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「逃げるぞ」

「矢田さん!」

「あら、貴音君じゃない。今回は来れたのね」


 貴音は花霞を見つけると真っ直ぐ向かい、元気な声で名前を呼ぶ。知恵も彼の後ろをついて行き、小さく会釈した。


「こんにちわ」

「こんにちわ知恵ちゃん。今日は二人で来たのね、嬉しいわ」


「ふふっ」と頬に手を添え、笑みを浮かべる花霞の表情は暖かく優しい。二人も自然と笑顔になり、三人で笑いあった。


「それで、今日はやっぱりゲームかしら?」

「はい!! 新作ゲームが入っているはずです!」

「ふふっ。こっちよ」


 花霞はゲームコーナーに案内しようと歩き出す。

 貴音も後ろをついて行き、知恵も遅れないように歩き出そうとした時、ドンッと誰かと肩がぶつかってしまった。


「いたっ。ちょっと──」


 文句を言おうと振り返るが、ぶつかった人は姿を眩ませてしまい見つける事が出来なかった。


「なんなんだよ……」


 苛立ちの籠った声を零しつつも、知恵は貴音達を追いかけるため、気にせず歩き出した。


「ふふっ。これで、私はみんなを救ったわ……」


 女性の影が覗き見える。片手には、封の空いた飴の袋が握られていた。


 ☆


「これだ!!!」


 知恵が追いついた時には、貴音の手にはもう目的のゲームが握られ、嬉しそうに見つめていた。


「良かったわね」

「うん!! ありがとう知恵!!」


 笑みを知恵に向け、大きな声でお礼を言う貴音。そんな笑みを向けられたのと、周りの視線が気になる知恵は顔を赤くし、慌ててレジへと向かわせた。


「もうわかったから!! 早く会計して来なさいよ!!」

「ふふっ。仲良しね」


 花霞はそんな二人を微笑みながら眺めている。


「それじゃ、会計してくるわ」

「はいはい。行ってらっしゃい!」


 貴音を送り出し、知恵はゲームの棚に目を向ける。

 普段知恵はゲームをしないため、何が良いのか分からずその場から離れようと歩き出した。

 先に外に出ていようと、お店の出入口を潜ろうとした時────


 ビービー ビービー


 と、けたたましい音が店全体に鳴り響いた。その事に驚き、知恵はその場で足を止め目を見開きながら硬直する。


「な、なんなの……」

「君、ちょっと鞄の中を見せてくれるかい?」


 困惑している知恵に、一人の店員が静かな声で問いかけた。何もわからずに彼女は鞄を取られ、何も出来ないままその場に立ち尽くす。

 無遠慮に鞄の中を漁られ、知恵は何もできず見続けていた。すると、見覚えのない物を手に、店員は鞄から手を抜き取った。


「────君、これはなに?」


 鞄の中からは、なぜか未会計のCDが入っていた。

 もちろん知恵はそんなのは知らない。CDの棚にも行っていないため万引きなんて不可能だ。


「な、なんで。私知らないです!!」


 店員に向かって叫ぶが、聞く耳を持ってくれず「警察呼ぶから待ってなさい」と冷たく言い放ち携帯を出した。その際、知恵が逃げないようにしっかりと肩を掴んでいる。


「違う! 私じゃない! 私は何も知らない!!」


 この騒ぎに野次馬達が続々と集まってきて、あっという間に人に囲まれてしまった。

 貴音は何が起きたのかわからず立ち尽くし、花霞は手を口に当て驚いている。


 知恵の言葉など誰の耳にも届いておらず、『知恵が万引きをした』と言う事で話が進められていく。

 その事に苛立ち、知恵は店員の手を振り払いその場から逃げ出してしまった。


「まっ、待ちなさい!!!」


 店員の声になんて従う訳もなく、知恵はそのままがむしゃらに走り続けた。


 ☆


「なんか胸騒ぎがすんな……」

「胸騒ぎ?」


 今、明人とカクリは日用品の買い出しのため小屋から出ており、ついでに前回明人の呪いが進行してしまったというお店にも行こうと言う話になり、外を歩いていた。


「胸騒ぎとはなんだ?」

「心配事や悪い予感などがするため心が休まらない事だ。そんな事も知らねぇのかよ、お前は普段何を読んでいる? 理解しないで読んでも意味ねぇんだぞ」

「そういう事では無い。その意味はわかっておる」


「そういう事ではなく」とカクリが言葉を続けようとした時、前から女子生徒が全力で走って来ている事に気付いた。

 その女子生徒は前を見ていなかったため、明人にぶつかりそうになってしまう。


「おっと」


 それを明人は横に移動し避けたのだが、何か変なのに気づき咄嗟に腕を掴んだ。


「おい、何してんだ?」


 明人に向かって走ってきていたのは、先程万引き事件の犯人にされてしまった知恵だった。

 知恵は目に涙の膜を貼り、肩で息をしている。普通ではない事は誰が見てもわかる状態になっていた。


「おい、なにが……」

「明人よ、あれを見よ」


 カクリが指を差した先には、警察官と店員が数名こちらへ走って来ている光景があった。


「…………逃げるぞ」

「そうだな」


 明人は腕を掴んだ事を酷く後悔し、顔が青くなる。逃げるため、知恵の腕を掴んだまま警察官達の反対側へと走り出した。


ここまで読んでいただきありがとうございます。

次回も読んでいただけると嬉しいです。


出来れば評価などよろしくお願いします(❁´ω`❁)

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