「憎むんだな」
凛は中身が何も入っていないビニール袋を持って、暗い夜道を叫びながら歩いていた。
周りはお店が建ち並んでおり、扉には【CLOSE】と書かれた看板がかけられている。
「ちょっと!!! 悪陣魔蛭!! 出てきなさい! また私に願いの叶う飴をちょうだい!!」
叫び散らしながら歩き続ける凛の表情は、怒りしか感じ取る事が出来ず、顔を赤くし歩いていた。
☆
凛は星と真珠を虐めていた時、こっそりと飴を舐めており。その飴は真珠も一度舐めた事がある”願いの叶う飴”だ。そして、それが入っていたであろうビニール袋には何も入っていなく、空の状態。
凛は悪陣魔蛭からまた飴を貰うため、人気のない道を探し回っていた。
「さっさと出てきなさいよ!!」
地面を強く蹴り、歩いていた足は焦りでなのかだんだん小走りになって行く。苛立ちと焦りが籠った声が、何も無い暗闇の中に響く。
何故凛がここまで焦っているのか。それは、最後の一つであった飴の効果が無くなり、テニスの技術が大幅に下がってしまったからだ。
ろくに練習もしていなかったため、飴を舐めていなかった時よりも酷い有様になっている。
「私は天才なの……。そう、私は選ばれた。選ばれた、唯一の存在……」
自分に暗示するように呟き、歩き続ける凛の体にはどす黒いオーラが纏われているように見える。誰も今の凜に血数乞うとする人はいないだろう。
そんな中、凛が歩いていた道の前方からコツ………コツ……と。革靴で歩いているような足音が聞こえた。その直後、楽しげな声が響く。
「おいおい、もうなくしちまったのかよ。早すぎだろうが」
凛の前方からやってきたのは眉を下げ、口角を上げている悪陣魔蛭だった。その笑みは歪で、恐怖を感じるもの。だが、凛はそんなのお構い無しに、空になっているビニール袋を押し付け喚き散らした。
「早く新しいのをちょうだい! 早く!!」
甲高い声で何度も「頂戴」と繰り返している。その様子を魔蛭は八重歯を見せ、喉を鳴らし笑っている。
「いいぜ、くれてやるよ。ただし──」
凛はその言葉に喜び笑みを浮かべた。だが、次の瞬間────
凛の瞳からは生気が失われ、次の瞬間その場に倒れ込んでしまった。
「お前の【匣】を引き換えにな」
魔蛭は倒れた凛の手に飴の入ったビニール袋を置き、笑い声を上げながらその場を去って行く。
「貰っていくな。お前の──理想の自分を」
魔蛭が去った後、倒れた凛に近付く一つの影。その影の正体は、どのような感情なのか読み取る事が出来ないほど、無表情な顔を浮かべている明人だった。
明人は近くに置かれている飴を持ち上げ、まじまじと中身を確認している。そして、そっと自分のポケットの中へと入れて、その場をあとにした。
「匣を取られちまったら終わりだ。自分の選択を憎むんだな」
そう言い残し、彼は闇の中へと姿を消した。
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