「お久しぶりです」
「諦めてください」
「また来ますね」
正司はそう言って、またお店を出て行く。こういった出来事が最近はすごく多くなっており、1週間に2〜3回ペースになっていた。
「よく諦めずに来ますね……。いい加減にしてよ」
「本当ですね……」
皐月は正司が出て行ったドアを睨み、由紀子はその場にへたり込み胸に手を当てた。
2人はずっとお店にいるため、精神的にも相当疲れているらしい。気が休まらないと最近皐月も口にしていた。
そんな2人を見て、秋穂はどうにか出来ないかと思ったらしく、顎に手を当て考え始めたのだが、何も思い浮かばなかったのか悲しい顔を浮べ項垂れる。
「どうしたらいいんだろう……」
まだ学生である彼女には何もできる訳もなく、諦めるしか無かった。
教室の椅子に座り本を読んでいる秋穂は、クラスメートが話しているある〈噂〉が耳に入った。
「今学校で流行ってる噂あるでしょ?」
「林の奥にある小さい小屋でしょ」
「そうそう。その小屋ってなんか色々な噂があるじゃない」
「確か、絶対に開かない箱を開けてくれたり、願いを叶えてくれるって話とか。でも、辿り着けない人が多いんでしょ?」
「みたいだよね。昨日私の友達が噂を確認するため林の中に入ったみたいだけど、1時間くらい歩いても見つからなかったらしいよ」
「本当は嘘だったりして」
「まぁ、ただの噂だし。本当にあるわけないのかな?」
「都市伝説みたいな感じだよね〜」
秋穂はその会話を耳にして本を閉じる。
「願いが、叶う」
そう呟き、彼女はスケジュール帳を取り出し何かを確認し始めた。
「ここ、かな」
秋穂は今、噂になっている林の前に立っていた。
願いが叶うという噂が気になり、もし本当なのならと考えたらしい。
「ダメで元々だし……。入ってみるか」
気合いの入った表情を浮べ、薄暗い林の中へと足を踏み入れた。
林の中に入り数十分経ったが、目当ての小屋は見えて来ない。周りは全て緑で覆われており目印が何1つとしてないため、奥に行きすぎると帰れなくなる可能性がある。
「……さすがに、噂は噂か」
放課後に来てしまったため、空が徐々に暗くなっていく。ただでさえ周りは同じ景色で道に迷いそうだと言うのに、これで夜になってしまったら迷子になってしまう。
不安げに眉をひそめ溜息をつき諦めて、林から出ようと来た道を戻り始めようとした──けれど。
「──なんか気になる」
来た道を戻ろうと1歩前に出した足は、そのまま元の場所に戻ってしまい、再度振り向いた。すると、驚きの光景が映し出され、彼女は唖然としてしまう。
「あ、あれ……?? さっきまでなかったのに」
秋穂の目の前には開けた場所にぽつんとある古い小屋が突然現れた。まるで誘っているかのようなタイミングに、彼女は近付くことを戸惑われている。
「…………この、小屋なのかな」
それでも1歩1歩ゆっくりと、周りを警戒しながら小屋へと近付く。
ドアに少し触れ何か無いか確認したが、特に変わったものはなく普通のドアだった。
ドアノブを握り、少し悩んだが意を決してドアを勢いよく開いた。
「────あっ、貴方?!」
「お久しぶりです。幸せ処の店員さん」
小屋の中には木製の椅子に座り、優しい笑みを浮かべている明人の姿があり、秋穂は驚きの声を上げその場に立ち止まってしまう。
「えっ、と。前、お店に来てくれた方」
「はい。すごく美味しかったですよ」
微笑みを絶やさない明人の表情に、彼女は肩に入っていた力が自然と抜ける。そして、明人は右手をソファーに添え座るように促した。
「どうぞ、おすわりください」
「し、失礼します」
言われた通り、秋穂はソファーに座り姿勢を正す。
「では、お話をお聞かせ願いましょうか」
「お、お話?」
「なぜ貴方がここに来たのかです」
明人の怪しい雰囲気に飲まれそうになりながらも、秋穂は顔を俯かせ、何故自分がここに足を踏み入れたのかを話し出した。
「なるほど。先日行かせていただきましたが、まさかそのような事になっていたとは思いませんでした。それは大変でしたね」
眉をひそめ、彼は険しい表情になる。すると、突然カクリが明人の横に立ち秋穂に聞こえない程度に言葉を交わした。
「明人にぶつかった男性だろう。今すぐにでも人形にするぞ」
「お前最近バオイレンスすぎだろうが。なんだ、お前は女性ホルモン崩れてんのか? イライラしすぎだろ落ち着け」
「女性ホルモン?」
「……アホにはわからん言葉だったか──?!」
明人の言葉の後、カクリはイラつきを隠しもせず彼の足を思いっきり踏みつけた。さすがに痛かったらしく、顔を下げ体をプルプルと震わせてしまっている。
「あ、あの大丈夫ですか?」
「……えぇ、ご心配なさらず」
秋穂には先程の会話は届いてないため、明人がなぜ顔を下げ震えているのか分からないらしい。
なんとか微笑みを崩さず、彼は冷や汗を隠し会話を続けた。
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