表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/192

「行きましょうか」

読んでいただきありがとうございます!

楽しんでいただけると嬉しいです(❁´ω`❁)

 夏恵が小屋のドアを開けると、そこには妖艶で美しい男性、明人が木製の椅子に座っていた。

 柔和な笑みを浮かべ、元々整っている顔が更に磨き上がっている。その黒い瞳は、ドア付近に立っている夏恵ではなく、夏恵の奥底に眠る()()を見ているようだった。


「どうぞ、お座りになってください」


 声は高い訳ではなく、だからといって低すぎる訳でも無い。音域で例えるとテナー位の高さで、相手が聞き取りやすく話している。

 耳の中に自然と入ってくる透き通るような声に、夏恵はぽかんと立ち尽くしてしまった。


「立っているのは疲れるでしょう。さぁ、遠慮しないでください」

「っ、すいません! 失礼します!」


 明人を待たせてしまった事に平謝りし、夏恵は鞄を自身の隣に置きソファーに腰を下ろした。


「では自己紹介させていただきますね。私は筺鍵明人と言います」

「私は神田夏恵と言います。あの、ここは悩み相談所みたいな感じでしょうか?」

「似たような物ですが、また少し違います」


 明人の話し方が柔らかく優しいため、夏恵は肩の力が少し抜け、普通に話せるようになっていた。


「噂を聞いてこちらに来たのですが、箱を開けるとはなんの事でしょうか。それに、実物の箱では無いとも聞いておりまして……」

「そこまで知っていたのですね。助かります。私が行っているのを簡単に説明致しますと、悩みの()を取り除き、依頼人の方々にはそれと同等の物を差し出していただいています」

「差し出して……。悩みの種を、ですか?」

「はい。それで、貴方は一体どのようなお悩みを?」

「あの、私自身の事ではないのですけど。それでもいいんですか?」


 夏恵の質問に明人は驚き目をぱちぱちさせている。まさか自分以外の人のためにここまで来るとは思っていなかったため、すぐに返答が出来なかった。


「──内容を詳しく教えて頂けますか?」


 明人は少しだけ考えたあと、夏恵を伺うように見つめ問いかける。


 その質問に、夏恵はなぜここに来たのか。友達である美由紀についてを知っている限り全て話した。

 しかし、夏恵自身も分からない事が多いため詳しく話す事が出来ずもやもやする。


「要するに、部活見学中に何かあり感情を失ってしまった。と言う事ですか?」

「はい。それで、なんか見ていて痛々しいというか……、まるで人形みたいなんです」

「人形、ですか……」


 考える素振りを見せる明人。その表情には、少しだけの()()が含まれているように見える。だが、その雰囲気を感じ取れていない夏恵はやっぱり無理なのだろうかと眉を下げ、帰ろうと思い鞄を持ち腰を浮かせた。

 その時、ソファーの隣から鈴音を転がすような透き通る声が聞こえた。


「君」

「きゃぁぁああ!!」


 いきなりの声に驚いた夏恵は、勢いで鞄をソファーの下に落としてしまった。それだけではなく、残念な事にファスナーが開いており、中身までバラバラになってしまった。


「あっ。ごっ、ごめんなさい!」


 夏恵が慌てて拾おうと手を伸ばすと、明人も一緒に拾い始める。


「いえ、ここには私だけではなく同居人もいるのです。驚かしてすいませんでした」


 明人は謝罪を言いながら、笑顔で次々と教科書などを拾う。その際、夏恵に気付かれないようにカクリを睨んでいたのだが、カクリは全く気にする様子を見せずに顔を背けた。


「あの、ありがとうございます」

「いえいえ──ん?」


 鞄から落ちた物の中に、一つだけ。気になるものがあり、明人は拾い上げまじまじと見る。彼が手にしていたのは、美由紀の部屋にあった紙だ。


「あ、それは先程言っていた友達の部屋にあった物です。なんの事か分からず勝手に持ってきてしまったのですが……」


 明人は夏恵が説明している時も紙から目を離さずにずっと見続ける。

 紙の裏を見たり、また表に戻したりと隅々まで確認していた。


「あの、一体どうしたのですか?」

「この方とはお知り合いで?」


 明人は紙に書いている文字を見た瞬間、それが人の名前だと理解し夏恵の言葉を気にせず問いかけた。だが、夏恵は何と書いているかもわからなかったため戸惑いがちに答える。


「いえ、読み方すら分からなかったです」

「そうですか」


 またしても明人は口を閉じる。

 夏恵はよく分からず彼をじっと見る。すると、明人は何を思ったのか眉間に皺を寄せ、難しい表情を浮かべてしまった。


「……あ、申し訳ございません。ご依頼人の前で考え事をしてしまって……」

「あ、いえ。大丈夫です」


 本当に申し訳ないというように眉を下げ、微笑みながら明人は謝罪を口にした。その表情を見た時、彼女は慌てて右手を振りながら大丈夫だと伝える。


「それでは、貴方のご依頼はご友人の美由紀さんを元に戻して欲しいと言う事でしょうか?」

「はい」

「少々難しいので、必ず戻せるとは言い切る事が出来ませんが──それでもよろしいですか?」

「大丈夫です! お願いします!」


 夏恵は深々と頭を下げた。だめでもともと。何もやらないよりは何倍もマシと考え力いっぱい頷いた。


「では準備してきますのでお待ちください」


 「失礼します」と、部屋の奥にあるドアの中へと姿を消した。

 明人が居なくなったあと、夏恵はずっと後ろに立っていたカクリへと視線を移す。


 よく見ると儚く美しい顔立ちをしている。歳は十代前半くらい。

 こんなに幼いのに見惚れてしまえるほど美しいとは将来はどうなってしまうのだろうかと、思わず夏恵は見惚れてしまった。


「何をジロジロ見ているんだい」

「ひっ! なんでも!」


 夏恵はいきなり話しかけられたため、かすれ声も一緒に出てしまった。


「何も無いのに人をそんなに見るなんて失礼だね」

「ご最もです……」


 見た目は儚く美しい少年だが、性格も見た目通りとはいかない。まさかこのような話し方をするとはと、夏恵は肩を落とし項垂れた。


「ところで君は何故ここに?」

「え? それは先程お話した通り……」

「そうでは無い。人のために、何故わざわざここにと聞いているのだ」


 カクリは夏恵の言葉をさえぎり具体的に質問する。その質問に対し彼女は答えを口にしようとするが、上手い言葉が見つからず直ぐに口を閉じてしまった。


 そもそも夏恵自身、そこまで善良では無い。

 赤の他人が困っていても話しかけるのは正直戸惑ってしまうし、わざわざこんな所まで脚を運ぶなど普段の夏恵ならありえない。


 今回困っているのが()()の美由紀だからだ。だが、それにしては夏恵の表情は曇っており、友人という関係では納得いっていない様子を見せる。


「君自身も何か困っているようだね」

「私自身?」

「君の事は明人に話を聞いてもらった方が良い。私では分からないのでな」


 これで会話は終わりというように、先程まで明人が座っていた木製の椅子へとカクリは腰を下ろし、テーブルの下にあったであろう本を取り出し読み始めてしまう。


 それから数分後、奥のドアが開きスーツに身を包んだ明人が戻ってきた。

 ワイシャツはボタンを一つだけ開け、上着は前を開いていた。少しラフな感じだが、ワイシャツはしっかりとズボンに入れ、腰パンなどはしていなかった。


「お待たせしました。申し訳ございません、お時間かかってしまって……」


 そう言っている明人の片手には少し大きめのビジネスバッグが握られている。

 夏恵はいきなりスーツに身を包んだ明人に対し反応に困っていた。


「ご友人のご自宅へ、ご案内を願いします」


 戸惑っている夏恵に手を伸ばしつつ、明人はお辞儀をし、ドアを開け手を添えた。本当にどこかの執事なのではと思うほど優雅で美しい。


 夏恵は目が離せず見続け、促されるまま外へと足を踏み出した。

ここまで読んでいただきありがとうございます!

次回も読んでいただけると嬉しいです!!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ