「ごめん」
悪陣魔蛭は今、ある病室の前に立っていた。ドアの隣にあるプレートには〈神霧音禰〉と書かれている。
魔蛭はそのドアに手を添え、静かに開いた。
中は個室なようでベットは中心に一つしかない。そのベットで寝ているのは、綺麗な女性だった。
腰まで長い茶髪がベットの横からはらりと落ち、透き通るような白い肌が可憐で美しい。目を閉じてしまっていても分かるほど綺麗な顔立ちをしており、触れてしまえば散ってしまうのではないかと思うほど儚い。
魔蛭はベット付近にある小さな椅子に座り、音禰の頭を優しく撫でる。悲しげで、今にも泣いてしまいそうな表情を浮かべながら。
「……音禰、巻き込んでごめん。でも、俺はもう戻る事が出来ない。だから、まだ預かっててくれ」
懺悔のように呟き、魔蛭は抜き取った匣をポケットから取り出した。小瓶の蓋をキュッと開け、音禰の方に体を乗り出し、口元目掛けて液体を垂らす。
黒くなってしまっている液体は真っ直ぐに口の中へと入っていき、条件反射なのか音禰は喉を鳴らし飲み込んだ。
その後、少し苦しげに眉を顰め息を荒くしたが、また直ぐに落ち着きを取り戻し、寝息を立て始める。
「俺の復讐が終わったら必ず助ける。お前に預けている相思の記憶を返してもらう。それまで、まだ耐えてくれ」
音禰の頭を優しく無でたあと、魔蛭は悲しげな表情を浮かべながら病室を出て行った。
魔蛭が居なくなった病室は酷く静かで、換気するために開けていた窓の隙間から入ってくる風の音だけが、心地よく部屋の中に流れていた。
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