「始めようか」
「なに、私に何か用なわけ?」
「い、いえ……」
「なら、そこどいてくんない? 邪魔なんだけど」
「すいません……」
学校の廊下で女子生徒二人が揉めていた。
強気な口調で話しているのは赤城知恵。明るい茶髪がふわふわと巻かれており、ワイシャツは腕捲りしてスカートは周りの人より短い。一言で言えばギャル系女子だ。
気弱そうに話している人は赤羽根香美。
黒いストレートの髪を腰まで伸ばし、黒縁メガネをかけていた。スカートは長く膝下くらいで優等生のような立ち居振る舞いだ。
「ほんと地味な子。視界にも入れたくないわ」
「ご、ごめんなさい……」
「謝るくらいならもっとおしゃれしなさいよ」
冷たく吐き捨て、知恵は廊下を進む。香美は俯いてしまいどのような表情をしているのか分からない。そのままとぼとぼと”二年B組”と書いている教室に入ってしまった。
☆
「あの人だよ。ほら、放課後、喧嘩ばっかりやってるっていう」
「あの、不良としかつるまないっていう……」
「さっきも揉めてたらしいよ」
知恵が廊下を歩いていると、周りの人達が影でコソコソと耳打ちをしている。それが全て聞こえている彼女は眉間に皺を寄せ、面倒くさそうに顔を歪める。
「ちっ。コソコソ言いやがって……。言いたい事があんなら直で言ってこいや」
怒りで顔を赤くしドスドスと歩く知恵に、一人の男性が近付き馴れ馴れしく肩を組み声をかけた。
「よぉ!! 相変わらず不機嫌そうな顔してんじゃねぇか。そんなだから人が寄り付かねぇんだよ」
「っ貴音?!」
知恵に話しかけたのは四季貴音。黄色の髪が猫っ毛なためふわふわと跳ねており、男子の制服を着てブレザーの前を全開にしている。
声は男性とは思えないほど高い声をしており、顔も中性的だ。
「お前また喧嘩したんだって?? もっと周りに優しくしてやれって」
「う、うるさいよ。関係ないでしょ」
貴音と知恵は中学の時に知り合った親友で、ずっと一人で行動する知恵に貴音は何度も諦めず話しかけ、今の関係を築いた。
知恵自身もこの関係に不満はなく、むしろ今は嬉しく思っていた。貴音が話しかけた瞬間、少し頬を染め明るい表情へと切り替わる。
「それで、この後暇?」
「…………なに」
「俺のゲームに付き合って」
貴音は重度のゲームオタクで、暇があればスマホゲームをしていたり、家では持っていないゲーム機はないんじゃないかと言うほど部屋がゲーム機に囲まれている。だが、それを学校の友達には隠していた。
理由は『ゲームオタクって恥ずかしいじゃん』らしい。
そんな会話を中学の一年生の時に知恵に話していた。
「別にいいけど。私と一緒にいない方がいいよ。後で家に行くから」
「……………わかった!! なら、また後でね」
貴音は一瞬不満そうな顔を浮かべたが、すぐに人懐っこい表情に変わり教室に戻って行く。その背中を、知恵は少し物足りないような顔を浮かべながら見送った。
☆
「どうも」
「待ってたよ知恵!!」
知恵は一度家に帰り私服へと着替え、貴音の家へと向かっていた。
今の服装は白いTシャツの上に黒いパーカ。ワイドパンツにスニーカーと、ラフな服装をしている。日差しが気になるのか帽子を被り、グラサンも付けていた。
背中には少し大きめなリュックを背負っている。
「失礼します……」
「今は俺一人だから気にしなくていいよ」
「一人!?」
「え? うん」
おずおずと玄関を潜り、上がり込む知恵に貴音は当たり前のように言い放つ。予想外の言葉に、彼女は思わず驚きの声をあげてしまった。その声に貴音も驚き、ポカンとした表情で見返している。
「なにか驚く事ある?」
「な、なんでもない」
「そう? なら部屋行こっか」
ウキウキと軽い足取りで部屋に行くための階段を上る貴音の後ろを、知恵は周りを気にしながら静かについて行く。
そんな知恵の様子など一切気にせず、貴音はそのまま進み部屋の前に辿り着いた。すぐにドアを開け、中へと入る。
「相変わらずだね……」
「そう?」
壁いっぱいに歴代のゲーム機が飾られている。
カラーボックスに入っているのは教科書が三分の一で、他は全てゲームのカセット。音ゲーやRPG系。育成ゲームまである。
何回来ても見回してしまうほど凄い圧迫感のある部屋だ。
「それじゃゲーム始めようか」
「………う、うん」
笑顔でコントローラーを渡す貴音に、知恵は苦笑いを浮かべながら静かに受け取った。
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