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「出来ねぇのか?」

 林の奥には、人が到底住んでいるようには見えない、古い小屋が1軒、建っていた。


 陽光が降り注ぎ、緑に囲まれている小屋を照らし出す。静かで神秘的な光景が映し出されている小屋の中では、主である明人がいつものように、ソファーの上で本を顔に乗せたまま眠っていた。だが、何度も寝返りをしているためら深く眠れていないのだろう。


 カクリは椅子に座り本を読んでいるが、彼の事が気になるらしく、寝返りをする度ちらっと、視線を送っていた。


 最近、明人自身口では「疲れた」や「呪いが痛むなぁ〜」など。

 軽い口調でそのような事を口にしているが、本当にそう思っているのか、体が本当に痛むのか。カクリには分かっていないため、いつも返事に困っていた。


「────ちっ」


 眠りから覚めたのか、それとも眠れていなかったのか。明人は舌打ちと共に体を起こし、周りを見回している。


「どうしたのだ明人よ」

「なんか、胸騒ぎがすんな……。また何かめんどくせぇことが起きる──いや、ないな。そんなもん二度とごめんだ」

「1人で解決するでない」


 明人は再度寝っ転がるが、目を瞑る訳ではなく、天井を眺め始める。


「最近は忙しかった。今日はゆっくり休め」

「言われなくてもそうするわ──と、言いたいんだがな。そうしたくても出来ねぇな……」

「何故だ?」


 カクリは開いていた本を閉じ、彼の話に集中する。


「魔蛭が俺の記憶をどこかに封印している。それはどこだ? 一体、なぜ俺があいつに記憶を奪われなければならない。あいつの恨みはどう考えても普通じゃない。俺はあいつに何をした。あと──」

「明人、今は考えるより体を休めることを優先した方が良い。疲労が溜まっているはずだ」


 心配そうな表情で彼を見ていたが、そんなカクリの言葉を無視し、同じ体勢のまま考え込んでいる。


「明人……。はぁ……」


 明人は1度考え込むと周りの声など気にしなくなる。時々返答するが、それも適当にだ。それをわかっているため、カクリはこれ以上声をかけることはせず、ただ待つことにした。


「──もうそろそろ溜まってきたしな……」

「溜まってきた?」


 明人の独り言のような声に、カクリはすぐに反応した。


「黒い匣だ。あれだけじゃまだ不安定か?」


 奥のドアに視線を送りながら、彼はカクリに問いかける。カクリも同じようにドアの方に目線を向けたが、すぐに視線を戻し顎に手を当てた。


「────今、黒い匣を使うのは得策ではないと感じるな。明人もそう思っているのでは無いのかい?」

「まぁ、だわな」


 あっさりとカクリの言葉を肯定する。やはり、彼自身も分かっていたらしい。


「焦るでない明人。だからといって、昼寝に昼寝を重ね時間を無駄にするのもやめた方が良い」

「どうしろってんだ。焦る必要はないんだろ? なら、寝ても良いじゃねぇかよ。矛盾してんだよお前の言葉。もう少し考えてから言葉を発したらどうだ。これだから小狐様は世話がやけるな」

「いつも通りの明人に戻り、私は嬉しく思うよ。しかし、その言葉のほとんどを否定させてもらう」


 表情を一切変えず、カクリはそう口にした。呆れているような声だが、彼がその事を気にするわけが無い。何も発さずに、ただ天井の木目を見続けていた。


「今は寝ることが出来ないのだろう?」

「……………あぁ、カタガイタムナー」

「嘘をつくでない」


 棒読みでそのように言う明人。

 今はそこまで痛くないようだ。だが、やはり気にしてしまうのか肩に手を置いている。


「…………呪いを解くことはできねぇのか?」

「記憶を戻す為に集めた黒い匣ではなく、代償として貰っている記憶を使い、呪いを解く──か」

「説明口調だな。お前には俺以外に何か見えてんのか? やめろよ。幽霊が見えるとか笑えねぇわ」

「妖が居るのだ。幽霊がいてもおかしくはないと思うがね。そもそも1度あっているのだが、忘れたのかい?」

「そこじゃねぇわ」と伸びをしながら彼は口にし、今度こそ体を起こした。そして、カクリが読んでいた本を奪い取り、パラパラとめくる。

「…………とりあえず呪いを解くことを優先したい。じゃねぇと体が持たん」

「確かにそうかもしれん。だが、失敗した場合を考えた方がいいのではないか?」

「そん時はそん時だわ」


 明人の適当さ加減にカクリは頭を抱えた。不安なのだろう。もし失敗してしまえばどうなるかわからない。もしかしたら、彼の呪いが進行してしまい、そのまま──


「……やってみる価値はあると思うが、正直私は自信が無い。もし、失敗してしまい呪いがもっと広がってしまえば、明人の命も危うくなる」

「そもそも、このままだったら呪いは進行し続ける。俺の命もこの林にある植物が無くなるまでとみた。あ〜あ、短い人生だったわ」

「明人は何百年生きるつもりだ。この林の植物が全て消えることなど有り得んだろう」

「とりあえず、やってみる価値があるならやるしかねぇ。カクリ。やるぞ」

「………仕方がない──か」


 そう言い、2人は立ち上がり奥の部屋へと向かった。そして、記憶保管部屋へと、入っていった。

ここまで読んでいただきありがとうございます

次回も読んでいただけると嬉しいです


出来れば評価などよろしくお願いします(❁´ω`❁)

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