「邪魔しに行くぞ」
次に目を覚ました時、誠也は1人で暗闇の空間に投げ出されていた。
「なっ。ここ、どこだよ」
いきなり何も無い空間に立たされ、誠也は唖然と立ち尽くしてしまう。
周りを見ても暗いだけで何もない。
「なんで。俺はなんでこんな所に立ってんだ? いや、立ってん──だよな? なんでこんなに暗いんだよ。そして、なんで何も無い……」
周りを見回したり、歩いてみたりとなにか無いか探している。だが、暗闇の中には目印になる物や壁、地面などはない。
誠也は苦虫を潰したような表情を浮かべているため、何も感じることや、見つけ出すことすら出来なかったのだろう。
「一体、なんなんだよ……。おい、出てこいよ!!! 誰だか知らねぇが、こんなことしてどうなるか分かってんのかよ!!!」
周りに怒りのまま叫び散らすが、何も返ってこない。すると、誠也の後ろがいきなり淡く光り輝いた。そこからカクリが眉間に皺を寄せ現れる。
「ここは君のきお──」
カクリがいつものように説明しようとした時、誠也は勢いよく振り向き両肩を力強く掴んだ。その事に痛みが走ったのか、顔を少し歪ませ彼を見上げる。
「てめぇ!! 俺に何をしやがった!! 今すぐここから出しやがれ!」
そう叫び散らす誠也だが、その様子を気にせずカクリは続きを話し出した。
「……ここは君の記憶の中。そして、その記憶は君の想いによって黒く塗り潰されている。これを浄化するには──」
カクリは淡々と説明を続けるが、誠也はそれを聞いていないのか血走った目で睨み続けている。そして、掴んでいたカクリの両肩により一層力を込めた。
その時、肩に目線を送り、離させようと彼の手を掴む。
「っ! おい、何をする」
「さっさとここから出せ。ここの説明なんざどうでもいいんだよ!!!」
その様子に、カクリは諦めたのか「わかった」と一言告げ、右手を鳴らした。すると、彼の姿は闇の中へと溶け込まれるように消えいき、掴んでいた手は空を切った。
「なっ!? あの餓鬼、逃げやがった」
誠也がカクリを見つけようと周りを忙しなく見回していると、暗闇の空間に明人の声が鳴り響いた。
『せっかく最後のチャンスを与えたというのに、それを自分で無駄にしやがった。哀れな奴だな』
明人の、人を馬鹿にする笑い声がなり響き、誠也はそれに対して感情のままぶつけた。
「ふざけるな!! こんな所にいきなり連れてきやがって!! こんなの犯罪だろうが!!」
『そんなの俺には関係ねぇな。それじゃ、チャンスをものに出来なかったお前に、俺からのサプライズだ』
「なにっ!?」
誠也が驚きその場に立ち尽くしていると、彼の笑い声が再度鳴り響いた。そして────
『お前の匣を頂くぞ』
闇の中から突如として現れた明人が両目で誠也を捉え、胸あたりに右手を押し付けた。
「やっ、やめろぉぉぉぉおおお!!!」
「もう、遅い」
誠也の悲痛の叫びと、明人の楽しげな声が暗闇の中に鳴り響いた。
明人は部屋の中で目を覚まし、周りを見回した。
「………ふぅ。今回はこんな結末な。これは誠也って奴の『優しさ』が黒くなった匣──か。自分が助かりたいと願うばかりに、消えてしまった綺麗な匣。哀れだな」
疲れたように溜息をつき、頭を支えた。
「大丈夫か、明人よ」
カクリは明人に近づき、心配するように顔を覗き込んだ。それを、面倒くさそうな表情で払い除け、彼は立ち上がりその場を後にしようと歩き出した。だが──
「! 明人!!」
「っつ!!」
体がよろけてしまい、その場で膝をついてしまった。さすがに疲れたのだろう。息が絶え絶えで、顔を青くしている。
「匣を1度に2つも取り除いたのだ。無理もない。今は少し休んだ方が良い」
「いや、ここにはもう用はない。早く出ていくぞ」
「しかし……」
カクリが口を開くが、それを気にせず明人はそのままドアを潜り外へと向かってしまった。
「…………無理しても意味などないだろう」
そう零し、カクリも置いていかれないように彼の後ろをついて行った。
人気のない住宅街を、カクリは明人を支えながら歩いていた。その際、彼は自身の前髪を気にしているのか、右手で整えようとしている。
「短くなったな」
「うるせぇわ。つーか、どうしてくれんだよこれ。髪は女だけじゃなく男も命そのものなんだよ。ふざけてんな。あいつの髪も丸坊主にしてから出てくればよかった」
「そのようなことをしても意味は無いだろう」
そんなことを話しながら歩いていると、大きな道に出たため人通りが多くなった。
明人は少しだけ体力が回復したらしく、カクリから離れ自力で歩き出す。
「大丈夫なのかい?」
「問題ねぇわ」
右目に刻まれている五芒星が他の人に見られないように、明人は乱雑に切られた前髪を集めた。幸い、すごく短く切られたわけではなかったため目元は隠すことが出来た。
「さっさと帰るか……」
「そうだ──な?」
カクリがその場に立ち止まり、いきなり後ろを振り向いた。明人も一緒に立ち止まり声をかけようと後ろを向いた時──
「──追うぞ」
「だが、今回ベルゼは不在らしいぞ。あの人間だけということは何もしてこないと思うのだが」
明人達の後ろには、悪陣魔蛭が歩いていた。
「あっちはまだ気づいてないらしいな。まぁ、人通りが多いから当然か。あいつが向かっている先には何があるんだろうなぁ」
楽しげにそう話す明人は口角を上げ、何か企んでいる表情を浮かべている。
その様子を見てカクリは嫌な予感がしたのか、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた。
「何をしているか知らんが。あいつの楽しい楽しいプライベートを邪魔しに行くぞ」
「本音がダダ漏れなのだが……」
カクリはため息つき、明人と共に魔蛭の後ろを着いて行った。
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