表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
39/192

「企業秘密だ」

 真珠は明人を見届けたあと、息をつき肩の力を抜く。

 カクリがソファーの後ろから近付き、真珠に声をかけた。


「本当に、いいんだね?」

「っ。えっ!? 誰!?」

「会った事なかったかい?」

「あ……。前回……、小屋にいた綺麗な子……」


 何となく覚えているようだが、カクリは依頼人にあまり興味が無いため、覚えていようがどうでも良かった。


 お互い見つめ合うがどちらも口を開かず、沈黙が続く。

 数秒後、沈黙を破る声を出したのは、カクリの鈴のような声だった。


「君自身はもう、大丈夫そうだね」

「え? それって……」

「そのままの意味だよ。私は疲れた、隣失礼するよ」


 真珠の返答を聞かずに、カクリはソファーに移動し彼女の隣に座る。

 横顔からでも分かるほど儚く美しい見た目に、真珠は魅入ってしまう。


「そんなに見たところで意味はあるのかい? 失礼ではないかい?」

「え、ご、ごめんなさい……。その。綺麗で、つい」


 謝罪しつつも目を逸らさず、見続けている。


「口だけの謝罪に意味はあるかい? 君は本当に弱いね」

「うっ。すいません……」


 今度こそ、真珠は項垂れ目線を外す。

 その直後、ドアの奥へと行った明人が戻ってきたのだが、その姿に真珠は驚き目を見開いた。


 今の明人の姿は黒いスーツに、緩めのネクタイを面倒くさそうに締められ。脇にはビジネスバックが挟まれている。


 その姿を見た瞬間、真珠は先程までの態度との違いに驚き、目が離せなくなった。


「見惚れてねぇでさっさと行くぞ」

「みっ、見惚れてなんていません!」

「俺はかっこいいからな。見惚れるのは仕方がねぇよ」

「自分で言わないでください!」


 言い争いをしながら、二人はドアを潜り外へ出ようとする。

 その時、明人は少年の姿でついていこうとしていたカクリの方へ振り向き、口を開いた。


「カクリ、お前は狐の姿になれ」

「! どうしてだい?」


 明人がなぜそう言ったのか分からず、カクリは首を傾げ聞き返す。


「お前、今歩くのおせぇだろうが。そんな奴に合わせてたら夜になるっつーの。さっさと肩に乗れ」

「…………そういう面もあるのだな」


 カクリは驚きの声を零し、言われた通り小狐の姿へと変わった。


 そのまま明人の腰まで跳び、そこから上へとよじ登ろうとするが、途中で前回刺されてしまった所に痛みが走り顔を歪ませる。

 それでも、しっかりと肩へと登りきった。


「んじゃ行くぞ」

「は、はい」


 真珠は、今までのカクリと明人の会話に困惑。

 当たり前のように進もうとする明人達の後ろを、彼女は素直について行くしか出来なかった。


 ※


 明人の歩幅は女子高生である真珠と比べると大きい。

 置いていかれないよう、真珠は必死に早歩きでついて行く。


 今はもう本性を出しているため、明人は人に合わせるなどする訳がなく、自分中心で進み続けていた。


「ちょっ、早いですよ!!」

「お前が遅いんだろうが」

「私に合わせてください!!」

「お前は夜の病院に行きたいのか?」

「そんなに遅くなるかぁぁぁあ!!」


 今は昼過ぎで、病院もそんなに遠くない。

 真珠の歩幅でもすぐに辿り着く事が出来る。


 そんな口論をしていたが、結局明人は真珠に合わせる事はなく、病院に辿り着いてしまった。


「さて、受付でもしてくるか……。あ? お前なに疲れてんだよ、運動不足か? どーせ家でゲームだの本だの携帯だのして寝不足なだけだろ、自業自得だ。さっさと来い、餓鬼」

「はぁ……はぁ……。あんた……まるっきり別人よね……。接客業……はぁ……向いてないんじゃないの……」


 膝に手を付き、真珠は息を整えようと肩を上下に動かしながら、彼の言葉に怒りを込めて返答していた。だが、その言葉に彼は一切耳を貸さず、そのまま廊下を進んでしまう。


「ちょっ! 待ってよ!!」


 真珠は息が整わないうちに、明人のせいで再度走る羽目になってしまった。



 星の病室を見つけ、明人は乱暴に足でドアを開いた。


 勢いよく開いてしまったため、ガタンという大きな音が廊下に響くがそれでもお構いなく、彼は病室の中へと足を踏み入れた。


「ちょっと、手ぐらい使いなさいよ……」

「足が長いものでね」

「はいはい。分かりましたよナルシストが……」


 真珠はそのあとも明人への文句や不満をブツブツと零していたが、言われている張本人は一切聞こえておらず、ベットへと向かった。


「さてと、さっさと開けるか……。カクリ、あとは頼むぞ」

「あの者はどうするつもりだ」


 カクリは顔を真珠の方へと向け、問いかける。


「あ、そうだったな。おい、そこのキモオタ」

「っ、誰がキモオタよ!! どこがオタよ!!」

「ブツブツなに呟いてんだよ。黒魔術でもするつもりか? 何を召喚するつもりだよ」

「何も召喚しませんよ!」


 キッと明人を睨むが、彼は何処吹く風のような態度を貫き通す。


 この二人は”混ぜるな危険”のような関係になってしまったようで、カクリは肩に乗りながらため息を吐いていた。


「厨二病女、俺は今からこいつの匣を開ける。ここからは企業秘密だ、病室を出ろ」

「…………はぁ?」


 真珠は眉間に皺を寄せ、不機嫌そうな態度を見せた。


「さっさと行け」

「っ。…………わかったわよ」


 素直に従いたくない真珠は反発しようとしたが、明人の鋭い目に睨まれ、反射的に頷いた。


 最後に彼を睨みつけ、ドアを閉めた。


 真珠が病室から出ていった事を確認すると、明人は星の頭を支えるように手を添え、もう片方の手で隠していた右目を露にする。


「さて、今はどんな感じになってるのかねぇ……。話聞ける状態じゃなければすぐに蓋を閉じるぞ、カクリ」

「了解だ、明人よ」


 力強く交わし、二人は記憶の中へと入っていった。


ここまで読んでいただきありがとうございます。

次回も読んでいただけると嬉しいです。


出来れば評価などよろしくお願いします(❁´ω`❁)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ