「今日分かると思うよ」
学校の昼休み、知恵は購買に行きパンを二つ買って屋上へと向かっていたのだが、その途中の空き教室の前を通った時、だるそうな声が廊下に漏れている事に気付き足を止めた。
『なんで学校来たんだろう』
『知らない。周りの迷惑なんて考えないんでしょ、あの女』
『少しは考えればいいのに』
女子の声。三人で知恵の話をしている。
朝、知恵が教室に入ると周りの目線が痛いくらい彼女の身体に突き刺さった。その全てが批判的な物で、知恵は舌打ちをし自身の席に着き昼休みまで過ごしていた。
「直で言えや」
朝から刺さる目線と言葉にいら立ち、我慢できず文句が口から零れ落ちる。だが、知恵は何も言わずにそのまま無視して歩き出そうとした時──
「赤城さん」
知恵を呼ぶ声が前方から聞こえ、すぐに足を止めた。
「──何。何か用なの優等生さん」
声をかけたのは、優等生の赤羽根香美だった。
手には見慣れない袋を持っており、その中には色とりどりの飴が入っていた。知恵はそれを凝視している。
「優等生さんにしては珍しい物持ってるね。飴か?」
「そう、飴だよ。でも、ただの飴じゃない」
「ただの飴じゃない? なに意味わかんない事言ってるの。勉強のしすぎで頭おかしくなった?」
怪訝そうに眉間に皺を寄せる知恵を見て、香美は口角を上げ、飴を大事そうに持ち頬擦りをする。
その表情を見て知恵は肩を震わせ、思わず後ずさった。
「多分、今日分かると思うよ。この飴の効果が──ね」
意味深な言葉を残し、香美は不気味な笑い声を上げ、知恵の横を通り過ぎる。
「な、なんだったの。気持ち悪い……」
何が起きたのかわからずその場に立ち尽くしていると、香美が居た方向から、今度は明るい声で知恵の名前を呼ぶ人が現れた。
「知恵! そこで立ち尽くしてどうしたんだ?」
貴音が知恵の表情を見ると何かを悟ったのか、キョトンとした顔を浮かべながら知恵に問いかけた。
「──いや、別になんでもないよ。貴音こそどうしたの?」
「ん? 今日新しいゲームが出るから一緒にいつもの店に行こうぜ!! 矢田さんにも会いたいし」
貴音は興奮気味に言った。
「前にも買ったじゃん」
「ゲームは何個あってもいいだろ?」
「そういうもんなの?」
「うん!!」
知恵は呆れた表情を浮かべ、貴音を見た。
「な!! 行こうぜ!」
「──はいはい。行こうか」
知恵の呆れたような言葉を聞いたあと、貴音は満面な笑みになりお店へと向かうため、手を引いて歩き出す。
いきなり手を掴まれた事により、彼女は顔を林檎のように赤くし、咄嗟に手を払ってしまった。
「距離感気をつけろ!!!!」
廊下には知恵の戸惑いの声が響き、貴音の謝罪の気持ちが籠っていない言葉で締めくくられた。
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