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「知らん」

「明人…………」


 カクリはレーツェルがいなくなってしまった後、ずっと明人の隣で目を覚ますのを待ち続けた。目には涙の膜が貼り、動く度零れ落ちそうになる。


 明人の手を震える手で握り、何度も名前を呼ぶ。信じると決めたとしても、不安感はぬぐえない。消す事が出来ない最悪の状況。想像すらしたくない光景がカクリの頭の中を巡る。


「明人…………。早く目を覚ましてくれ……」


 願いが口から零れ落ちた時、明人の体がピクッと動いた。カクリは目を大きく見開き、バッと。明人の顔を見る。


 明人は、少しだけ眉を顰めると、瞼を開き始めた。漆黒の瞳が姿を現し、上半身をゆっくりと起こした。


「っ、明人!! 大丈夫なのか!? どこか痛いところなどは──」


 明人が起きた事によりカクリは喜びつつ、痛みがないか、呪いはどうか、魔蛭はどうなったかを次々と問い詰めた。だが、その質問に返答はなく、彼は頭を支えながら魔蛭を見下ろしている。


 隣にはまだ目を閉じている魔蛭が倒れ込んでいた。だが、苦しんでいる様子もなく、ただ寝ているだけのように見える。

 その様子にムカついたのか、明人は魔蛭の鼻をつまむ。その際「フガッ」という変な声を出したため、彼は鼻で笑った。


「明人?」


 明人の様子を変に思い、カクリは首を傾げながら名前を呼ぶ。


「カクリ、こいつを拉致るぞ」

「わかっ──は?」


 やっとカクリの言葉に反応したかと思うと、何故か物騒な事を口にし始める。いつものノリで返事をしようとしたカクリだったが、内容を理解すると抜けた声を出し明人を凝視した。


「今は──あぁ、さすがに縄とか拘束具はないか」

「なぜそんなに残念そうなのだ……」

「残念だからな」


 明人が何かを考え始めようとした時、魔蛭が目を覚ました。カクリは明人の前に立ち、守るように魔蛭の行動を見る。


 目を覚ました《《真陽留》》は、上半身をゆっくりと起こす。頭がぼぉっとするため、右手で眉間を抑えた。

 肌は元の色に戻っており、明人に目線を向けるも、先程みたいに襲ってくる気配はない。何か言いたげに見つめているだけだ。口を何度か開けるが、すぐに閉ざす。それの繰り返しなため、明人はめんどくさそうに言った。


「なんだ。言いたい事があるならはっきりと言え。金魚か何かかお前は。いや、金魚に可哀想だな。もっと他の例えにしよう」

()()お前の頭の中が可哀想に感じるよ。そうやって人を馬鹿にするしか出来ないその脳に同情してしまう」

「安心しろ。赤点ばっかり出していたお前よりは安心できる」

「うるせぇよ!! その事については忘れてやがれ!!」


 真陽留は普通に明人と話しており、明人自身も気が抜けており、警戒心を全く感じない。その事に、カクリは驚きを隠せず、ポカンと口を開き二人を凝視していた。


「アホ面晒してねぇで小屋に戻んぞ。さすがに疲れた」


 明人は立ち上がろうとするも、体がふらついてしまい膝に手を着く。

 カクリが手を貸そうと伸ばした時、真陽留が先に自身の肩に彼の腕を回した。


「あ、明人から離れろ!!!」

「…………もう、何もしねぇよ」


 カクリを見ず、真陽留は小さな声で言った。


 明人も「ちっ」と舌打ちしたあと、顔を逸らした。彼が拒もうとしなかったため、カクリはこれ以上、何も言えなかった。


 ☆


 三人は何も話さないまま、小屋へと辿り着いた。明人をソファーに寝かし、真陽留は背もたれに寄りかかる。


「相当辛いらしいな。今のお前の姿を見れただけ、今回は得だったな」

「誰のせいだと思ってやがる。俺はか弱くて儚い可哀想な人間だぞ。少しは気を使いやがれ」

「か弱い人間はここにいないから気を使う必要が無いな」


 二人の素っ気ない会話を、カクリはまだ警戒心を解かずに聞いていた。直ぐに明人を助けられるように、手には分厚い本を持ち、真陽留を睨んでいる。


「まさかお前。僕がこいつに何かしようとした時、その本を投げたりする訳じゃないだろうな?」


 カクリの持っている本を見て苦笑いを浮かべながら、真陽留はそっと問いかける。それに対し、カクリは包み隠さず小さく頷いた。


「遠慮する必要は無い。カクリ、今すぐ投げろ」

「了解だ」

「待て、了解するな」


 明人の許可を得る事が出来たため、カクリは遠慮なく投げようと、両手で図鑑程の厚みはある本を頭の上まで振り上げた。


「そ、それより、この後どうするつもりだ? 相想は少し、記憶を思い出したみたいだし、想いを音禰に伝えるのか?」


 なんとか話題を切り替えようと、必死に真陽留は明人に声をかける。カクリは本を振り上げた体勢のまま、明人に目を向けた。


「それなんだけどよ──」


 明人は寝っ転がりながら、いつもの口調で口を開いた。


「ん?」


 真陽留も彼の次の言葉を待っている。

 二人は次の言葉を聞いた時、予想外だったらしくその場に固まってしまった。


「俺、あの女が好きなのか知らん」

ここまで読んでいただきありがとうございます

次回も読んで頂けると嬉しいです


出来れば評価などよろしくお願いします(❁´ω`❁)

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