「やってみなければ」
「もたないとは、どういうことだ?」
「明るすぎても負担になるが、暗すぎても精神的に滅入るんだよ。それに、ここは少し冷える。わざとか──」
そう口にしながら周りを見回したり、手を前に出したりと。何かを探しているような素振りを見せるが、残念なことに何も見つけられなかったらしく舌打ちをし、苛立ちを見せた。
「何を試している。精神力か。それなら時間で出ることが出来るだろうが、脱出しろだとしたらこのままか……。何のヒントなしで何をしろっつーんだよ。何か置いとけや。つーか、ここってどこなんだよ。ワープとかしたのか? いや、そんなことは無いはず。いきなり意識が飛んだ感じだった。意識──」
「また始まった………」
呆れた声を出し、ため息をつく。
手を前に出し掌を上に向けると、カクリは落胆したように肩を落とした。
「妖力も使えなくなっているのか。だと思ってはいたが……。これだと、私も人間と一緒だな」
その後は男性の近くに寄ろうと、足を前に出し歩き出した。
「しかし、コレは歩けているのだろ──う、か?」
カクリは少し俯きながら歩いていたため周りを見ていなかった。
足はしっかりと前に出ており、普段なら歩けているはずなのだが、何故か前に進んでいる感覚がない。その事にカクリは不思議に思い顔を上げた。
「前に──進んでいない?」
カクリと男性の距離は先程と変わらず、お互いが手を伸ばさないと届かない距離だった。
もう一度、今度は顔を上げながら男性の方に歩き出そうとするも、全く前に進まず距離が縮まらない。
「この場から動けんと言うことか。何故だ……」
2人は考え込むように、そのまま黙ってしまった。
それから5分後。男性がカクリを呼び話しかける。
「餓鬼。お前の力は想いや記憶と言った、『精神』に関わる力を得意とするんだよな」
「餓鬼ではない。……レーツェル様がそう言っていた。私はよく分からないのだけれど……」
「自分の力を分かってねぇとか終わってんだろ」
「あまり使っていないのだ。どこまで出来て、限界はどこなのかなど分かるわけがないだろう」
そのような口論をしていると、男性はいきなり目を見開き、頭を抱え始めた。
「どうした?」
「お前。聞こえねぇのか? この耳障りな──っ、音が」
「音、だと?」
男性は頭を抱え、顔を歪ませている。相当頭が痛むのか息も荒くなってきていた。
先程より顔を青くしており、このままだと本当に命が危ないように感じる。
カクリは男性の様子を確認し、嘘や偽りではないことを瞬時に察し、同じ音を聞くため周りの音を聞き取れるように目を閉じ集中した。だが、何も聞こえなかったのか、すぐに目を開けてしまう。
「音など、聞こえんが……」
「ざけんな……。なんだよこれ……。っ……頭が……痛てぇ……」
膝から崩れ落ち、その場に倒れてしまった。
「人間!!!」
カクリは先程より酷い痛みを訴えている男性に、何も考えず急いで近づこうと足を踏み出す。
「人間!! しっかりするの……だ……」
すぐに男性の横に座り触れようとした。だが、何かに気付いたのか、先程まで自身が居た所に顔を向け、眉を顰める。
「なぜ、私は今、人間に近づくことが出来た?」
先程まで歩くことなど出来ていなかったはずなのだが、今はすぐに前に進むことができ、男性の横まで近付くことが出来た。
「どういうことなのだ……」
考え込むように男性の方に向き直す。今なお、頭を抱え苦しそうに男性は唸っているため、早くどうにかしなければならない。
「いや、それより先にどうにかせねば──どうすれば良い……。頭、音など聞こえんぞ……」
焦ってしまっているらしく、周りを見回したり何度も耳を澄まそうとしている。
しかし、男性の口にする〈音〉が分からないのか、何も出来ない。
「なぜだ。人間にしか聞こえんと言うのか? そんなこと……」
焦り気味にそう口にすると、何かを思い出したのか目を見開く。
「想い──精神の力。それを私は得意とする……。これは、私が人間に力を分けるための試験……」
そうボソボソと口にし、頭を抱えている男性を見下ろす。
「間違えていたら……。いや、今はそんなことを考えている余裕はない」
カクリは1度深呼吸をし、男性に両手を向けた。
「もしかするとこの現象は……。しかし今は妖力が使えん……。いや、そんなことを言っている場合ではない。やってみなければ。もしかしたら使えるかもしれん」
そう口にし、前に出した手で何かを操作するように、上下や横にゆっくりと動かし始めた。
カクリの額には薄く汗が流れ始めるが、それを気にしている余裕は無い。
カクリが手を動かし始めて少し経つと、男性は少しずつ冷静を取り戻してきた。
「はぁ、はぁ。なんなんだよ……。俺だけかよ殺すぞ……」
痛みが引いてきたらしく、男性は頭を片手で支えながらゆっくりと座り直す。
その様子を確認し、カクリは手を下ろし、眉を下げ不安そうな表情で男性を見た。
「んな顔すんな気持ちわりぃな」
「────大丈夫になったのかい?」
「おかげさんで」
そう口にしているが、まだ痛むのか頭を支えながら会話をしていた。
「つーか、お前よくここまで来れたな。歩けるもんなのか? 地面ねぇだろ」
「最初は無理だったが、今は何故か進めた」
「はぁ?」
男性はカクリの言葉に片眉を上げ、怪訝そうな目を向けた。
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