「お前の匣は何色だ」
いきなりドアから入ってきた明人に、4人は不思議そうに首を傾げたり、眉間に皺を寄せたりと様々な反応を見せた。
それに対して明人は、微笑みを一切崩さずにそのままお店の中へと足を踏み入れ、正司達に近付いていく。
幸いにも今はお客さんがいない時間帯。お店の中には由紀子達3人と正司しかいなかった。
「貴方は誰なのですか? なぜ私の名前をご存知で」
「私は筺鍵明人と言います。依頼人である秋穂さんの願いを叶えるため来ました」
「えっ……」
明人の言葉に秋穂は目を見開く。
確かに小屋に行き話はしたが、願いを叶えるのは不可能だと彼自身が言っていたのだ。
「ここのお店は私の知り合いもお気に入りでしてね。潰されては困るんですよ」
「部外者が口を出して良い話ではない。引っ込んでいてもらおうか」
眉毛をぴりぴりと震わせているため怒っているとすぐに分かる。
秋穂達は不安そうに明人の方に顔を向けるが、怒りを向けられている本人は気にする様子など一切見せず、それどころか火に油を注ぐような言葉を口にしたのだ。
「お客様を部外者と言う貴方が作ったホテルなどに、人が来るのでしょうか? ふふっ、私でしたら絶対に行きませんね。そんな無礼で礼儀のなっていないホテルになど──」
口元には笑みを浮かべているが、目は一切笑っていなく、普通に怒っている人より数倍も怖い。
目を向けられていない由紀子や皐月でさえ身体を震わせるほどだった。
「そのようなことを貴方に言われる筋合いはありません」
「確かにそうですね。まだ、ホテルを建てられた訳ではありませんし、気が早すぎましたね。すいません」
軽く謝罪する明人は何かを企んでいるように、目を細め先程とは違う、人を陥れることに喜びを感じているような笑みを浮かべている。
「ここのお店やホテルがどうなろうと私にとってはどうでもいいのですよ。私がここに来た理由。それはただ1つ───」
明人がそう言った瞬間、正司以外の人が急にその場に倒れてしまった。
「なっ!? 何が起きた!!」
正司が倒れた由紀子達に顔を向けると、そこには小瓶を片手に持っているカクリの姿があった。
おそらく、カクリが3人に気付かれないように近付き、眠り草を吸わせたのだろう。
「では、貴方の〈匣〉を頂きましょうか」
正司の背後にいつの間に立っていた明人。
声に驚き反射的に恐怖の顔を浮かべながら振り向くと、五芒星が刻まれた彼の右の瞳と目があった。
「さぁ、お前の匣は何色だ?!」
目が会った瞬間、正司はその場から崩れ落ち、明人も夢の中へと入っていった。
「な、なんだここは……」
正司が目を覚ますと、周りは真っ暗で何もない空間だった。
手を前に伸ばすも何も掴めず、歩こうとしても周りが真っ暗なため、前に進めているのかも分からない。
何が起きたのか分からない正司は困惑するばかりで、脂汗を滲ませ、忙しなく周りを見回している。
すると、正司の目の先に突如として小さな光が現れた。
「ひ、光だ!!」
その光に助けを求めるように、正司は駆け足で近付く。しっかりと前に進めているようで、光は徐々に大きくなっていき、目を細めてしまう。
正司は口角を上げ、光に手を伸ばし助かったと安堵した瞬間───
「君は判断を間違えた。ここまでだよ」
光の正体は狐姿のカクリだった。そして、後ろの暗闇の空間から突如として響き渡る歪な笑い声。
『お前の欲にまみれた黒い想い。自分の欲の為ならば周りを一切気にしない強欲さ。俺の大好物な黒い匣──』
恐怖で瞳が揺れ、声が聞こえなくなるように耳を塞ぎ「やめろ。やめてくれ……」とブツブツと呟いた。
俯いていた彼だったが、次の明人の言葉に顔を上げてしまう。
「お前の匣は頂いた」
顔を上げた瞬間、目の前には口角を上げ、この状況を楽しんでいる笑みを浮かべ彼を見る明人の顔が映った。
「ひっ──ぎゃぁぁぁあああ!!!!!」
「ん、あれ……。私なんで……」
お店の中で寝ていた3人は、目を覚まし周りを見回した。
いつの間にか正司は居なくなっており、明人の姿すらなく、何が起きたのか分からない3人は顔を見合わせることしか出来なかった。
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