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俺、行動すんの?

「タケルー、腹減った。メシ下さい」

「お、ジェイ。今起きたのか、もう昼だぜ?」


ゴツイ身体のアメリカ人、ジェイは隣の部屋に住んでる、徒歩五分圏内にある大学のアメフト部の学生だ。

こんなことになる前は、挨拶する程度の仲だったけれど、被害甚大になった今では、ベランダの境界を破壊して行き来するようになっている。

こんな状況下で、会話が出来る存在がいることがありがたい。


一階層に三部屋、四階建てのマンションの二階。他の階層は知らねぇけれど、反対側の隣の部屋は、きっと無人だ。


例の栄養ドリンクを飲みすぎた奴らが発症し、当時テレビでは狂犬病再来などとテロップが流れ、暴徒と化したゾンビどもを映し出していたけれど、今は電源すら入らない。


「タケルがお隣で良かったデース」


ニコニコしながらカップ麺を頬張る、巨体の男。

これが映画とかゲームなら、めちゃくちゃスタイルが良い、際どい格好をした女子が仲間になってるところなのに、さすがは現実。

ぶっちゃけ、コミュ障な俺が一歩も二歩も引いて接してるのに、グイグイ来る態度は正直嫌いじゃないのも事実だ。


「あと一ヶ月は保つと思うけどさ、それまでには現状打破したいよな」

「ゲンジョーダハ?」

「・・・あー、なんとかしたいなってことだよ」


早い段階で、ジェイの通ってる大学は門を閉めている。

聞けば夜10時の時点で、警備員がすべての門を閉めた後、施錠しているそうだ。


パンデミックが起こったのは深夜帯と言われている。


警備員が発症していても、多分その数は少ないだろう。

新たに、中にゾンビ共が入ってるようには見えないし、大学構内には食堂や規模は小さいけれどコンビにもあった。なんとかそこに移動できないものかと考えるけれど、減ったゾンビ個体数にも尻込みする。奴らに噛まれたり引っ掻かれた人達は、みんなゾンビになっていったし。


・・・テンプレだよな。生きたまま喰われんのはゴメンだ。


徒歩10分程にある複合型スーパーはどうなっているだろう?

ドラッグストアや百円ショップ、規模は小さいけれど電器屋も入ってる。映画だとショッピングモールに籠城、なんてのもあるけれど、近所で助かった人達は皆、そこへ向かったと思う。だとすると、周りはゾンビだらけだろうし、中にいる人がドアなりシャッターなり開けてくれるとは思えない。

自分から現状打破なんて言っておきながら、なんとも手詰まり感はある。


「タケル、また一人で難しい顔してる。ダイジョーブ、助けは来るヨ!」

「…無理だろ?」


一言で。この言葉は自分でも分かっているけれど、認めたくないけれど、だけど。口にして、初めて自身で認めてしまった。

自衛隊だって動けているはずだ。それこそ、近隣諸国の精鋭部隊も、だ。なのに、ギリギリまで得られていた情報では実際に動いた気配はない。


「多分だけど、例の栄養ドリンクは世界の主要都市でも売られてたって聞いたことがある。各国の猛者共も、服用してたら、どうなる?」


ジェイの瞳に、仄暗い影が射したように見えた、その時だった。

外から、異様なほどの断末魔。

二人で急ぎベランダへ出ると、土砂降りの雨に打たれ、悶絶するように倒れこむ、数は減りこそしたゾンビ達。


「ねぇ、タケル・・・?」

「あぁ。俺も、同じこと考えてる」


雨の中、異様な断末魔的な声を上げて動きが止まったゾンビ。

このくらいの雨の中なら、ずっと門を閉ざしている大学構内へ移動可能なんじゃないかと。生存者が他にもいれば、協力できるのでは?


「構内に…ジェイの知り合い、いるんじゃねぇ?」

「デスね」


二人で大きめのバッグを持ち寄って、いくつかの食料と道具を詰め込む。ジェイは、部活で使っているアメフトのヘルメットを装備済みだ。こうしてみると、まぁ、なかなか頼り甲斐がある。


「施錠はするとして、玄関から出ても大丈夫だろうか」

「襲ってきたら、これで殴りマスよ」


ジェイの片手には、金属バット。

・・・って、お前はアメフト部じゃねぇのかよ・・・


ドアスコープから外の様子を確認するけれど、奴らの気配はない。音も聞こえないから、ジェイと目配せをして、静かにドアを開ける。

久々にマンションの廊下に出たけれど、酷いモンだ。血液と一緒に引きずられた跡、壁の至る所に散りばめられているどす黒く変色した手形。臭いは篭っていて最悪の状態だ。マスクしていても意味はないけれど、多少マシになっていると思いたい。


ジェイはヘルメット、俺は雨合羽を装備して大学へと向かう。道すがら、数々の死体と雨に打たれ悶えているゾンビ共を横目にジェイが言っていた、門が閉まっていても唯一入れそうな、自転車の侵入を防ぐための車両どめのある場所に到着した。


「これに乗って、門にジャーンプ!」

「悪ぃけど、先に頼む。俺、あんま運動神経良い方じゃねぇし。雨だし滑るだろ、絶対」

「オッケー。じゃ、お手本見せるからワタシの真似して下さいネ」


目の前で軽々と門の向こうへと移動したジェイを見つつ、どう手本にすりゃ良いんだと毒づきながら、手のひらの雨を拭う。


落ち着け、飛べ、俺。

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