええ、アーサー王の命令とあらば。」


 そう言うとベディヴィアは膝立ちする。

 まぁ俺はアーサー王ではないけど。


「…行くぞ。」

「…え、今から出撃するのですか?!」

「一刻も早く行きたいって言ったじゃん」

「流石に我々だけでは心細いです、今キャメロット城にいる円卓の騎士達を連れてきます!」

「あ、あぁ。」


 少し待った後に、ベディヴィアが一般兵と1人の騎士を連れてきた。


「連れてきました。ガウェインと兵士たちです。」

「アーサー王、いやハティクルス殿、任務ですかい?」

「まぁそうだな。お前がガウェインか?」

「そうだ。俺は円卓の騎士の1人、ガウェインと申する。で、任務とはどんな任務なんだ?」

「お前、俺の名前は教えてもらったのに任務は聞いてねぇのか」

「私は基本、任務はアーサー王からしか聞かないのでな。」


 確かに、どこぞの兵から聞く任務よりもアーサー王直々に聞いた方が信憑性高いが、ベディヴィアってそこまで信頼されてないのか?


「任務の説明をする。これより我々は、アクレスへ突入し、アルルという少女及び子供達を保護する!道中、成人男性による妨害が予想される。見つけ次第捕らえてアルルの居場所を吐かせろ!吐いた後は牢獄に打ち込め!」


 最初は兵士たちもガウェインもみんな何故か騒いでいたがすぐに納まった。


『御意!』


 そして、俺達は出撃をした。


「おっと、これを忘れちゃいけない。」


 …また口が勝手に。

 すると、女だった顔やら体格やらが男性へと変わった。


「…なんだこれ?」


 俺の疑問に、ベディヴィアが答える。


「それは、アーサー王が外出の際に必ず行う魔術による男装です。本来、王とは男性がなるもの。しかしアーサー王は女性。なので庶民達に女性だと気付かれない為に、アーサー王は必ず男装をするのです。」

「…なるほどな。」


 そして男装をした俺はキャメロット城を出て、庶民から歓声を聴きながら村へと向かった。

 キャメロット城からクアンタ村までの道筋は知らないが、さっき地図を見たので大体わかる。


 そしてその道中。


「にしても、外の世界って何も無いんだな。」


 実は俺は外の世界を見た事が一度も無かったのだ。

 話も聞いた事ないし、あるとすれば魔物がいるから危ないという事ぐらいだ。


「でも、それだけ世界は平和という事です。」

「そうだハティクルス殿。だから最近の我々の任務は基本的に雑用が多いんだ。」


 なるほど。だから任務説明の時にあんなに騒いでいたのか。

 久々の戦いだーって。


「そうなんだな。てっきり魔物とかいるのかと思ってたが、いるのは猪とか羊とかそんなんばっかなんだな。」

「ははは、魔物なんていつの話をしてんだハティクルス殿は。」


 やっぱり、もうこの時代に魔物なんていなかったんだ。

 フォウストが奴隷商売したり肉を売りに行ったりしてると聞いた時に驚きが勝っていたが少しだけ魔物がいるのに…と思っていたがやはりいないのか。


あの村のメカニズムは、


子供が生まれる

成長する

女の場合、子供を産ませる

その後、肉を剥いで売って金にする

男の場合、女を受精させる

性欲処理する


…のループだったという訳だ。


 よく出来た話だが、やはり胸糞悪い。


「おそらくこの辺りですが…」


 ベディヴィアが地図を見ながら言う。

 …が。


「…まさかこの中に入っていくんじゃないだろうなハティクルス殿よ。」


 確かに俺の村は基本的に木々に囲まれているとは思っていたがまさか森の中にあるとは。

 だが、本当に森の中にあるとすれば、かなり奥に進むことになる。

 あの村には海と砂浜がある。

 でも辺りを見渡しても海らしきものはない。


「…道中、襲撃があるかもしれない、警戒を怠るなよ!」

『御意!』


 とはいえ道がかなり狭いので馬から降り、徒歩で行く事になった。



 あれからどれだけ歩いただろうか。

 かなり歩いたが、襲撃もなく、景色も一向に変わらず、まるで迷宮にでも迷い込んだのではないかと思う程になってきた。


「ここ、もしかしたら何らかの魔術か何かかけられてんじゃないのか?」

「いや、魔力らしきものは感じませんね。ハティクルス様は何かご存知ありませんか?」

「いや、あの村には魔術とかそう言う文化は無かった。だから魔術がどうのこうのとかあり得ないはずだ。」


 …というか俺が死んでからどれだけの時間が経ったのだろうか?

 もしかしたら1年ほど経っているかもしれない。

 あれから長年経っているなら、奴らが魔術を覚えていても不思議ではない…のか?

 と言っても、俺が生きていた西暦がわからないので、仮にベディヴィアとかに今は◯◯年ですとか言われてもあれから何年も経ってるかわからないんだがな。


 ガウェインが言っていた事をふと思い出す。


「ははは、魔物なんていつの話をしてんだハティクルス殿は。」


 もしかしたら、俺が生きていた時はまだ魔物が生息していた時期?


 俺はベディヴィアに魔物について聞いた。


「…なぁ、魔物がいなくなってから何年ぐらい経ってんだ?」

「あ、はい、先程ガウェインがいつの話を〜と言っていましたが実はそこまで歳月は経っておらず、おおよそ5年程前に魔物戦争において我々が殲滅いたしました。」


 という事は少なくとも俺が死んでから5年経ってるってことか。


「…というか魔物戦争ってなんだ?」


 俺はベディヴィアに聞いた。


「魔物戦争とは、魔物が大量発生し、我々のキャメロット城に突撃してきたのです。我々は何とか退ける事が出来ましたが、それが毎日続いたのです。そして我々は遂に魔物の発生地を見つけ、そこに攻め込んだのです。すると、魔物が全くと言って良いほど出現しなくなったのです。」

「…で、その魔物の発生地って何処だったの?」


 少しの謎の沈黙の後、ベディヴィアは答えた。


「…この森の先にある、アクレスです。」

「…え?」


 俺は耳を疑った。

 アクレスが魔物の発生地…?!


「どういう事だ?!あの村には魔物なんていなかったんだぞ?!」

「だから私は、ハティクルス様からアクレスの話を聞いた時、耳を疑いました、アクレスは魔物しかいなかった筈だと!」

「魔物しかいないなんて…そんな訳無いだろう!」


 任務説明の時にあんなに騒いでいたのは、決して久々の戦いで興奮していた訳ではなかったのだ。

 何故魔物が居なくなったアクレスにまた行くのか…ましてや人間なんていないだろう…という疑問で騒いでいたのだ。


「なぁ、アクレスに攻め込んだ時に、生き残った人とかいなかったのか?」

「いえ、生き残った人は誰1人といませんでした。」


 アクレスはもう廃墟と化している。


「つまり、もう人間はいない…仮にいたとして、魔物があの村にいたのなら、もう皆は…子供達は…アルルは…。」

「…ようやく村が見えてきましたよ。」


 正直、もう村に行っても何も無いだろう。

 でも一応、もしかしたら…そんな可能性を信じて、村へと入る。



「…やっぱり何もない。」

「ハティクルス様…。」


 何もかも…無くなっていた。

 残っていたのは、あの時、アルルと眺めた海だけだった。


「俺とアルルは、昔よくここで海を眺めていたんだ。」

「…そうなのですか。」

「…夜になるとさ、月の光もあって凄く綺麗なんだよ…。」

「…。」


ベディヴィアは何も言わなかった。


「…アルルとまた一緒に…この海を見たかったなぁ…。俺、かっこつけてさよならを言わないって言ったけどさ…やっぱり…言っておけば良かった‥。」


 気がつくと俺は目から涙が出ていた。


「…ハティクルス様。」

「…何か悪かったな。じゃあそろそろ帰ろうか。」

「…はい。」



 数週間後、キャメロット城にて。


「今日は、商店街で喧嘩…?」

「はい、如何いたします?」

「パトロールしてる兵に注意させとけばいいでしょ。」

「了解しました。」


 俺はハティクルスとしてではなく、アーサー王として生きる事を決めた。


 そりゃ、アルルの事だって諦めてない。

 今もアルルらしき人物がいたら報告せよ、という命令を兵にしてはいるが、正直望みは薄い。


「ちょっとキャメロット城内をぶらつくわ。」

「わかりました。何かあったら、すぐにお呼びいたします。」

「おう。」


 俺はもう見慣れたキャメロット城の内部をぶらぶら歩く。

 最近アーサー王本人の声が聞こえない。

 心の中で問いかけるが返答無し。


「アーサー王、どうしちまったんだ?まさか俺に溶け込みすぎて存在が無くなったか?」


 歩いていると、ふと地下に続く階段を発見した。

 降りてみるとそこには、『立ち入り禁止!』と書かれた扉がある。


「いやー立ち入り禁止と言われると入りたくなるのが人間の本能ってもんよね」


 俺はその扉の中へ入る。

 

「…何この部屋」


 そこは薄暗く、机とその上にある本と棺桶があると言う異質な部屋だった。

 俺は机の上にある本…日記を持つ。


「…俺になる前のアーサー王の日記…て事なのか?」


 俺は前のアーサー王がどんな人物だったのか、気になったので開いて中身を覗いてみた。



 王様生活1日目

「私遂に王様になっちゃった!これで外の世界にも出掛けられるわ!ベディヴィアさんは優しいし、ガウェインさんは強くてかっこいいし!…でも、あいつには敵わないわね」


「…なんだこれ。アーサー王って意外と女の子っぽいな…てかあいつって誰だよ」


 王様生活2日目

「王様って裕福な生活してるだけかと思いきや、大変な事いつもしてるのね。でも前の生活に戻りたいって思わないわね。あ、でも彼がいたからなぁ」


「前の生活って、王になる前の生活って事か?ふむふむ、王になる前は好きな人がいた訳だ。」



 俺はアーサー王の想い人が誰なのか気になり、読み進めるが、何日目になってもその名前が出てくる事は無かった。が。



 王様生活◯日目

「ところで、魔力を込めた宝石をボトルに入れて海に流したんだけど、今は何処にあるのかな?私が前住んでた村についてたりしたら運命かも!あ、もしかしてあの時流れてきた宝石って私が流した宝石だったりして!」



「村に…?流れてきた宝石?」


 今は持ってないけど、前にアルルがくれた宝石の事を言っているのか?

 まさかとは思うが…アルルの持ってた宝石ってアーサー王…いや、アルトリウスが流した宝石だったのか?


 俺はさらに読み進める。

 そして話は魔物戦争関連になってきた。


 王様生活◯日目

「最近やけに魔物が多くなってきた。そろそろ発生地を見つけないとやばいかも。」


 王様生活◯日目

「遂に発生地を見つけたわ。でも、まさかここで繋がっちゃうとはね。よりによってアクレスなんて…。」



「アクレス…やっぱり。」


 王様生活◯日目

「アクレスに攻め込んで魔物を一掃してきた。でも、やっぱり子供達も大人も…私も皆死んでた。でも1人だけ、変わった死体があったの。その死体は何日も前から殺されてて、私の宝石を握って死んでたの。まさか…ハティ…ハティなの?」


「…え?何でアーサー王が俺の名前を…!?」


 色々おかしい所があるが、それ以前に何故アーサー王が俺の名前を知っているのだろうか?


 王様生活◯日目

「ベディヴィアが言うには、おそらくこの何日も前に殺された死体の臭いにつられ、この村にやってきて、人間を食べて急激に数を増やし、人間の臭いを知り、人間の微かな臭いを辿ってキャメロット城に来たのでは?と言われた。もしこの死体がハティなら、私はハティのお陰であの地獄から解放されたのね。」


「なるほど。魔物が急激に増えた理由は俺があそこで殺され放置された事により死臭が出始め、それを魔物達が発見して…って事だったのか。つまり俺が原因で魔物戦争が始まったってか。」

 

 俺のお陰で地獄から解放された、とはどう言う事だろうか?前に言っていた、私も皆んな死んでいた、と何か関係あるのか?



 王様生活◯日目

「私はこのこっそり持ち帰った死体が誰なのか知りたくなって、死霊魔術を勉強した。と言っても蘇らせる気はない。もしハティじゃなかったら嫌だもん。だから、せめて生前の声が聞きたい。ハティだったらまず、私の本当の名前を呼んで欲しい。「アルル」って。」



「…!????!!!?」


 え?え?え?え?アルル?え?え?え?

 どう言う事だ。アーサー王の本当の名前がアルル?

 いや、なんとなーくアルルに似てるなーとは思ったけども!


 そう思い、ページをめくると、何日か間があり、最後に書かれていたのは、俺に向けたメッセージだった。



 ハティへ。


「多分私は今、貴方の体になっていると思う。そして多分この日記を見てる。と思うからね。まず、日記を見てて気づいてると思うけど、私はアーサー王に転生したアルルだよ。魔物に食べられちゃって死んだと思ったら、アーサー王に転生してたの。でも前の記憶も継がれてたから、いつか、どこかで生きてるハティと再開するために頑張ってアルトリウスとして生きてきた。でも、まさかあの後、殺されてたなんてね…。ハティの死体を持ち帰った後、地下にあった棺桶にいれて、大切に保管してたの。そしたら突然声が聞こえてきてさ。ごめん、アルル…てさ。私びっくりしたの。ハティは何も悪くないのにさ。だからね、私思ったの。ハティを生かせてあげたいって。だからね、私の体にハティを移してあげようとしたの。結果的にこれを見てるって事は、成功してるんだよね。でもハティが入ったら私は長くは持たないわ。でも私は女の子だから、せめて男装でもさせてから消えたいな。だから、もう私は探しても何処にもいないよ、だって、私はハティの中にいるからね。やっぱりさよならは言わなくて正解だった。さよならは言わなければさよならにならない、またいつか会える。だからこうしてまた巡り会えたんだから。」


 メッセージにしてはかなりの長文だった。


「…俺はお前を助ける為にアーサー王に転生したのに、そのアーサー王はお前で、結局俺はお前に助けられてたってのかよ…」


 そう。結局俺はアルルに助けられていたのだ。

 助けるつもりが、助けられて。


 俺は棺桶に手を伸ばした。


「この日記の通りなら、この中に俺の死体がある。」


 俺は棺桶を開けた。

 中には宝石を大事そうに握りしめたミイラがあった。

 これがどうやら俺らしい。


 俺は、ミイラが握りしめてる宝石を取った。


「…俺はアルルからこれを貰った。でもこれはアーサー王…アルルが海に流した物…どんな偶然だよ全く」


 涙が溢れ出した。

 俺はその宝石を握りしめる。


「…ありがとう…アルル…」


 涙が宝石に落ちた。

 しかし特に光ったりもせず、何も起こらなかった。


 その日の夜。


「…え?アクレスに行く?」

「ああ。今日は月が綺麗だからな。アクレスであの月を海と一緒にみたいんだよ。」

「いくらアーサー王と言えど、一人で行くのは危険だぞ。ハティクルス殿。」


 皆んなはアクレスに行く事を否定はしなかった。

 が、同行したいと言ってきて、言う事を聞かない。


「うるせーわ!お前達は雰囲気っつーのを知らんのか!空気を読んでくれ空気を!」

「…空気。」

「そう言う事じゃねぇわ!!!!!!」


 結局みんなが寝静まった夜に宝石を持ってこっそりキャメロット城を抜け出してきた。


 アクレスに到着後、俺はあの海岸に行った。


「…。」


 俺はふと、宝石を月に照らす。

 すると、宝石が黄色に光り出した。


「え、なんだぁ?!」


 俺は驚いて海に投げてしまった。


「ああああああああ!!!!俺のバカ!何やってんだ!」


 俺は急いで海に入り、宝石を探す。


「アァアァ何処だ何処だぁ?!無い無い無い無い!くそ、さっきまで光ってたくせに!何でこう言う時に光らないんだよ!」



「はぁあ、見つかってよかったわー。あーもうびっしょびしょ。」


 俺は海から上がると砂浜に座った。


「今度はビビらないぞ…!」


 俺はもう一度、月の光に宝石を照らした。

 すると、再び光り出した。


「よし、来たぞきたぞ…!さぁ、なんか起これ!」


 ………。


「…え?」


 光るだけで、何も起こらなかった。


「クソがッ!期待させやがって!…まぁ、月と海見て気分紛らわせるか。」



 ずっと見てると、昔を思い出す。

 あの時も、アルルと一緒にみてた。

 今は一人だけど…。


「…隣、座っていい?」

「え?あ、あぁ。屁しなきゃ良いよ。」

「本っ当にハティって雰囲気ぶち壊すわよね!」


 文句を言いながらもアルルはアーサー王…いや、ハティクルス、俺の隣へ座る。


「…アルル…。」

「うん?何?」

「…何で…ここにいるんだ…?」

「言ったでしょ?ここは、ブリテン島の都市外れにある村。そこにはお化けが出るという噂が…」

「そんな噂は無い。そうだったらお前がお化けじゃねぇか」

「まぁもしハティがお化けだったら、お化けじゃなくておバカだけどね」

「お前ぶっ飛ばすぞ」


 俺の名前はハティクルス•クロイ。


 今はこうして砂浜に座って幼馴染のアルル•ディオスと…また一緒に海を眺めてる。

どうでしたか?

自分としては、かなり手応えを感じました。

それでは、私はこれで。

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