「変態」
小屋の中には、本を捲る音と寝息が響いている。
いつもの如く、カクリは椅子に座り本を読み、明人はソファーの上で本を頭に乗せ眠っていた。
明人の目は、前回のトラブルにより赤いままで、五芒星も黒く光っており、まだ元の漆黒に戻っていない。だが、視界は元に戻ったらしく、彼自身、普段隠しているため気にしていない。だが、何故か最近だと、今までより寝て過ごす時間が多くなっていた。
依頼人も来ないため、明人はゆっくりと時間を過ごしていた。
そんな彼の生活に対し、カクリは不安を感じているらしく、本を読みながらも、視線をチラチラと向けていた。
「…………。明人はここ最近寝てばかりだ。疲れているのか、私の力が明人を苦しめているのか。分からぬな」
そう呟き、少年の姿をしているカクリは本をテーブルに置き、明人の隣に移動した。
「明人よ。まだ起きぬのか? 最近寝てばかりだが、体調悪いのかい?」
そう質問するも返答はない。寝息だけが静かな小屋の中に響く。
カクリは溜息をつき、再度椅子に座ろうと振り返るが、歩き出そうとしない。
「───呪い」
そう小さく呟くと、カクリは明人のお腹辺りに目を向けた。
「最近では、肩に痛みなどは走っていないようだが、呪いは少しずつでも、明人の体を侵食しているはず。まさか、真っ黒になっていないだろうな」
怪訝そうにカクリは、おそるおそる明人の白いポロシャツの裾を掴み、ゆっくりと捲った。
中を覗き込むと、腰あたりは黒く変色しているが、全身真っ黒にはなっていなかった。だが、それでも今は右胸辺りまで侵食してしまっている。
これ以上時間が経てば、明人の体は呪いに蝕まれ命を落とすだろう。
カクリは明人の体を心配そうに見て、そっと服から手を離そうと視線を上げた時──
「お前、俺の体見て何してんだ?」
いつの間にか目を覚ましていたらしく、明人が目を丸くしてカクリを見ていた。
さすがに予想外だったらしく、明人も驚きを隠せなかったらしい。だが、それはカクリも同じことだったらしく、服を掴んだままの体勢で固まっていた。
「あき、と。いや、これには深い意味は無い。気にすることではない」
焦りながらそう口にするカクリは、彼から目線を逸らし手を振るえさせながらも、そっと裾から手を離した。
「────変態」
「では無いから安心するが良い。呪いが気になっただけだ」
「人の寝込み襲うなんぞ最低だな。俺が美しすぎるからって見惚れてんじゃねぇよ。糞ガキはお断りだ」
明人はそのままソファーに座り直し、欠伸をこぼしながらカクリにそう告げる。
「私も願い下げた」
そう言うと、カクリは椅子に戻り本に手を伸ばしたが、その手を途中で止めてしまった。
「明人よ。体に異変はないのかい? 今まで変わったことや、痛む所などは──」
「うぜぇわ。問題ねぇし、めんどくせぇ。俺のことは俺自身が一番わかってんだよ。いちいち心配すんな」
イラつきながら彼はそう言い放ち、その場から立ち上がり奥の部屋へと移動してしまう。
カクリはその背中を見て、小さくため息をついていた。
「まったく。わかっておらんから──いや、分かってはいそうか。ただ、無理をしているだけか」
諦めたように、カクリは再度本を読み始めたが、集中できていないらしくすぐに閉じてしまった。
「呪いについて、もう少し調べた方が良さそうだな」
本をテーブルに再度置き、明人の後ろを追うように奥の部屋へと姿を消した。
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