6.お披露目会
「皆様、此度は私の誕生日会に足をお運び頂き感謝いたします。未熟者ではありますが、第一王子として日々精進してまいりますのでよろしくお願いいたします。」
あれから月日が経ち、私は五歳となった。今日は私の誕生日会とお披露目会を兼ねたパーティだ。
結局、私が泣いたせいでセシルは側室としての意味を完全に失い精神を病み食事を取らなくなり衰弱死してしまった。弟達には詳細が伝えられていないらしく双子を産んだための衰弱死と思っているらしい。今は仲が悪い訳ではないが、この事が知られればこの仲はすぐに崩壊してしまうだろう。
「リシャール様、素晴らしいご挨拶でした。」
嬉しそうに微笑みながら話しかけてくるのはセバスチャン。父が私の従者として任命した。若くはないが年老いている訳でもない男。有能な者の中で私が一人前の王として席に付くまで傍にいられる様な人物を選んだのだろう。
「セバス、僕はいずれ王となるのだ。あれ位はできなければ。」
「そうでございますか。」
私の一挙一動をセバスは嬉しそうに見守る。まるで孫を見ている祖父の様だ。髪に多少白髪が混ざっている程度の年齢だが祖父にしてはやや若いかもしれないが。
「今回のパーティはリシャール様のお披露目だけでなく婚約者や従者を見定める者でございます。良き方がいらっしゃれば、この私めにお知らせ下さい。」
「うん、分かっている。」
このパーティを前にセバスから色々と王族としての知識を叩き込まれた。基本的には予想していた事とあまり変わらなかったが一つだけ予想外な物があった。それは王としての務めが果たせるのであれば正室に性別は関係ないという事だ。流石に男が子を産む事はできないが側室に産ませれば良いという考えらしい。そのため婚約者も男女のどちらでも構わないと。
ノーマルな乙女ゲームの世界の常識がこんな事になっているとは誰が考えるか。一応、正室が女性である事が望ましいという概念はあるらしい。例え男でも忌避観は持たれる事は一切ないのだ。知った時は酷く驚いた。
セバスは従者にしたい者も探しておけと言っていたがこの時期にそんな事が分かるのだろうか。
この世界ではスキル鑑定を七歳になった時に神殿で行う。それまでは魔法使いと剣士、どちらに進んでも必要とされる知識を得たり体力をつけたり、この世界の歴史や常識を学んだりする。その後スキル鑑定の結果と自身の好みで進む道を選びそれに必要な事を学んでいくのが主流だ。そのため、この時期に秀でた者が他の者にどんどん追い抜かされる事などざらにあるらしい。
そんな時期に進んで選ぶ必要があるのか?従者の中には主の暇潰しの相手をするために多くの知識を持つ者もいるらしいが、それこそこの歳で優劣が判断できるのだろうか。
「リシャール様、私お水の魔法が使えますの。きらきら光ってとても綺麗なのですよ。」
「リシャール様、私はお花を咲かせられますわ。色んな色のお花ですの。」
「リシャール様、僕は剣が得意なのです。先生からも褒められているんですよ。」
「リシャール様、僕は本が好きなのです。沢山の物語を知っていますよ。」
……不愉快だ。私の中でリシャールが呟く。
数年生きている中で確信したのだけれど、私の中には原作と同じリシャールが生きている――私の知識による影響で多少成長は早いようだが――。彼が私の言葉を彼の言葉に変え発言させてくれている。しかし私の感情が高ぶると彼がそれに強く共鳴してしまい、リシャールが前面に出てきてしまう。その間は私が言動を制御することができなくなってしまう。
また、彼の好みも私に影響を及ぼしている。今回もそれが起きている。元々私は他人に気安く名前を呼ばれる事は好きではなかったけれど憤りまで感じなかった。確実にリシャールの影響と言えるだろう。
「リシャール殿下、私の息子は大変優秀でして。殿下の優れた剣となるでしょう。」
「私の息子も有能ですぞ。あれは優れた辞書になれるでしょう。」
「私の娘はため息をつく程可愛らしいのです。ぜひ一度お会いして頂きたい。」
……同じセリフの繰り返し。つまらない。元より興味のない人物の話の上に、言っている事はほとんど同じ。男ならば剣や知識が優れている事、女ならば綺麗な物を出せる事を話すだけ。多少言い回しは違えど根本は同じだ。
目をギラギラ光らせ、見据えているのは私ではなく私の持つ力。そうなるであろう事は最初から分かってはいたが、これ程までに醜いとは思わなかった。大人だけならばまだしも子供達までとは。せめて私好みの見目をしているのならば良かったのだけれど、そういう訳でもない。確かに整った顔ではあるものの、醜さが隠れる程でもない。服装も似たり寄ったり。大方、流行を取り入れただけだろう。体形に合っていない者もいるし、美的センスがないとしか思えない者もいる。美しくない。
「リシャール様、陛下がお呼びでございます。」
「セバスか。……分かった、今行く。」
やっとここから離れられる。私の周りに集まっていた者達は名残惜しそうな目で見てくる。だが、興味ないために無視だ。
「何かございましたか。お怒りの様ですが。」
「……親しくもない者に名を呼ばれるのが不愉快なだけだ。」
「名前をお呼びしないとすると、どのように弟君との差異をつけましょうか。」
「第一王子で良いだろう。この国で第一王子は僕しかいないから。」
そういえば、ゲーム内でもリシャールは周りから第一王子としか呼ばれていなかったな。もしや、原作でもこの様な提案をしたのだろうか。嫌われているのかと思っていた。もしくは近寄りがたい存在と思われているのかと。
「では第一王子様、陛下がダンスを踊るお相手をご用意された様です。」
「そうか。踊りたい相手がいなかったから丁度良かった。
……それとセバス。僕は親しくない者に名を呼ばれる事が不愉快だと言っただけだ。僕の従者であるお前に呼ばれる事が不愉快な訳ないだろう。」
「リシャール様……」
何やら嬉しそうに見られているが、これは私のためだ、リシャールは周りの人間に名前を呼ばれなくとも孤独を感じる事はなかったのかもしれないが、私には友人達と過ごした記憶がある分そんな事には耐えられそうにない。例え私の発言がセバスにとって喜ばしくとも、それは全て私のエゴだ。