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想妖匣-ソウヨウハコ-  作者: 桜桃
カクリ
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「すごく怪しいです」

 倒れていた男性が目を覚ました。その瞳は何を映しているのか分からず、光がない。


「目を覚ましたらしいな」

「そのようですね」


 レーツェルとカクリが男性のを見ていると、目を覚ましたばかりだと言うのに取り乱すことも、質問を2人にぶつけようともしない。

 ゆっくりと上半身を起こし、周りを見回している。


「………森の中。ん? お前達は──」

「俺はレーツェル。そして、隣に座っている子狐はカクリと言う」


 名前を聞くと、男性は2人を品定めするようにじっくりと見ている。


「…………人間──じゃない? 耳、狐?」

「そうだな。我々は人間ではない。だが、何故そんなに冷静にいる事が出来る?」


 男性の異様な冷静さに、レーツェルは逆に疑問に思ったらしく質問する。


「別に。なぁ、なんで俺はここに居るんだ? お前達がなにかしたのか?」

「我々は何もしていない。いつの間にかお前さんがここに。記憶にないのか?」

「…………ない。何も覚えてない。俺は何者なんだ。俺は、お前達と同じ人間じゃないのか……?」

「お前さんは人間だよ。そこは迷わなくても良い。だが──」


 男性の肩に手を置き、口を結んでしまう。


「な、なんだよ……」

「お前さんは今、呪われている」


 彼のその言葉に目を見張る。何が起きたか分からないこの状況で、自分は呪われていると言われたため、驚いても仕方がない。


「このままでは命が危ない。しかも、強力な呪いだ。俺でも解除するのは困難だろう」


 眉間に皺を寄せ、考えながらレーツェルはそう口にする。

 その言葉を聞き、男性は手が置かれている自身の肩をチラッと見た。


「──どうすればいい」

「ほぉ。こんな話を信じるか。普通はもっと疑うか取り乱すと思うのだがな」

「取り乱しても今の状況はどうにもできない。疑うにしても情報もない。お前達が悪かどうかを確認できる術をこちらは持っていない。なら、今は信じるしか道はないだろう」

「なるほどな」


 男性の言葉に納得した素振りを見せ、薄く笑みを浮かべた。


 先程から静かに2人の会話を聞いていたカクリだったが、1回小さくジャンプをし人の姿へと変化して、レーツェルの後ろに隠れた。だが、その耳とおしりには、狐の面影がしっかりと残っていた。


「レーツェル様」

「どうしたカクリよ」

「この男すごく怪しいです」


 カクリはレーツェルの後ろに隠れ、服を掴みながら怪しむような目を男性へと向ける。


「俺からしたらお前の方が怪しいけどな」

「!! なんだと人間!!」

「ふっ。落ち着くのだカクリよ」


 ガルルと小さく威嚇するカクリを、男性は軽くあしらい、レーツェルに再度視線を戻した。


「記憶がない。いや、生活に支障はないが──」

「1部分のみ抜き取られたというわけか」


 レーツェルの言葉に男性は小さく頷いた。


「その言葉が嘘の可能性がありますレーツェル様。今すぐこの男を置いていきましょう。怪しいてす」

「酷いなぁ。大体、今の俺は記憶もなんもねぇんだけど。このまま俺をここに置いていくとなると、子狐。お前は人殺しになる可能性が……、いや、バケモンだからそんなの気にしないか。いやぁ悪かった悪かった。バケモンにはわからん感情を押し付けるところだったわ」


 眉を下げ、申し訳ないと口にする。その態度と言葉に、カクリは怒りが込み上げてきたらしい。

 ゆっくりとレーツェルの後ろから出てきて、男性の隣に立つ。


 次の瞬間────


「──いって!!! 何しやがるこの餓鬼!!」


 カクリが握り拳を作り、男性の頭を思いっきり殴った。予想出来ていなかったらしく、頭を抑え、怒りの声を上げた。


「私は餓鬼でもバケモノでも無い。カクリだ。この無礼者!!!」

「何が無礼者だ。いきなり記憶が無くなり、何をすればいいのか分からない、可哀想な俺を拳で叩くか普通。お前の方がよっぽど無礼者だろうが!」

「なに!?」


 この後は、お互いくだらない口喧嘩を始めた。それを、後ろでレーツェルは物珍しそうに見ている。


「ほぅ。あのカクリが自ら近づき暴力を振るった。今までどんなに暴言言われても俺の後ろに隠れるか、逃げるかだったあのカクリが──か。この男から何かを感じとったのか?」


 レーツェルはカクリの行動を見ながら、ボソボソと呟き、2人のくだらない口喧嘩を見続けていた。


 その口喧嘩はお互い終わりを知らず、どんどんエスカレートしていく。だが、何故かお互いに手は出さず、本当に口だけで喧嘩をしている。


「このクソ狐が!! もう少し可哀想な俺を労え!!」

「労わんくても元気そうに見えるから問題なかろう!! 記憶がないのも自業自得では無いのか!!」

「んな訳あるか! ただの狐にそんなこと言われる筋合いはねぇよ!! 糞餓鬼!!」

「また餓鬼と言うたな糞人間よ!!」


 子供の争いのように感じるこの口喧嘩は、カクリにとっては初めての行動。

 その姿を見て、レーツェルは何かを確信したように笑みを浮かべた。


「落ち着くのだお2人さん。出会って早々仲良しなのは良いことだが、今はこれからについて話し合おう」

「「仲良くない!!!」」


 そんなことを口にする2人を、彼は戸惑うことなく笑顔で制した。

ここまで読んでいただきありがとうございます

次回も読んでいただけると嬉しいです


出来れば評価などよろしくお願いします(❁´ω`❁)

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