「めんどくさい生き物だな」
架唯の匣を封印してから一週間。
明人はカクリと共に日用品の買い出しをしていた。その時、架唯が事故にあった道路偶然にも歩いており、立ち止まった。
そこには控えめに小さなお花とお菓子が供えられている。
「人間なんて一人にはならねぇんだよ。絶対にな」
明人はそこに買い物袋の中にあったチョコレートを取り出し、そっと置いた。
「良かったのかい?」
「どうでもいいわ。行くぞ」
彼はそのまま、小屋へ歩みを進めた。
カクリも後ろを付いて行こうとしたが、ふとっ。後ろを見たらお供え物がある所の前で手を合わせている人がいた。
「確かに、一人になる方が難しいかもしれぬな」
納得したように呟き、置いていかれないように明人の後ろを小走りで追いついた。
☆
小屋の中で、明人は黒く染っている匣が入った小瓶を片手にソファーで寝っ転がっていた。
「明人よ、一体なにがあった。なぜ、依頼人が暴走する前に小瓶に入れる事がで出来なかった?」
カクリは木製の椅子に座り、問いかける。
「匣を取り出そうとした瞬間、なぜか記憶の中から現実の世界に戻れなくなった」
「何?」
体を起こし、彼はテーブルに小瓶を置いた。
「理由は分からねぇが、現実に戻れなかった事により小瓶に入れる事が出来なかった。そのため、依頼人の憎悪が膨れ上がり怨霊に変貌。諦めようと思ったが、完全に怨霊になっていなかったからな。無事だった方の依頼人に反応し封印する事にしたんだ」
明人の言葉を聞き逃さないよう、カクリは無言で聞き続ける。
「今回は予想外すぎた。だが、結果的には黒い匣をゲットする事は出来た訳だしいいだろ。結果良ければ全てよしだ」
そう言う割には、明人の顔は暗い。
「明人の体は大丈夫なのかい?」
「問題ねぇわ、異常はない。…………寝る。依頼人来たら起こせ」
いつもの台詞を口にし、彼は奥の部屋に行こうとドアノブに手をかけた。だが、その場から動こうとしない明人にカクリは不思議そうに問いかける。
「どうした明人よ」
「……今回は、他にどうする事も出来なかったと思うか」
明人の顔を確認する事が出来ないため、どのように思っての言葉なのか分からない。
カクリは首を傾げ考え、静かに口を開いた。
「私にはこれが一番の最善だったと思える。怨霊になってしまった者は、どうする事も出来ぬからな」
「……………………まぁ、そうだわな」
それだけを零し、明人は今度こそドアの奥へと姿を消した。それを見届けたカクリは、ジィっとドアを見続けている。
「一体、どのような言葉が欲しかったのだ明人よ。なぜ、後悔しているような声で聞く」
明人の声はいつもの人を小馬鹿にしたり、依頼人の話を聞く時のような声ではなく。低く、暗い声色だったため、カクリは息を吐き天井を見上げた。
「後悔しているようだが、私は明人が記憶を戻せれば依頼人など知った事では無い、のだが……。依頼人に何かあれば明人自身にも影響を及ぼす。まったく、人間はめんどくさい生き物だな」
カクリが呟くと、何故かいきなり目を見開き勢いよく立ち上がった。その際に木製の椅子が倒れてしまったがそれを気にする余裕はない。奥の部屋に続くドアに顔を向けた。
「明人!!!」
彼の名前を呼び、勢いよく走り出した。ドアを潜り、カクリは真っ直ぐに記憶保管部屋に入る。
そこには、息が荒く汗を流し、肩を支えながら倒れている明人の姿があった。
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