「どこに向かっているの!?」
麗華は言う事だけ言って屋上を後にし、残された二人は現状を理解できず動けずにいた。
「…………ふざけてるのかな」
「本気、だと思う…………」
ポツポツと状況を整理する二人だが、どうしても整理が出来ず頭を抱えたり、顎に手を当てる。すると、静空が抱えていた手を下ろし、呆れた瞳を浮かべ麗羅に向き直した。
「もういいんじゃないの?」
「えっ?」
投げ捨てられたような言葉に、麗羅は思わず見返す。
「もういいでしょ。あいつがそれでいいなら私達が口出しするのはおかしい。それに、無理に何か言って変な事に巻き込まれたくもないでしょ」
「う、う〜ん。まぁ、そうか」
もうどうでもいいというような静空の言葉に、麗羅は曖昧な返事をし。今日はひとまず解散となった。
怒っている静空とは対照的に、麗羅の表情は暗く、悲しげ。このままで本当にいいのか自問自答を心中で繰り返した。
☆
それからはずっと別々で学校生活を送り、麗羅と麗華は家でも一切話しをせず日々を過ごしていた。
そんな生活が続いていたが、ある日。なぜか麗華が慌てて家に帰ったのだ。
汗を流し、肩で息をしている。大きな音を立てドアを開き、何も入ってこないように勢いよく閉め抑えた。
開かれたドアの音を聞きつけ、先に家に帰っていた麗羅が自室から出て玄関に向かう。
「ど、どうしたの??」
「…………なんでもない」
尋常じゃない麗華の表情に、驚きの表情を浮かべながら麗羅が問いかけた。だが、たったの一言で終わってしまう。麗羅の横を通り抜け、何事もなかったように麗華はそのまま部屋へと戻ってしまった。
麗羅は心配そうな表情を浮かべながらも、彼女の部屋を一目見て。何も発せずそのまま自室へと戻った。
それと同時にガチャっと、麗華の部屋のドアが開く。そこから麗華がほんの少しだけ顔を覗かせ、何かを企んでいるような瞳を麗羅の部屋に向けていた。
☆
次の日の朝。麗羅はいつも通り体を起こし学校に行く準備をしていると、いつもと違うところに気がついた。
「あれ? 私の眼鏡がない。それで、なんで麗華の青い眼鏡があるの?」
独り言を零し、疑問に思いつつも青淵メガネを手に取った。
度が入っている訳では無いため気にする必要はないが、なぜ麗華のメガネが置いてあるのか不思議に思い首を傾げる。
「ん〜。よくわかんないけど、まぁいいか。また何かイタズラかな」
軽い気持ちで青淵メガネをかけてリビングへと向かう。
リビングには誰もいなく、テーブルの上には朝ごはんであろうたまごサンドが置かれていた。その隣には『麗華と麗羅、仲良く分け合ってね』という置き手紙が母親の文字で置かれていた。
最近だと麗華は麗羅より後に行く事が多かったが、今回は珍しく早めに家を後にしていた。
いつもとは違う朝に疑問を抱きつつ、サンドイッチを口にして、麗羅はいつもと同じ時間に外へ出て、学校へと向かった。
☆
「今日はなに? イメチェン?」
「そのつもりは無いんだけど……、なんか入れ替わってた」
「なんか怪しいね……」
静空と待ち合わせ場所で一緒になり、そこから学校へと向かう。
「怪しいって?」
「だって、今の麗華はおかしいよ。なにか企んでるはず」
「まさか、考え過ぎだよ」
から笑いが零れる。麗羅が否定しても、静空は疑いの目を消さず彼女を見続けた。そんな時、麗羅の肩を後ろからいきなり掴む手が現れた。
「いった! なんですか?!」
麗羅は咄嗟に後ろを振り向くと、同じ学校の制服を着ている男子生徒四人が、怒りの表情を浮かべ彼女を見下ろしていた。
「えっ、なに?」
なぜその男子生徒が怒っているのか、何故肩を掴まれているのか。麗羅と静空は困惑の表情を浮かべるしか出来ない。何も発する事が出来ない二人などお構いなく、男子生徒は口を大きく開き麗羅に怒鳴りつけた。
「何じゃねぇだろ《《麗華》》!! てめぇ、俺達で遊んでやがったな!!」
「「麗華?!?!」」
何を勘違いしているのか。男子生徒は握り拳を向け怒りを露わにする。だが、今ここにいるのは間違いなく麗羅の方。男子生徒は二人の見分けがついておらず勘違いしていた。
「私は麗羅です!! 何を間違えて──」
「誤魔化してんじゃねぇぞ!! てめぇが言ったんだろうが。姉と見分けられなかったらメガネで見分けてってな!」
男子生徒の言葉に、やっと麗羅はメガネがすり替えられていた理由を知った。昨日麗華は慌てて帰ってきた理由も。
「昨日慌てて帰ってたのって、他にも付き合っている人がバレたから……?」
「はぁ!? ちょっと! こっちは姉の麗羅だよ!! ふざけてんじゃねぇぞクソ男子!!」
静空は男子生徒の手を掴み怒鳴ったが、聞く耳を持っていない男子生徒はその手を振り払い、麗羅に向かって拳を振り上げた。
「ひっ!?」
殴られる事を覚悟して、麗羅は目を瞑る。だが────
「走って!!!」
「うわっ!?」
静空がすぐさま麗羅の手を掴み走り出した。しかし、それを見逃すほど男子生徒は甘くない。
「待ちやがれ!!!」
「許さねぇ!!」
男子生徒は走り出した二人を追いかける。女子の足では時間の問題。静空は周りを見回し、姿を晦ませられる場所を探した。だが、ここは何もない住宅地。隠れられる所などあるわけがない。
眉間に皺を押せ、どうにか出来ないか考えながら走っていると、何かを思い出しはっといた表情を浮かべた。
「っ、くんじゃねぇ!!!」
少しでも時間が空稼げるように走っている途中で石を投げる。
「どこに向かってるの!?」
「前に行った噂の小屋!」
「えっ!?」
静空の言葉に麗羅は驚いた声を上げた。
「でも!!」
「今はあそこしかない!! 家に帰ったって意味は無いよ! 明日また同じような事が繰り返されるだけ。だったら、博打を仕掛ける!!!」
石を投げたり、曲がり角を使いなんとか距離を縮めないように走っていた。そして、林に辿り着き迷いなく二人は、中へと入った。
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